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記憶の帰還6
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向かい合うマスターとエミルの後ろで、殺気を放ちながらなおも睨み合うイシェル達も、その質問には興味があるのか聞き耳を立てている。少しの沈黙の後、マスターは大きくため息を漏らすとその重い口を開いた。
「はぁ……分かった。儂と奴等との関係は全てを話そう……このままでは内部分裂しかねんからな……」
「……そうですか」
その優しい声色にエミルの表情も少しだが和らぐ。
マスターは周りのメンバー達にも席に座るように促した。その言葉に皆も素直に席に着く、なんだかんだでその場に居た全員が気になっていた。ということなのだろう。
深く椅子に腰掛けたマスターが、ゆったりとした口調で話し出す。
「そう、あれはまだこの事件が発生する前の事だ――どこからともなく儂の噂を聞きつけ、儂のやっている道場にやって来た者がおった。そやつが儂に依頼をしてきたのだ……だが、その男は依頼してきた者の使いだと言っておってな。儂は一度は断ったのだ『自ら姿を表さない者と交渉などできるはずがない。顔を洗って出直してこい』とな……」
腕を組んだマスターは感慨に耽るように、徐に天井を見上げた。
しばらくして、再び口を開くマスターが言葉を続ける。
「その数日後……今度は儂の手元に、一通のエアメールが届いた。そこには『先日の無礼を許してもらいたい。だが、海外に居るために、こちら側に出向くことはできない。そこで、ゲーム内での取引を行いたい』という感じの内容が書いてあった。もちろん、儂はゲーム内で会うことを了承した――」
「――どうしてですか? 師匠」
我慢できなかったのだろう。カレンがマスターの話を遮り、小首を傾げながら尋ねてきた。
含み笑いを浮かべたマスターが、不思議そうにしている愛弟子の方を向いて。
「ふふっ、それはその男に、いくらか興味があったからだ。待ち合わせ場所の街外れの荒れ果てた崖の上に現れたのは武装もしない。青いパーカーを着た男だった。私服で現れたのは自分が武装していないことを証明する為だったのだろう……だが、その時の行動が、儂は逆に怪しいと感じていたのだ――警戒する儂に奴は微笑みながらこう言った『まずは仕事の話は抜きにして飲みましょう』とな……もちろん最初は変な奴だと思った。盃を持って酒を数回酌み交わす中で、儂は奴がどういう人物なのかを感じ取っていたのかもしれん。ゲーム内とはいえ。いや、ゲーム内だからこそ、奴の人柄が良く分かったのかもしれんな……儂は、その男の依頼を受けた――それが、ダークブレットの日本支部の壊滅または半壊させ、しばらくは再起をかけられないようにするというものだ……手応えのある者はいなかったが、雑魚も数が揃えばそれなりに手応えはある。儂も加減を忘れて敵の拠点にいた殆どの奴を撃破し、一時は再起不能にまで追い込んでやったわ!」
口を大きく開いて豪快に高笑いするマスターに、周りのメンバー達は全てを悟った。
そう。ダークブレットのアジトを襲撃した時にマスターが参加しなかったのは、前回の強襲でマスターが主要な敵を撃破し、日本支部の戦力を把握していたからだ。
だからこそ、エミル達で事足りると見たマスターは今回の戦闘には介入しなかった。
おそらく。メルディウス達を差し向けたのも、今後の為に彼等もエミル達と顔合わせをしておいた方がいいと考えたからだろう。それは、エミル達の戦力で十分に成し遂げられると確信していたからに他ならない。
また、彼の圧倒的な強さに、ダークブレット事態を脱退したメンバーも少なからずいたはずであり、今回の作戦の成功には事前に戦力を剥いでくれていた彼の以前の戦闘の功績も少なからず入っているのだ……。
ふと、エミルがマスターに言葉を投げ掛ける。
「それで、マスターは今までどちらに?」
