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ライラの正体2

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 リビングに戻ったエミルは、テーブルを挟んでなおもいがみ合っている2人を見て、呆れ顔で深いため息を漏らす。

 すると、ライラがエミルのことを呼ぶように手招きする。
 その仕草にすぐにエミルが彼女の方へと向かうと、促されるままに彼女の横の席に腰を下ろした。

 ライラはエミルの腕を強引に引くと、イシェルは先程よりも強く睨みつけて鋭い殺気を放つ。
 そんな中、エリエが焼いていたホイップクリームをたっぷり乗せたケーキを持って、リビングに戻ってきた。

「うわぁ……なんだろう。この気まずい雰囲気……」
「――隙あり!」

 その横から涎をたらしながらケーキを凝視していたミレイニが、隙を見てケーキに手を伸ばすとエリエは分かっていた様にその手を難なくかわす。

 エリエは悔しそうに指を加えるミレイニに「こら!」と一言だけ言い放つと、持っていたケーキをテーブルの中央に置いた。
 何とも言えない張り詰めた空気感に息が詰まりになりながらも、エリエはぎこちなく微笑みながら皆に声を掛けた。

「ほ、ほら! 久しぶりだし。ケーキでも食べてのんびりしようよ! みんなが帰って来るまで、まだ時間あるだろうしさ!」
「そ、そうよね。皆も頂きましょう!」

 エミルはエリエに便乗するように2人にそう告げると、ナイフを持ってケーキを切り分ける。
 その様子を見て、エミルは少しほっとしながら、今度はレモンティーを入れにキッチンへと戻った。

 しばらくしてエリエが紅茶を入れたカップをトレーの上に置いて持ってくると、すでに切り分けられているケーキの側に置いていく。

 エリエはミレイニの隣に腰を下ろすと、目でエミルに合図を送る。その直後、両手を合わせながらライラとイシェルに告げる。

「さあ、せっかくですし。食べましょ! 紅茶も冷めてしまうし!」
「そうね。エミルがそう言うなら頂きましょうかね~」
「…………」

 ライラとイシェルは目の前にあるケーキにフォークを入れると、小さく切ったそれを口へと運んだ。すると、2人の硬かった表情が微かに和らぐ。

 それと同時に、周囲に立ち込めていた緊迫した雰囲気もいくらか和らいだように感じた。やはりどんな状況であっても女性は甘い物が好きということなのだろう。

 仮想現実の世界とはいえ、五感を再現しているこの世界では、しっかりと味覚も存在しており、料理スキルに至っても誰が作っても短時間の作業で同じ味になる為、オリジナルの味を出したい人はスキルを使わずに、時間を掛けて調理すれば自分なりの味を再現することも作り出すことも可能なのだ。

 そんな雰囲気になっていることを知ってかしらずか、ミレイニは嬉しそうにケーキを口一杯に頬張っている。もう。その姿は頬袋に食べ物を溜め込んでいるリスの様だ――。

「ほえ、ふごくおいひいひ!」
「こら、食べ物を口に入れたまま喋らない! それにミレイニ。口の周りもクリームでベタベタじゃないの!」

 エリエはタオルを手に取ると、口の周りを生クリームで真っ白にしているミレイニの顔を拭う。

 もぐもぐと動かしていたミレイニは口の中の物を飲み込むと、エリエに向かってにっこりと笑った。

「ありがとうだし!」
「全く、子供なんだから……」

 エリエは少し呆れながらそう呟くと、部屋の中を見渡した。

 その後、首を傾げながらエミルに尋ねる。

「ねぇー、エミル姉。まだ私達しか帰ってきてないんだね。デイビッド大丈夫かな?」

 少し不安そうな顔をしているエリエ。

 エリエとしては、ライラがすぐにデイビッド達も城まで送り届けてくれると思っていたのだろう。
 もちろん。ライラもデイビッド達を呼び戻そうと一度はいったのだが、ダークブレットのメンバーとマスターの友人だけ残して自分だけ帰る訳にはいかないと断られてしまった。

 しかも、ライラの話によると、彼は戦闘で大きく負傷したという話も聞かされていたから気が気ではない。
 肩を落とす彼女に、エミルは優しく微笑みを浮かべた。

「エリー大丈夫よ。パーティーの中の名前は消えてないし。フレンドの方にも名前が残っているという事は、無事だって証拠でしょ? きっと今こっちに向かっているわ。でも、どうしてもって言うなら、メッセージを送ってみたら?」
「う~ん」

 エリエはその案を聞いて、少し考える素振りを見せたまま、その場に固まっている。

 数分考えた結果、諦めたようにため息を漏らして徐ろに口を開く。

「――やっぱりいいや。無事である事は分かってるんだし。それに皆強いしね!」
「ふふっ、そうね。とくにデイビッドは強いものね~」
「ちょ! エミル姉! なんでそこで一番激弱なデイビッドが出てくるのよ!」

 エミルはいたずらな笑みを浮かべると、エリエが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 そんな2人のやり取りを見ながら、紅茶を飲んでいたライラが徐ろに席を立つと、エミルの腕に強引に腕を回してエミルを立たせた。

「さてと、お腹もいっぱいになったし。ちょっと食後の運動でもしようかしらね~♪」
「ちょっと、お姉様!? う、運動って……?」

 驚き慌てふためくエミルの耳元でそっとささやくように告げる。

「女の子が2人でこっそりする運動なんて……あれしかないでしょ?」

 エミルは何をされるか分かったのか、その表情が一気に青ざめる。
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