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敵城の主5

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 負傷した右肩を押さえたまま男は、咄嗟に後ろに跳んだが痛みで足元が覚束なくなっているのか、よろけて少し体制を崩す。

 男にとって視覚を奪ったにも関わらず、まさか反撃してくるとは夢にも思っていなかったのだろう……肩を押さえる男は驚きを隠せないと言った表情で目を丸くさせている。

 それとは対象的に、エリエは瞼を閉じたまま落ち着いた様子でその場に立ち尽くしている。
 一度攻撃を当てられた余裕からか、その表情からは目が見えないことへの躊躇や恐怖のようなものはすっかりなくなっていた。

「この野郎……観賞用の嗜好品の分際で……お前は絶対に捕まえて、俺のこのショーケースの中に首輪を付けて繋いでやる!!」
「……ふん。やれるもんならやってみなさいよ! あんたみたいな奴に星は渡せない。必ず星を取り戻すんだから!!」

 そう息巻くエリエの言葉に、男は不思議そうに小首を傾げ。

「……星? 誰だそれは、知らないな~」

 男が眉をひそめながら呟くと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。エリエはその返答に怒り心頭と言った感じで震える拳を握り締めている。

 星を誘拐した首謀者であるはずの敵の組織のリーダーの男が、その全貌を知らないはずがない。

 っとなれば、彼が嘘をついているとしか考えられない。それもエリエの目の前で誘拐し、こちらが救出の為に来たのにも関わらず、その意志を無視するような彼の態度が気に入らなかった。

 なおも小馬鹿にするような彼の態度に、エリエが耐えられずに声を荒らげた。

「知らない!? 知らないとは言わせない! 私の目の前から連れて行ったくせに、絶対に星の居場所を吐かせてやる!!」

 エリエは男が立っている方向とは逆の方に突進すると、持っていたレイピアを突き出す。

 次の瞬間。何もない場所から出現した男は、エリエが突き出したレイピアの攻撃を『イザナギの剣』で防いだ。だが、男の表情には余裕は全くなく、額から一筋の汗が流れる。

 それもそうだろう。今の攻撃で先程の攻撃がまぐれではないことが証明されたのだ。
 すでに男の固有スキルがエリエ相手では何の意味もなさないことが証明された。こんなことならば、エリエに武器スキルを使用しなければ良かったと、男は今更ながらに後悔していた。

 険しい表情で男がエリエの顔を見る。だが、やはり目を瞑ったまま攻撃を仕掛けているのを確認するとレイピアを押し返しながら化け物でも見るような怯えた瞳で大声で叫ぶ。

「どうして見えてないはずなのに攻撃できる!? 化け物かお前!!」
「……化け物? ううん違う。私はただ感覚で打ち込んでいるだけ……化け物っていうなら。それはあんたの方でしょ!?」
「――なにっ!?」 
 
 目が見えないながらも、エリエは的確に男を攻撃しながら、うろたえる彼に言葉を続けた。

「私の星を返して! どうして誘拐なんて真似を平然とできるのよ! この鬼畜!!」
「……誘拐? ああ、星って何だと思えば、あの医者だかなんだかの娘の事か……」

 突然返ってきた彼の言葉に、エリエの攻撃が一瞬だが止まる。今まで全くと言っていいほど迷いのなかったエリエの太刀筋に、明らかに動揺が垣間見える。

 だが、それも無理はない。彼の言っていたことが事実かは分からないが、星の家庭の事情はエリエも全くと言っていいほどに把握できていない。
 無理やり聞き出すことでもないし。聞き出したところで何かできるわけではないわけだから――ただ、星の性格を考えると相当厳格な親なのだろうとは思っていた。しかし、それが医者の娘とは……。

 動きが止まったその隙に、男はエリエから一気に距離を取った。
 この時、エリエが止まった原因が誘拐してきた娘であることに気が付き、不敵な笑みを浮かべた男はエリエに向かって言い放つ。

「あの娘は地下だ。今頃はどうなっているかな。バラバラにされてるか、あるいは――」
「――ッ!? 星に何をした! 変なことをしたら許さないから!!」

 ムキになって叫ぶエリエに、男はニヤリと不気味に笑う。

「フッ。許さない? 笑わせる! 目が使えないお前に、何ができるって言うんだ?」
「できるわよ! とりあえず。あんたを叩きのめして、星が地下のどこに居るのかを絶対に吐かせてやる!!」

 一度は攻めるのを止めたエリエが力いっぱいに地面を蹴ると、レイピアを構えてエリエは凄い剣幕で突進した。

 エリエの鋭い突きが男を連続で襲う中、男は殆ど一方的に攻撃を受けるだけで反撃しない。

 いや。正確には反撃できないと言う方が正しいだろう。
 それは完全に視界を奪われているはずのエリエの攻撃が、正確さを増していたからに他ならない。

 エリエの放つレイピアが、確実に男の体を捉え始めていた。

 視力を失っているとは思えない精密な突きに、男は攻撃を武器で何と防いでいる。
 おそらく。固有スキルと武器スキルに頼った戦闘を得意としていた男は、相手に攻撃されることに慣れていないのだろう。
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