そう尋ねたエミルの瞳はどこか、マスターの真意を探るような鋭くそして冷たく思えた。マスターに疑惑の目が向けられていることを察して、隣に座っていたカレンが声を上げる。
「師匠はなにも悪くない! 俺が不覚にもダークブレットとの戦闘で油断して負傷してしまい。近くの宿屋で受けた傷を癒やしていただけです!」
テーブルを叩き立ち上がったカレンは、真っ直ぐにエミルの目を見た。
エミルは頷きながらため息を漏らすと、カレンの透き通った瞳を見つめた。彼女のその眼差しは、カレンの心を見透かすかの様に鋭く思わずカレンの額から汗が流れる。
だが、エミルからは決して視線を逸らそうとしない。今、目を逸らせば間違いなくエミルがマスターを敵視すると分かっていたからだ。
彼女としてもそれだけは、何としても避けなければならない。
何とも言えない緊張感の中で微動だにできなかった。そんな時、隣の寝室からエリエとミレイニが何も知らずに出てくる。
エリエの腕にしっかりと抱き付いているミレイニが、リビングのテーブルで話をしていたエミル達を指差した。
「皆で何してるんだし? なにか……んんっ!」
しゃがんだエリエは咄嗟にミレイニの口を塞いで苦笑いを浮かべた。それは話を聞かなくても、ピリピリとした空気感で大体のことは把握できたからに他ならない。
空気を読むのが苦手なミレイニに、今好き勝手言われればこの場が更に悪化しかねない。
エミルは横目でエリエ達を見ると、小さくため息を吐いて肩の力を抜く。
「はぁ……そうね。カレンさんは嘘を言っていないみたいだし、ここでは真意を追求するのは控えましょう」
エミルはそう言ってはいたが、もちろんその本心は違う。それはカレンとマスターも重々承知していた。
結局のところ、マスターがエミル達に黙っていたという事実に変わりはない。しかも、元仲間だったライラが星を連れ去った事実が、エミルとマスターの絆に亀裂を入れたのは間違いないだろう。
おそらく。エミルがこの場での追求を避けたのは、エリエとミレイニの出現が大きく関わっていた。
いや、それも少し違うのかもしれない――本当はまだ幼さの残るミレイニの顔が、不安で歪むのを見たくなかったのかもしれない。
「はぁ……分かった。儂と奴等との関係は全てを話そう……このままでは内部分裂しかねんからな……」
「……そうですか」
その優しい声色にエミルの表情も少しだが和らぐ。
マスターは周りのメンバー達にも席に座るように促した。その言葉に皆も素直に席に着く、なんだかんだでその場に居た全員が気になっていた。ということなのだろう。
深く椅子に腰掛けたマスターが、ゆったりとした口調で話し出す。
「そう、あれはまだこの事件が発生する前の事だ――どこからともなく儂の噂を聞きつけ、儂のやっている道場にやって来た者がおった。そやつが儂に依頼をしてきたのだ……だが、その男は依頼してきた者の使いだと言っておってな。儂は一度は断ったのだ『自ら姿を表さない者と交渉などできるはずがない。顔を洗って出直してこい』とな……」
腕を組んだマスターは感慨に耽るように、徐に天井を見上げた。
しばらくして、再び口を開くマスターが言葉を続ける。
「その数日後……今度は儂の手元に、一通のエアメールが届いた。そこには『先日の無礼を許してもらいたい。だが、海外に居るために、こちら側に出向くことはできない。そこで、ゲーム内での取引を行いたい』という感じの内容が書いてあった。もちろん、儂はゲーム内で会うことを了承した――」
「――どうしてですか? 師匠」
我慢できなかったのだろう。カレンがマスターの話を遮り、小首を傾げながら尋ねてきた。
含み笑いを浮かべたマスターが、不思議そうにしている愛弟子の方を向いて。
