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敵城の主4
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全身を襲う物凄い激痛に、屈強なサラザの苦痛に歪む声が辺りに響き渡る。
同じ部屋にいる女性達は身を寄せ合って、部屋中にこだまするその声を怯えながら聞いている。
「くぅぅ~。こんなところで、サラザがやられるのを黙って見てるしかないとは……」
「わたーしとした事が……」
ガーベラと孔雀マツザカは地面に伏せながら手も足も出せず、傷付けられるサラザの姿を唇を噛み締めながら見守っていることしかできない。
男はまるで小動物をいたぶる肉食獣の様に、不気味な微笑みを浮かべながら、武器を振り下ろしている。
サラザの苦痛による叫び声が部屋中に轟いていたその時、エリエの声がサラザの耳に飛び込んできた。
「サラザ! 今助けに――」
「――来たらダメよぉー。エリー!!」
レイピアを手にして、自分に向かって扉の前から走り出しそうになるエリエにサラザが叫ぶ。
エリエがその声に躊躇していると、男がエリエの方に武器の矛先を向ける。
「エリー目を瞑って!!」
「――ッ!?」
サラザは咄嗟に跳び上がると、エリエと男の間に割って入って光を遮る。
この武器スキルの致命的な欠点に、サラザは気が付いていた。
そう。男の武器スキルは目視しなければ発動しない。彼の武器スキルは目視さえしなければ、視力を奪われることはありえない。それは武器の刀身が光るというところから容易に想像できた。
既に武器スキルを受けているサラザは、もう一度矛先からの光りを受けても効果は発動しない。
男は渋い顔をしながら地面に転がっているサラザを睨みつけた。
「この……目を潰したのにこれ程の事を……」
「……あんたの考えている事なんて、手に取るように分かるわよ~」
「くッ! この死に損ないがッ!!」
男は不敵な笑みを浮かべるサラザの顔面を蹴り飛ばす。
その光景を目にしたエリエが鬼の様な形相で叫んだ。
「サラザに何するのよ!!」
エリエの体が青く輝き、凄まじい速さで男との距離を一気に詰める。
そのスピードに男は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに平静さを取り戻した。
「このおおおおおおおッ!!」
エリエが男に向かって飛び込むと、レイピアを突き出す。だがその直後、エリエの体はそこにいたはずの男の体をすり抜けた。
先程までのやり取りをエリエは見ていなかったのだろう。実体のない分身体の方へとまんまと攻撃させられた訳だ――。
首を傾げながら辺りを見渡していると、次の瞬間に辺りを激しい光が包む。
「なっ! なにこれッ!?」
エリエは咄嗟に目を抑えたが、次の瞬間には完全に視界が真っ白になり、目の機能を完全に奪われてしまう。
視覚を奪われたエリエは、動揺した様子で頭を動かしながら数歩後退った。
(……見えない!? 目が、目が使えない……)
驚きながら地面に両手を付いているエリエに、男がゆっくりと向かってくる。
男はエリエの前で止まると、不気味な笑みを浮かべた。
「ほう。これはなかなかの美少女だな。俺のコレクションに加えたいくらいだ……」
「……なっ、なに言ってるのよ!」
その声を頼りに持っていたレイピアを突き出す。しかし、やはり男の固有スキルによってその体にかすりもしない。
ゆっくりとその場に立ち上がると、エリエは辺りを見渡した。だが、エリエの目に映るのは真っ白な世界で男はおろか、自分がどこに立っているのかさえも分からない状態だ。
エリエは視覚に頼るのを諦め、聴覚に頼る為に耳を澄ました。いざ、視覚を見限ってみると不思議なくらい自分の心臓の音や、辺りに吹く風などが強く感じられる。
もちろん。エリエの気のせいではなく、それはフリーダムのシステムが影響していた。
人は本来、五感の中で主に視覚から9割近くの情報を得ている。それに継いで聴覚、触覚、嗅覚、味覚と続いていく。
だが、フリーダムではその感覚の割合が100を振り分けていて、それが自動で切り替わる仕組みになっている。簡単に説明すると、現実では食事をする時に鼻を摘むと、味が感じなくなるがこの世界では違う。
鼻を摘むという行動は嗅覚を一つ潰すことになり、味覚に振り分けられる分が増えて、よりその味を感じやすくなるのだ。
もちろん。フリーダム内でも多く振り分けられるのは視覚だがいざそれを切ってみれば、その感覚の割合が他の感覚に移行され他の感覚が増加する。
今のエリエは視覚を完全にシャットアウトしたことで、多くの感覚が次に敏感な聴覚に移っているのだ。
(――感じる。まるで自分の目で見る以上に、敵の息遣いや歩く音なんかが、鮮明に入ってくる……)
エリエはその感覚を頼りに、握り締めていたレイピアを突き出した。
