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ライラの正体6
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まるで、酸欠になった金魚のように口をぱくぱくと動かしているエミルに、ライラが告げる。
「そんな子供じみた理由で、この私を騙せると思った……? 一番最初の薬の効果で聴覚も上がっているから、この程度の苦痛でも聞こえているはずよ。もう一度聞くわよ? あの子との接触を試みた貴女の本当の目的はなに? 事と次第によっては、ここで死んでもらうわ……最初にあの子に触れたエルフの男の様に……」
「……さっきも言った通りよ……ライラ。私はあの子が好きだから一緒に居るの……それ以上でも以下でもないわ!」
「そう。残念ね……なら、昔の好みで一瞬で殺してあげる……」
返答を聞くと、冷徹な声でそう言ったライラの手に、今度は別のナイフが握られている。
大きく振り上げたそれを振り下そうとした直後、2人の視界が金色の光りに包まれた。突如発生したその光に、今まで圧倒的に優勢だと思っていたライラがあからさまに慌て出す。
「この輝きは! オーバーレイ!!」
すると、今度は脳の中に直接声が送り込まれてきた。
『これ以上の戦闘行為は認めません。今すぐ武器を収めて下さい』
「……くっ、あの子の声……でも、まだ眠っているはず。効き目が切れるのは翌朝なのに。どうして今……」
困惑しながらも、星の声が言う通り。あっさりとライラは手に持っていたナイフをアイテムの中に戻す。
彼女が口にした『オーバーレイ』がなんだかは分からないものの、エリエとダークブレットの首領の男との戦闘中に使用したものと全く同じものだろう。
全てのステータスが突如『1』に下げられた状態を見ると、この固有スキルは屋内の非戦闘地域でも関係なく発動が可能らしい。その直後、ドアが勢い良く開いて部屋の中にイシェルが飛び込んでくる。
イシェルは殺気を漲らせながらゆっくりとライラの元へ来ると、低い声で告げる。
「――はようエミルから離れなはれ! ……さもないと、今度はうちがあんたを殺すことになるえ?」
先程の星の声が聞こえていたのか、イシェルは今にも殴りかかりそうに拳を握り締めながら、歯を噛み締めている。
ライラは諦めたように「降参よ……」と小さく告げると、潔く両手を上げた。
その後に事が治まると、イシェルはライラから奪った解毒剤をエミルに投与し、混乱を避けるべく何事もなかったかのようにエリエ達のいる部屋に戻った3人――その瞳に映ったのは、金色に輝く『エクスカリバー』を握り締めた星とテーブルを挟んで距離を取りながら、どうにかなだめようとしているエリエ達の姿だった。
エクスカリバーを握り締めた星が、その場で勢い良くジャンプした。
テーブルに着地した星は剣を構え、エリエに向かってその剣先を向けている。その表情は無表情ながらも、その姿からは闘志が満ち満ちていた。
「――私に抱きつくとは……戦闘の意思があるのですか?」
「いや、ないない。戦闘の意思なんて全然ない! 抱きつくなんて、ただのスキンシップじゃない!」
剣先を向けられ、エリエは胸の前に小さく両手を上げて必死に頭をブンブンと振った。
星のその姿は、明らかに何者かが憑依しているとしか思えないほどの別人ぷりだ――慌てふためくエリエに寄り添うようにしていたミレイニが、星を指差して叫ぶ。
「絶対様子がおかしいし! その瞳から、まるで生気がないみたいだし。人形としか――」
光を失い虚ろな目の星を指差してそう口にするミレイニの口を慌てて覆うエリエ。
その直後、星がテーブルから勢い良く飛び掛ってくる。
2人は横に転がりながらかわす。まあ、ミレイニはエリエに後ろから突き飛ばされたかたちなのだが……。
その後、すぐに転がりながら、咄嗟に星から距離を取った。
星は虚ろな瞳を2人に向けると、直ぐ様自分の前に剣を構え直す。
「……次ははずさない」
その直後、エミル達の隣に立っていたはずのライラが自分の腕に躊躇なく注射器を刺した。すると、固有スキルにより一瞬で姿を消して、次の瞬間には星の背後に現れ、彼女の体を羽交い締めにする。
星は抵抗しようと体を捻るが、両腕をがっしりと掴んでいるライラを振り解くことはできない。
本来ならば、星の固有スキル『ソードマスターオーバーレイ』で、全ステータスが『1』しかないライラに、皆のステータスからまでも吸収し、自身のステータスを極限まで強化している星を止めることは不可能。
しかし、今はそれが可能になっているということは、ライラが先程自らの腕に突き刺した注射器の薬液の効果なのだろう。
「放せ! こんな事をゲームマスターである私にして、ただで済むと思っているのですか!!」
「ふふっ、両手を封じられている状況でどうするの?」
ライラが何をしたのか分からないが、その表情から見て余裕があるのか、微かに笑みを浮かべている。そんな時、星の前にエミルがやってきて困惑した表情で尋ねる。
「――ど、どうしたの? そんな事する子じゃなかったでしょ?」
「うるさい! 皆、戦闘行為を行うなら、私の敵でしかない!」
「落ち着いて! 星ちゃん!!」
その直後、ライラがわざと腕の力を弱めその腕を振り払った星がエミルに襲い掛かる。
