上 下
334 / 586

敵城の主6

しおりを挟む
 また、強力な武器スキルを持った『イザナギの剣』もある為、まともな戦闘はエリエとのこの戦いが初なのかもしれない。

 彼女のたぐいまれなる戦闘センスに男も動揺を隠しきれない。もしエリエが視界が良好な状態ならば、すでに決着がついているかもしれないが、この視力を封じされた絶望的な状態で戦えるのは、それだけ彼女の中で星の存在が大きいということだろう。
 
 男の表情からは明らかに焦りが見え始めてきていた。

 それもそうだろう。この場所ではHPの回復ができない。また、男の『イザナギの剣』は武器スキルが7つあるのだが、一つ一つの破壊力が絶大な為、敵に異常状態をかけてる状態では他のスキルは使用できない。つまり、今は武器スキル『創世の輝き』しか使えないということだ。

 しかも、他の武器スキルを使用する為には、今掛けているスキルを解除する必要があり。押されている今の状況でそれはあまりにリスクが高過ぎる。
 
 彼が他の武器スキルに変更しない理由は、今の状況ならエリエはまだ感覚だけで攻撃している状態で体に当たっても致命傷とまではいかないと判断しているからだろう。

 気配で戦っているだけなのだから、彼の体の部位は見えていない。つまりは、弱点と呼べる致命的な場所は意図的には狙えない。

 その証拠に、攻撃も時折掠れる程度でHPバーはたいして減ってはいない。だが、エリエは男の挑発に乗り、敵を全力で叩きのめそうと結構な気迫で押し続けている。

 このままではエリエの方が、最小限の動きで回避している男よりも体力が消耗するのが目に見えていた。持久戦に持ち込まれれば、スタミナという点で、間違いなくエリエに勝ち目はないだろう……。 
        

           * * *

 エリエが救出の為に懸命に戦っている最中……。
 
 地下室の研究室。モニター越しに覆面の男に投与された薬の影響で荒い息を繰り返しながら、星はエリエの戦いを見つめていた。
 もはや意識だけではなく記憶も曖昧になりつつある星は、覆面の男の居ない内に何とか逃げ出そうともがいていた。

 投与された薬は記憶を消去するものだと、覆面の男は言っていた気がする。ならば、このままでは今までの楽しい仲間達との思い出まで全て消されてしまう。 

 逸早くこの拘束を解いて、解除用の薬を投与して貰わなければいけない。幸い星の持っていたエクスカリバーは、モニターの横にある配線の大量に付いた分析用のケースの中に入っている。

 星のことを子供だと思って甘く見ているであろう覆面の男になら、拘束を解いて剣をこの手に取り戻せば、まだ形勢を逆転する可能性はある。

 だが、拘束を解こうともがけばもがくほど、息苦しさから息が荒くなり、体から力が抜けていくのを感じた。

「はぁ……はぁ……だめだ。もう、どうしようもないのかな……?」

 瞳を涙で潤ませながら、天井を見上げ弱気になっている星の横に突如として女性が現れた。

 ウェーブのかかった肩までの茶髪に茶色い瞳の彼女は、歳はエミルより上だろうか、とてもスタイルが良く。まるでモデルの様な体型で、胸元の開いた全体的に少し露出度の高い革鎧を着ていた。  

「ふふふっ、大成功ね。さすが博士♪」

 星の目の前に現れた女性は微笑みを浮かべると、首に付けたネックレスのルビーの様な赤い宝石を白くて細い指で撫でた。

 少女は星の元へと歩み寄ると、にっこりと微笑み星の汗が滲むおでこを撫でる。
 敵か味方かも分からない謎の女性に、拘束されている星はただただ怯えた瞳を向けるしかできない。

「あら、怖がらなくていいのよ? 私はあなたを助けに来たんだから、それにあなたは知らないかもだけど、私があなたを助けるのはこれで2回目なのよ?」
「――助けに……? ……2回目?」

 意識が朦朧とする中、その言葉の意味が星には全くと言っていいほど理解できてはいなかった。しかし、そんな星を余所に彼女は星の首筋に手を伸ばす。

 急に伸びてきた腕に怯えながら、びくっと震える星の耳元で少女がささやく。

「……まあ、論より証拠よね」

 星に触れている少女の手が光った瞬間、星の体は台の上から彼女の胸の前に移動していた。

 次の瞬間。星の顔には少女の胸が押し付けられていた。それもおそらく彼女が故意に押し付けている。その柔らかく暖かい感覚に、星は頬を赤らめると困惑した表情で女性の顔を見上げた。 

 彼女は微笑むと、簡単に自己紹介を始めた。

「私はライラ。ある組織から、あなたを救出するように言われたの……って言っても、今のあなたでは理解できないかもね。とりあえず、その症状を抑えましょうか?」
「はぁ……はぁ……は、はい……」

 突如現れた少女に星はわらをも縋る思いで小さく頷いた。
 彼女を本当に信用できるかはまだ分からないが、少なくとも台から解き放ってくれたことは事実だったし、何よりも今の星はこの苦しみから少しでも解放されたいという気持ちが強かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...