その直後、男の声が響いたが、周りからはエリエのレイピアが何もない場所に突き刺さっているようにしか見えない。だが、すぐに空間が歪み。レイピアの刺さった右肩を抑えている男の姿が現れる。
同じ部屋にいる女性達は身を寄せ合って、部屋中にこだまするその声を怯えながら聞いている。
「くぅぅ~。こんなところで、サラザがやられるのを黙って見てるしかないとは……」
「わたーしとした事が……」
ガーベラと孔雀マツザカは地面に伏せながら手も足も出せず、傷付けられるサラザの姿を唇を噛み締めながら見守っていることしかできない。
男はまるで小動物をいたぶる肉食獣の様に、不気味な微笑みを浮かべながら、武器を振り下ろしている。
サラザの苦痛による叫び声が部屋中に轟いていたその時、エリエの声がサラザの耳に飛び込んできた。
「サラザ! 今助けに――」
「――来たらダメよぉー。エリー!!」
レイピアを手にして、自分に向かって扉の前から走り出しそうになるエリエにサラザが叫ぶ。
エリエがその声に躊躇していると、男がエリエの方に武器の矛先を向ける。
「エリー目を瞑って!!」
「――ッ!?」
サラザは咄嗟に跳び上がると、エリエと男の間に割って入って光を遮る。
この武器スキルの致命的な欠点に、サラザは気が付いていた。
そう。男の武器スキルは目視しなければ発動しない。彼の武器スキルは目視さえしなければ、視力を奪われることはありえない。それは武器の刀身が光るというところから容易に想像できた。
既に武器スキルを受けているサラザは、もう一度矛先からの光りを受けても効果は発動しない。
男は渋い顔をしながら地面に転がっているサラザを睨みつけた。
「この……目を潰したのにこれ程の事を……」
「……あんたの考えている事なんて、手に取るように分かるわよ~」
「くッ! この死に損ないがッ!!」
男は不敵な笑みを浮かべるサラザの顔面を蹴り飛ばす。
その光景を目にしたエリエが鬼の様な形相で叫んだ。
「サラザに何するのよ!!」
エリエの体が青く輝き、凄まじい速さで男との距離を一気に詰める。
そのスピードに男は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに平静さを取り戻した。
「このおおおおおおおッ!!」
エリエが男に向かって飛び込むと、レイピアを突き出す。だがその直後、エリエの体はそこにいたはずの男の体をすり抜けた。
先程までのやり取りをエリエは見ていなかったのだろう。実体のない分身体の方へとまんまと攻撃させられた訳だ――。
首を傾げながら辺りを見渡していると、次の瞬間に辺りを激しい光が包む。
「なっ! なにこれッ!?」
エリエは咄嗟に目を抑えたが、次の瞬間には完全に視界が真っ白になり、目の機能を完全に奪われてしまう。
視覚を奪われたエリエは、動揺した様子で頭を動かしながら数歩後退った。
(……見えない!? 目が、目が使えない……)
驚きながら地面に両手を付いているエリエに、男がゆっくりと向かってくる。
男はエリエの前で止まると、不気味な笑みを浮かべた。
「ほう。これはなかなかの美少女だな。俺のコレクションに加えたいくらいだ……」
「……なっ、なに言ってるのよ!」
その声を頼りに持っていたレイピアを突き出す。しかし、やはり男の固有スキルによってその体にかすりもしない。
ゆっくりとその場に立ち上がると、エリエは辺りを見渡した。だが、エリエの目に映るのは真っ白な世界で男はおろか、自分がどこに立っているのかさえも分からない状態だ。
エリエは視覚に頼るのを諦め、聴覚に頼る為に耳を澄ました。いざ、視覚を見限ってみると不思議なくらい自分の心臓の音や、辺りに吹く風などが強く感じられる。
もちろん。エリエの気のせいではなく、それはフリーダムのシステムが影響していた。
人は本来、五感の中で主に視覚から9割近くの情報を得ている。それに継いで聴覚、触覚、嗅覚、味覚と続いていく。
だが、フリーダムではその感覚の割合が100を振り分けていて、それが自動で切り替わる仕組みになっている。簡単に説明すると、現実では食事をする時に鼻を摘むと、味が感じなくなるがこの世界では違う。
鼻を摘むという行動は嗅覚を一つ潰すことになり、味覚に振り分けられる分が増えて、よりその味を感じやすくなるのだ。
もちろん。フリーダム内でも多く振り分けられるのは視覚だがいざそれを切ってみれば、その感覚の割合が他の感覚に移行され他の感覚が増加する。
今のエリエは視覚を完全にシャットアウトしたことで、多くの感覚が次に敏感な聴覚に移っているのだ。
(――感じる。まるで自分の目で見る以上に、敵の息遣いや歩く音なんかが、鮮明に入ってくる……)
エリエはその感覚を頼りに、握り締めていたレイピアを突き出した。
その直後、男の声が響いたが、周りからはエリエのレイピアが何もない場所に突き刺さっているようにしか見えない。だが、すぐに空間が歪み。レイピアの刺さった右肩を抑えている男の姿が現れる。
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