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ライラの正体13

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 混乱するエミルに向かって、ライラは言葉を続ける。

「まさか敵の増援すら警戒していなかったなんてね……でも、それを倒してあげたのよ? あの子は私の保護対象で、貴女は私の玩具だもの。貴女を壊していいのも私だけ……そうでしょう?」
「――私はあんたのそういうところが……大嫌いなのよ!!」

 挑発とも取れるその言葉に憤りを抑えられずに、鋭く睨んだエミルが握った拳で地面を思い切り叩く。

 その彼女の様子に、ライラは「ふふっ」と息を吹き出すと。

「……まるで駄々をこねる子供ね」

 っと小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

 直後。余裕の笑みを浮かべていた彼女の表情が、殺意の籠もった表情に変わる。

「さて、もうこれで終わりよ。エミル……これで貴女は私の――」

 そこまで口に出したところで、突如として地面が音を立てて揺れ始める。

「なっ、なんなの!?」

 ライラは驚いたように辺りを見渡す。

 それとは対照的に、エミルは口元に微かな笑みを浮かべた。

「子供なのは貴女よライラ。そうやって人をおちょくるような行動を取るからこうなるのよ!」
「なっ! なにを……はっ! まさか貴女!!」

 ライラは完全に立ち上る煙の収まった場所に目を向け、地面に開いた大きな穴を見つけると顔色を変えた。
 そう。そこはまさに初動でライラが攻撃を仕掛けた場所――エミルは煙で隠し、もう一体ドラゴンを地中に潜ませていたのだ。

 土煙が止む前にドラゴンで飛び出し、その場所から視線を逸らさせたのも、エミルの作戦だったのだろう。

 ライラは不敵な笑みを浮かべているエミルの顔を鋭く睨みつける。その直後、背後からゴツゴツとした岩を纏ったドラゴンが地中から勢い良く飛び出す。
 それは防御力に長けたストーンドラゴンだ――その鱗は岩そのもの。その硬い鱗はライラの放つ矢など通すはずがない。

 今まさに勝負を決めようというところで、背後から飛び掛ってくるストーンドラゴンにライラは渋い顔をしながらも仕方なくその場からテレポートで移動する。

 一旦距離を取ったライラを見て、エミルは気持ちを落ち着かせる様に一度大きく深呼吸した。冷静になったところで、彼女は状況をもう一度分析し直す。

 ライラの固有スキルはテレポート――通常移動時は思いの場所に転移できる。戦闘時は攻守において意図する場所へ移動することで敵の目をくらましながらの戦闘が可能。彼女自身もその戦闘方法を最も得意としている。

 対してエミルの固有スキルはドラゴンテイマーだ――その長所は、手持ちの多種多様なドラゴンを使った多種多様な攻撃パターンにある。

 飛竜なら空中から、水竜なら水中からの攻撃が可能なのは、期間限定イベントや高レベルダンジョンでしか手に入れることができない入手困難なトレジャーアイテムを使用しない点を考えれば効率的だろう。
 
 しかし、エミルのドラゴンを持ってしても今のライラを攻略するのは困難だ。本来ならば、ライラの固有スキル『テレポート』には一度使うと弱点とも言える数秒のクールタイムがあったはずなのだが、これまでの彼女の行動を見ていると、どうやらそのデメリットを何らかの手段で取り除いたと見てほぼ間違いない。

 おそらく。それ以外の能力もあのミスターと名乗る人物から、提供されているのは容易に想像ができた。また、固有スキル以外にも戦闘に有利になるアイテム類を所持している可能性がある為、そのことも念頭に置いて戦わなければならないだろう。

(ここは慎重にいかないとよね……)

 険しい表情を崩さずにエミルはアイテム欄から、3つのドラゴンの封印された巻物と赤青黄の3色の色が複雑に混ざり合った笛を取り出した。

 その後、その笛に付いた紐に首に通すと、一つの巻物を手に握り締め、残り2つを腰に現れたベルトに差す。

(この笛は最後の切り札……とりあえずは……)

 エミルは首に下げた笛を握り締めると、持っていた巻物に巻かれた紐を引っ張り巻物を開き、その紐の先の小さな笛を鳴らす。その直後、辺りに煙が立ち込めると目の前にリントヴルムが姿を現した。

 背に乗ったエミルが飛ぶように命令を出すと、リントヴルムは空に向かって咆哮を上げ、勢い良くその白い翼をはためかせると上空に向かって舞い上がった。
 しかし不可解なことに、ライラもそれを見ているだけで、邪魔をしようともしないことだ。いくらテレポートできるとはいえ、空中に上がられれば攻撃し難くなるというのに……。

 彼女が何を考えているのか、エミルには到底理解できないが、今はそれが逆にありがたい。向こうが仕掛けて来ないのならば、こちらから仕掛けるのみだ――。

「リント! 彼女の直上に上がってノヴァフレアよ!」

 エミルは右手を前に突き出すと、リントヴルムに命令を出す。

(……まずは出方を見させてもらうわよ。ライラ……)

 エミルは目を細めると、地上で微笑んでいるライラを見据えた。

 彼女の終始余裕の表情は、もはや不愉快を通り越して不気味でしかない。
 それもそうだろう。焦り一つ見せないということは、自分が絶対に勝てるという保証があってのものだ。

 どこにそれほどの自信があるのかは分からないが、対戦相手からして一切油断できるものではない。それを恐怖と言わずして何と言えるだろうか……。
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