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アジトへの潜入6
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少女は大きなあくびをしながら、何かを紙袋に入った物を口の中に放り込むともごもごさせている。
そして口の中の物をごくんと飲み込んだ少女が、突如現れたエリエ達に向かって尋ねた。
「ねぇー。あなたは新人さん? それとも侵入者さん?」
誰もがその質問に答えることなく無言でいると、少女がつまらなそうに呟く。
「あっそ。そういう態度なんだ……まあ、どっちみち。ここを通る者は、このエリザベスに食べられることになるよ?」
無邪気ににっこりと微笑みを浮かべた少女は、ポケットから取り出した紙袋の中の物を摘んで口の中に放り込む。
――グオオオオオオオオオオオオッ!!
少女の声に答えるように、3つの頭の幻獣が咆哮を上げる。
それと同時に空気が振動し、エリエ達に突風が吹き付けた。
全身を貫く様な咆哮に恐怖し、皆冷や汗を流すだけで動くことさえできない。まるで、捕食者の前に放り出された小動物の様だ――。
持っていた紙袋を放り投げ、少女は身を低くしてケルベロスの毛にしがみつくと、鋭い瞳でエリエ達を見据えて完全に戦闘態勢に入った。
どうやら、彼女の綺麗なオレンジ色の瞳は、侵入者であるエリエ達を獲物として捉えたらしい。その直後、エリエが武器を収め両手を振ると慌てて声を上げた。
「ちょっと待って! あなたお菓子が好きなの? なら、ここを通してくれれば、お詫びにお菓子をあげるよ?」
「…………」
少女はしばらく考える素振りを見せたが、ぶんぶんと首を振って慌てて言葉を返す。
「そんな手には乗らないし! あたしはここを守ってれば、3食お菓子付きのお昼寝し放題の生活ができるんだし! それに、あなたを通したらあたしが怒られるじゃない!」
その様子を見て、エリエが企み顔で満面の笑みを浮かべた。
この時、一瞬でも敵の口車に乗りそうになった彼女を手駒に取れると、確信にも似た何かをエリエは感じ取っていた。
(何この子……めちゃくちゃちょろそうじゃない。これは、この子から星の居場所を聞き出すしかないよね~)
エリエはそんなことを考えながら、それを悟られぬように満面の笑みを浮かべると、アイテムからバスケットを取り出して少女に見えるように突き出す。
少女は首を傾げながら、こちらの様子を窺っている。
「ふふ~ん。これが何か分かる?」
「なになに?」
エリエがにっこりと微笑んでそう少女に尋ねると、興味津々な様子で幻獣の頭から身を乗り出す。
思惑通り彼女の視線はすでに、エリエの取り出したバスケットに釘付けだ。
次の瞬間「じゃ~ん」と、得意気にその蓋を開けて少女に中身を見せた。
そこにはマドレーヌが山のように入っていた。
少女はそれを見てよだれを垂らすと、そのバスケットの中身に夢中になっている。
「さて、ここに入ったマドレーヌ……食べたくない?」
「食べたい!」
「なら、食べていいよ~。ほら、おいでおいで~」
エリエは不敵な笑みを浮かべながら、しなやかな手首の動きで少女を手招きする。だが、そんなことを気にする様子もなく。
少女は幻獣の頭から滑り降りると、警戒しながらも。ゆっくり、ちょっとずつバスケットの中のマドレーヌに向かってくる。その様子は木の実を目の前に、臆病ながらも寄って来るリスの様だ――。
エリエは彼女を満面の笑みで手招きを続けると、少女の警戒は薄れたのか、その足は徐々に速まる。
バスケットの前まで来た少女は、疑うように眉をひそめながらエリエに尋ねる。
「あっ……毒とか入れてない?」
「もちろん! ほら――――うん! 美味しい♪」
エリエはバスケットの中のマドレーヌを自分の口に頬張って見せた。
毒が入っていないことを確認した少女は生唾を呑み込む。
エリエのその幸せそうな顔を見て、少女も堪らずマドレーヌに手を伸ばしそれを自分の口へと運ぶ。
「ほんほに、こえすほくほいひいし~」
幸せそうな笑顔を見せ、次々と食べ進めていく少女を尻目に、エリエが何やらサラザに目で合図を送る。
サラザは無言のまま親指を立てると、少女の背後に回り込んでその強靭な腕でがっしりと少女の体を捕まえる。
「わっ! なっ、なにするの!? あぁ~、あたしのマドレーヌが~」
「ごめんなさいね~。私達はあなたに聞きたいことがあるのよ~」
地面をころころ転がる食べかけのマドレーヌを見て、少女が涙目になりながら必死に手を伸ばす。
名残惜しそうに地面に横たわる食べかけのマドレーヌを見て、がっくりと項垂れた。
っと次の瞬間。やっと自分が掴まれていることに気が付いて大きな声で叫んだ。
「ひどい! 騙した~。鬼! 悪魔! 私のマドレーヌ~!! んんっ!?」
「ちょっと! 大声出さない! あなたの仲間に見つかるでしょ!?」
エリエは慌てて大声で叫んでいた少女の口を塞いだ。
その後、その少女の体を縄で拘束すると、勝ち誇ったような瞳で緊縛され地面に転がる少女を見下ろす。
少女は瞳に涙を溜めながら恨めしそうに、エリエのことを睨み付けている。
この光景だけ見ると、どっちが悪役なのか分からなくなるが、この際仕方がないだろう。
「さて、それじゃー聞くけど。この前誘拐した女の子はどこに居るの?」
「うっ……ぐすっ……あたし。そんなの知らないし……」
「本当に知らない?」
「知らない!!」
即答してそっぽを向く少女に、エリエは困り果てた様子でため息を漏らす。
縛られながら泣きべそをかいている少女に、今度はサラザが尋ねる。
「なら、こっちに小学4年生くらいの女の子が来なかった~?」
「――知らないし……もし知ってても、キモイからおじさんには教えないし……」
「おじ……へぇ~」
その言葉の直後、ブチッ!っという音が聞こえたかと思うと、サラザはにっこりと微笑み、両手で少女の頬を引っ張った。
そして口の中の物をごくんと飲み込んだ少女が、突如現れたエリエ達に向かって尋ねた。
「ねぇー。あなたは新人さん? それとも侵入者さん?」
誰もがその質問に答えることなく無言でいると、少女がつまらなそうに呟く。
「あっそ。そういう態度なんだ……まあ、どっちみち。ここを通る者は、このエリザベスに食べられることになるよ?」
無邪気ににっこりと微笑みを浮かべた少女は、ポケットから取り出した紙袋の中の物を摘んで口の中に放り込む。
――グオオオオオオオオオオオオッ!!
