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エミルの夢2

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 つまり、一括管理されていないのだ――システム上。プレイヤーとモンスターは独自のシステムで運用している。
 要するにもしも間違ってモンスターの認識範囲内に入ってしまえば袋叩きに遭う。その為、飛行中に墜落することは攻撃を受けるかしない限りはあり得ない。

 まあ、飛行中に何者かに攻撃を受けることも相当な低空飛行でもない限りは、万に一つもあり得ないのだが……。

 システム上ではリントヴルムはなんともないが、メインシステムから切り離されているプレイヤーはそうもいかない。

「エミル~。うち、疲れた~。ちと休憩しよ~」

 イシェルが情けない声を上げ、エミルの腕に抱き付いてきてエミルは苦笑いを浮かべる。
 まあ、彼女のこの行動もこれが始めてではない。飛んでいる最中イシェルのこの泣き言も、もう何度聞いたか分からない。

 素っ気ない態度を取っているエミルに、ふくれっ面をしていると、イシェルが後方に大の字に倒れる。
 かと思うと、リントヴルムの背中で年甲斐もなくごろごろとだらしなく転がり回るイシェルに呆れながら大きな息を吐き出すと。

「はぁ~。イシェ、確かに何もすることがなくて暇なのは分かるけど……もう、来年には大学生になる人間が、そういうのはいけないと思うわ」

 そうイシェルは起き上がると、エミルの顔をまじまじと見つめ言葉を返す。  

「エミルは真面目過ぎるんよ。たまにはええやん……それにな~。来年大学生に入る人間が、ゲームの中でだけの関係の子の為に必死になる。って言うんもおかしいと、うち思うわ~」

 その言葉にエミルはギョッと目を見開き、鋭い眼光をイシェルに向けた。

 イシェルはその殺気だった瞳にビクッと身を震わせた。

 怒りを抑えるように、肩を震わせるエミルが震える声で告げる。

「……イシェ。今の発言はこの状況下では不謹慎だわ。今はゲームも現実も関係ない。さすがのイシェでも怒るわよ?」
「違うんよ! これは咄嗟に出た失言というか、そんなんで……ごめんな~。堪忍して~」

 瞳に薄っすらと涙を浮かべながら、胸の前で手を合わせるイシェルに、エミルは「次からは気を付けてね」と優しく言った。

 先程までの殺気が嘘の様に消え、イシェルもそのエミルの様子にほっと胸を撫で下ろした。それからしばらくの間、イシェルとエミルが隣り合わせで座っている。

 のんびりとした雰囲気の中で、ふとイシェルが弱々しい声でエミルに尋ねた。   

「なぁ~、エミル。さっきの事、怒っとる……?」
「ん? ふふっ、もう気にしてないわよ」 

 エミルは不安そうな瞳を向けるイシェルにそう答えると、イシェルはにっこりと微笑んだ。

 嬉しそうに笑みを浮かべると、イシェルはエミルの肩に寄り掛かった。エミルは優しく微笑みながら、そんなイシェルの頭を撫でる。

「もう。昔からイシェは甘えん坊なんだから」
「ふふふ、それはしゃーないよ~。うちはエミルの事、大好きやからな~」

 2人の肩が触れ合い、互いに微笑み合いながら、遠くの方をずっと見つめていた。

 暖かい日差し、体を包み込むようにゆっくりと流れていく風。
 空気を吸い込んでため込んだ空気を吐き出す。空気はどこも変わらないはずだが、何故か今はとても美味しいと感じる。

 その心地のいい感覚を感じながら、エミルはうとうとし始める。

「……だめよ。こんな時に……」 
 
 抵抗したものの。数日間、気を張りっぱなしで殆ど寝れなかったエミルはすぐに夢の中へ落ちてしまう。


                      * * *


 夢の中で、エミルは学校の制服に身を包んでいた。
 ついさっきまで、白銀の鎧をまとっていたのだ――この格好から見ても、ここが夢の世界であることは疑う余地もない。

 セーラー服姿のエミルは、ただただ防波堤から沈んでいく夕日を見つめていた。だが、彼女がこの景色を見るのは初めてではなかった。

 そう。それは忘れもしない――。

 今から数ヶ月前。岬が死んですぐの頃だ――あの時のエミルは、何もかもがバカらしくなっていた。大事な人を失った喪失感というものか……。

 この頃はもう。学校に行くのも、人と話すのも、生きることさえも無意味に感じていた。

 それもそのはずだ。学校帰りに毎日のように通っていた最愛の妹はもうこの世にいない。その声も……体温も……笑顔も……何一つ。今の自分には感じられない。人が死ぬということは、本当にただただ【無】なのだ――。

 記憶を思い返せば、後悔の念が頭の中を渦巻く。
 あの時、もっとこうしていれば……そんなどうしようもない感情が頭の中を駆け巡り、自分の胸を強く締め付ける。
  
 この時のエミルもまた、その後悔というどうしようもない感情に苛まれていた。
 夕日を受けて宝石の様に煌めく水面を見つめていると、波の中にこのまま身を投げようか……そんな考えが頭を過る。

 風とともに防波堤に打ち寄せる波を見ていると、まだ『他のどこかで岬が生きているのではないか?』なんていう思いが、押し寄せる波のように自分の空虚な心を容赦なく抉る。

「……岬」

 エミルは小さく呟く。
 泣きたくても、もう数日間も泣き尽くし、涙も枯れてしまい泣くことさえできない。そんな、自分が惨めて仕方ない……。
 
 残されるということがこれほど辛く苦しいことだとは、予想もしていなかった。
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