「ふふっ、それはその男に、いくらか興味があったからだ。待ち合わせ場所の街外れの荒れ果てた崖の上に現れたのは武装もしない。青いパーカーを着た男だった。私服で現れたのは自分が武装していないことを証明する為だったのだろう……だが、その時の行動が、儂は逆に怪しいと感じていたのだ――警戒する儂に奴は微笑みながらこう言った『まずは仕事の話は抜きにして飲みましょう』とな……もちろん最初は変な奴だと思った。盃を持って酒を数回酌み交わす中で、儂は奴がどういう人物なのかを感じ取っていたのかもしれん。ゲーム内とはいえ。いや、ゲーム内だからこそ、奴の人柄が良く分かったのかもしれんな……儂は、その男の依頼を受けた――それが、ダークブレットの日本支部の壊滅または半壊させ、しばらくは再起をかけられないようにするというものだ……手応えのある者はいなかったが、雑魚も数が揃えばそれなりに手応えはある。儂も加減を忘れて敵の拠点にいた殆どの奴を撃破し、一時は再起不能にまで追い込んでやったわ!」
口を大きく開いて豪快に高笑いするマスターに、周りのメンバー達は全てを悟った。
そう。ダークブレットのアジトを襲撃した時にマスターが参加しなかったのは、前回の強襲でマスターが主要な敵を撃破し、日本支部の戦力を把握していたからだ。
だからこそ、エミル達で事足りると見たマスターは今回の戦闘には介入しなかった。
おそらく。メルディウス達を差し向けたのも、今後の為に彼等もエミル達と顔合わせをしておいた方がいいと考えたからだろう。それは、エミル達の戦力で十分に成し遂げられると確信していたからに他ならない。
また、彼の圧倒的な強さに、ダークブレット事態を脱退したメンバーも少なからずいたはずであり、今回の作戦の成功には事前に戦力を剥いでくれていた彼の以前の戦闘の功績も少なからず入っているのだ……。
ふと、エミルがマスターに言葉を投げ掛ける。
「それで、マスターは今までどちらに?」
そう尋ねたエミルの瞳はどこか、マスターの真意を探るような鋭くそして冷たく思えた。マスターに疑惑の目が向けられていることを察して、隣に座っていたカレンが声を上げる。
「師匠はなにも悪くない! 俺が不覚にもダークブレットとの戦闘で油断して負傷してしまい。近くの宿屋で受けた傷を癒やしていただけです!」
テーブルを叩き立ち上がったカレンは、真っ直ぐにエミルの目を見た。
エミルは頷きながらため息を漏らすと、カレンの透き通った瞳を見つめた。彼女のその眼差しは、カレンの心を見透かすかの様に鋭く思わずカレンの額から汗が流れる。
だが、エミルからは決して視線を逸らそうとしない。今、目を逸らせば間違いなくエミルがマスターを敵視すると分かっていたからだ。
彼女としてもそれだけは、何としても避けなければならない。
何とも言えない緊張感の中で微動だにできなかった。そんな時、隣の寝室からエリエとミレイニが何も知らずに出てくる。
エリエの腕にしっかりと抱き付いているミレイニが、リビングのテーブルで話をしていたエミル達を指差した。
「皆で何してるんだし? なにか……んんっ!」
しゃがんだエリエは咄嗟にミレイニの口を塞いで苦笑いを浮かべた。それは話を聞かなくても、ピリピリとした空気感で大体のことは把握できたからに他ならない。
空気を読むのが苦手なミレイニに、今好き勝手言われればこの場が更に悪化しかねない。
エミルは横目でエリエ達を見ると、小さくため息を吐いて肩の力を抜く。
「はぁ……そうね。カレンさんは嘘を言っていないみたいだし、ここでは真意を追求するのは控えましょう」
エミルはそう言ってはいたが、もちろんその本心は違う。それはカレンとマスターも重々承知していた。
結局のところ、マスターがエミル達に黙っていたという事実に変わりはない。しかも、元仲間だったライラが星を連れ去った事実が、エミルとマスターの絆に亀裂を入れたのは間違いないだろう。
おそらく。エミルがこの場での追求を避けたのは、エリエとミレイニの出現が大きく関わっていた。
いや、それも少し違うのかもしれない――本当はまだ幼さの残るミレイニの顔が、不安で歪むのを見たくなかったのかもしれない。
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