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記憶の帰還4

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 エリエの母国では頬にキスをするのは挨拶のようなもの、それをしたことでミレイニをここに留められるなら安いものだ。

 頬にキスされて満足したのかミレイニは、嬉しそうに微笑みを浮かべ、エリエの腕にしっかりとしがみついている。

「ふふ~ん。やっぱりエリエはあたしの事好きなんだし~」
「あはは……そ、そうかもねぇ……」
(この子が単純で良かったけど、ここまで懐かれるのは予想外かも……)
 
 エリエはべったりと張り付いてくるミレイニに、苦笑いを浮かべながらそう思っていた。
 抱き付いたまま、一向に離れようとしないミレイニに少し呆れ顔でため息を漏らすと、小さな小窓から差している夕日の光を見つめた。          
 
 エリエが隣の寝室に姿を消してしばらくの間は、落ち込むエミルをイシェルが落ち着かせるような状況が続いていたのだが、その甲斐もなく椅子に腰を下ろして項垂れ、両手で顔を覆ったままエミルは自分を責め続けていた。

 だが、それも無理はない。ライラにいい様にあしらわれただけでなく、守るはずの星を彼女に奪われた。
 それはエミルの心のどこかで、昔の仲間だと思って少しライラのことを警戒しなさ過ぎたのかもしれない。

 この状況下で、不確定な要素を持ち合わせている人間と接触し。あまつさえ、城の中への侵入を許すなど……無警戒過ぎたのだ。

「私がもっとしっかりしていれば……」
「エミル。あかんよ? なんぼ自分を責めたかて、どないにもならん状況はあるんやから……」
「……でも」

 相当星を取り戻せなかったことを後悔しているのだろう、エミルは瞼を真っ赤に腫らしながら泣き続けている。

 がっくりと肩を落とし項垂れたまま、静かに泣き続けるエミル。

 そんな彼女の頭を優しく撫でながら、落ち着かせる様な声音でイシェルが口を開く。

「――エミルだけのせいやない。うちもなんもできひんかったことやし、エミルは一生懸命やっとったよ? いつも見てるうちが言うんや間違いあらへん」

 彼女のその言葉に、エミルの瞳から更に止めどなく涙が溢れ出てイシェルに凭れる。イシェルは肩を震わせて泣くエミルを優しく両腕で抱き寄せた。

 そんな時、突如として扉が開き、そこからマスターとカレンが部屋に入ってきた。

 部屋に入ってきたカレンが、リビングで泣いているエミルを見て驚いた様な表情をして足を止めた。

「ど、どうしたんですか!?」
「……な、なんでもないの……それよりも、無事で良かったわカレンさん」

 エミルは慌てて涙を拭って平静を装うと、困惑しているカレンに向かってぎこちなく微笑む。

 しかし、理由もなくエミルが泣いているわけがない。その様子から大体の事情を察したカレンの表情が次第に険しくなりエミルに尋ねた。

「……星ちゃんの事ですか?」
「…………」

 無言のまま、俯くエミルにカレンもそれ以上は何も聞けずに、その空間に気まずい雰囲気が流れていた。
 それも無理はない。おそらくカレンよりも辛い思いをしているのはエミルだということを、普段の2人の様子を見ていればカレンにも分からないわけがない。

 無言のまま互いの顔を見ることもできずに俯いている彼女達。そこに割って入るように、マスターの豪快な声が響く。

「なにも心配するでない! あの娘なら、儂の友人から保護したと連絡があった。なにも案ずることはない!」
「……友人!? マスターそれはどういう事ですか!?」

 突如として勢い良く椅子から立ち上がったエミルが、マスターに駆け寄った。

 マスターは突然詰め寄られたことで一瞬だけ戸惑いを見せたものの、すぐに柔らかい表情で険しい表情で、自分を見上げているエミルの質問に答える。

「その言葉の意味通りだ。あの娘を保護したのは、儂の仕事仲間……いや、依頼主。っと言ったところか――だから、あの娘の事は何も心配する事はない」
「――何も心配する事はない!? ライラが! ライラがあの子に危害を…………もし、マスターが彼女達の味方をするなら私は貴方を……」

 詰め寄りマスターに向いていたエミルの瞳が、突如として突き刺す様に鋭い殺気を放った。しかし、それに動じるどころかマスターは終始微笑を浮かべている。

 その殺気に気付いたカレンが表情を強張らせ拳を握って、ピリピリとした雰囲気を醸し出している。もしエミルがマスターを攻撃しようものなら、カレンが一瞬で彼女に襲い掛かるだろう。

 だが、それはエミルの後ろにいるイシェルも同じだった。イシェルもカレンがエミルに危害を加えようものなら、何の躊躇もなく動くだろう……。

 この緊迫した状況でマスターにエミルが攻撃すれば、仲間内での戦闘になるのは避けられなかった。屋内ならまだしも、これが外に出てやることになれば、この中の何人かは確実に消えるのは間違いない。
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