今の星は記憶が曖昧で、言わば防衛本能で暴れているだけに過ぎない。そんな彼女は目に入るもの全てが、自分に危害を加える可能性がある脅威でしかないのだろう……。
「そんな子供じみた理由で、この私を騙せると思った……? 一番最初の薬の効果で聴覚も上がっているから、この程度の苦痛でも聞こえているはずよ。もう一度聞くわよ? あの子との接触を試みた貴女の本当の目的はなに? 事と次第によっては、ここで死んでもらうわ……最初にあの子に触れたエルフの男の様に……」
「……さっきも言った通りよ……ライラ。私はあの子が好きだから一緒に居るの……それ以上でも以下でもないわ!」
「そう。残念ね……なら、昔の好みで一瞬で殺してあげる……」
返答を聞くと、冷徹な声でそう言ったライラの手に、今度は別のナイフが握られている。
大きく振り上げたそれを振り下そうとした直後、2人の視界が金色の光りに包まれた。突如発生したその光に、今まで圧倒的に優勢だと思っていたライラがあからさまに慌て出す。
「この輝きは! オーバーレイ!!」
すると、今度は脳の中に直接声が送り込まれてきた。
『これ以上の戦闘行為は認めません。今すぐ武器を収めて下さい』
「……くっ、あの子の声……でも、まだ眠っているはず。効き目が切れるのは翌朝なのに。どうして今……」
困惑しながらも、星の声が言う通り。あっさりとライラは手に持っていたナイフをアイテムの中に戻す。
彼女が口にした『オーバーレイ』がなんだかは分からないものの、エリエとダークブレットの首領の男との戦闘中に使用したものと全く同じものだろう。
全てのステータスが突如『1』に下げられた状態を見ると、この固有スキルは屋内の非戦闘地域でも関係なく発動が可能らしい。その直後、ドアが勢い良く開いて部屋の中にイシェルが飛び込んでくる。
イシェルは殺気を漲らせながらゆっくりとライラの元へ来ると、低い声で告げる。
「――はようエミルから離れなはれ! ……さもないと、今度はうちがあんたを殺すことになるえ?」
先程の星の声が聞こえていたのか、イシェルは今にも殴りかかりそうに拳を握り締めながら、歯を噛み締めている。
ライラは諦めたように「降参よ……」と小さく告げると、潔く両手を上げた。
その後に事が治まると、イシェルはライラから奪った解毒剤をエミルに投与し、混乱を避けるべく何事もなかったかのようにエリエ達のいる部屋に戻った3人――その瞳に映ったのは、金色に輝く『エクスカリバー』を握り締めた星とテーブルを挟んで距離を取りながら、どうにかなだめようとしているエリエ達の姿だった。
エクスカリバーを握り締めた星が、その場で勢い良くジャンプした。
テーブルに着地した星は剣を構え、エリエに向かってその剣先を向けている。その表情は無表情ながらも、その姿からは闘志が満ち満ちていた。
「――私に抱きつくとは……戦闘の意思があるのですか?」
「いや、ないない。戦闘の意思なんて全然ない! 抱きつくなんて、ただのスキンシップじゃない!」
剣先を向けられ、エリエは胸の前に小さく両手を上げて必死に頭をブンブンと振った。
星のその姿は、明らかに何者かが憑依しているとしか思えないほどの別人ぷりだ――慌てふためくエリエに寄り添うようにしていたミレイニが、星を指差して叫ぶ。
「絶対様子がおかしいし! その瞳から、まるで生気がないみたいだし。人形としか――」
光を失い虚ろな目の星を指差してそう口にするミレイニの口を慌てて覆うエリエ。
その直後、星がテーブルから勢い良く飛び掛ってくる。
2人は横に転がりながらかわす。まあ、ミレイニはエリエに後ろから突き飛ばされたかたちなのだが……。
その後、すぐに転がりながら、咄嗟に星から距離を取った。
星は虚ろな瞳を2人に向けると、直ぐ様自分の前に剣を構え直す。
「……次ははずさない」
その直後、エミル達の隣に立っていたはずのライラが自分の腕に躊躇なく注射器を刺した。すると、固有スキルにより一瞬で姿を消して、次の瞬間には星の背後に現れ、彼女の体を羽交い締めにする。
星は抵抗しようと体を捻るが、両腕をがっしりと掴んでいるライラを振り解くことはできない。
本来ならば、星の固有スキル『ソードマスターオーバーレイ』で、全ステータスが『1』しかないライラに、皆のステータスからまでも吸収し、自身のステータスを極限まで強化している星を止めることは不可能。
しかし、今はそれが可能になっているということは、ライラが先程自らの腕に突き刺した注射器の薬液の効果なのだろう。
「放せ! こんな事をゲームマスターである私にして、ただで済むと思っているのですか!!」
「ふふっ、両手を封じられている状況でどうするの?」
ライラが何をしたのか分からないが、その表情から見て余裕があるのか、微かに笑みを浮かべている。そんな時、星の前にエミルがやってきて困惑した表情で尋ねる。
「――ど、どうしたの? そんな事する子じゃなかったでしょ?」
「うるさい! 皆、戦闘行為を行うなら、私の敵でしかない!」
「落ち着いて! 星ちゃん!!」
その直後、ライラがわざと腕の力を弱めその腕を振り払った星がエミルに襲い掛かる。
今の星は記憶が曖昧で、言わば防衛本能で暴れているだけに過ぎない。そんな彼女は目に入るもの全てが、自分に危害を加える可能性がある脅威でしかないのだろう……。
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