少女の声に答えるように、3つの頭の幻獣が咆哮を上げる。
それと同時に空気が振動し、エリエ達に突風が吹き付けた。
全身を貫く様な咆哮に恐怖し、皆冷や汗を流すだけで動くことさえできない。まるで、捕食者の前に放り出された小動物の様だ――。
持っていた紙袋を放り投げ、少女は身を低くしてケルベロスの毛にしがみつくと、鋭い瞳でエリエ達を見据えて完全に戦闘態勢に入った。
どうやら、彼女の綺麗なオレンジ色の瞳は、侵入者であるエリエ達を獲物として捉えたらしい。その直後、エリエが武器を収め両手を振ると慌てて声を上げた。
「ちょっと待って! あなたお菓子が好きなの? なら、ここを通してくれれば、お詫びにお菓子をあげるよ?」
「…………」
少女はしばらく考える素振りを見せたが、ぶんぶんと首を振って慌てて言葉を返す。
「そんな手には乗らないし! あたしはここを守ってれば、3食お菓子付きのお昼寝し放題の生活ができるんだし! それに、あなたを通したらあたしが怒られるじゃない!」
その様子を見て、エリエが企み顔で満面の笑みを浮かべた。
この時、一瞬でも敵の口車に乗りそうになった彼女を手駒に取れると、確信にも似た何かをエリエは感じ取っていた。
(何この子……めちゃくちゃちょろそうじゃない。これは、この子から星の居場所を聞き出すしかないよね~)
エリエはそんなことを考えながら、それを悟られぬように満面の笑みを浮かべると、アイテムからバスケットを取り出して少女に見えるように突き出す。
少女は首を傾げながら、こちらの様子を窺っている。
「ふふ~ん。これが何か分かる?」
「なになに?」
エリエがにっこりと微笑んでそう少女に尋ねると、興味津々な様子で幻獣の頭から身を乗り出す。
思惑通り彼女の視線はすでに、エリエの取り出したバスケットに釘付けだ。
次の瞬間「じゃ~ん」と、得意気にその蓋を開けて少女に中身を見せた。
そこにはマドレーヌが山のように入っていた。
少女はそれを見てよだれを垂らすと、そのバスケットの中身に夢中になっている。
「さて、ここに入ったマドレーヌ……食べたくない?」
「食べたい!」
「なら、食べていいよ~。ほら、おいでおいで~」
エリエは不敵な笑みを浮かべながら、しなやかな手首の動きで少女を手招きする。だが、そんなことを気にする様子もなく。
少女は幻獣の頭から滑り降りると、警戒しながらも。ゆっくり、ちょっとずつバスケットの中のマドレーヌに向かってくる。その様子は木の実を目の前に、臆病ながらも寄って来るリスの様だ――。
エリエは彼女を満面の笑みで手招きを続けると、少女の警戒は薄れたのか、その足は徐々に速まる。
バスケットの前まで来た少女は、疑うように眉をひそめながらエリエに尋ねる。
「あっ……毒とか入れてない?」
「もちろん! ほら――――うん! 美味しい♪」
エリエはバスケットの中のマドレーヌを自分の口に頬張って見せた。
毒が入っていないことを確認した少女は生唾を呑み込む。
エリエのその幸せそうな顔を見て、少女も堪らずマドレーヌに手を伸ばしそれを自分の口へと運ぶ。
「ほんほに、こえすほくほいひいし~」
幸せそうな笑顔を見せ、次々と食べ進めていく少女を尻目に、エリエが何やらサラザに目で合図を送る。
サラザは無言のまま親指を立てると、少女の背後に回り込んでその強靭な腕でがっしりと少女の体を捕まえる。
「わっ! なっ、なにするの!? あぁ~、あたしのマドレーヌが~」
「ごめんなさいね~。私達はあなたに聞きたいことがあるのよ~」
地面をころころ転がる食べかけのマドレーヌを見て、少女が涙目になりながら必死に手を伸ばす。
名残惜しそうに地面に横たわる食べかけのマドレーヌを見て、がっくりと項垂れた。
っと次の瞬間。やっと自分が掴まれていることに気が付いて大きな声で叫んだ。
「ひどい! 騙した~。鬼! 悪魔! 私のマドレーヌ~!! んんっ!?」
「ちょっと! 大声出さない! あなたの仲間に見つかるでしょ!?」
エリエは慌てて大声で叫んでいた少女の口を塞いだ。
その後、その少女の体を縄で拘束すると、勝ち誇ったような瞳で緊縛され地面に転がる少女を見下ろす。
少女は瞳に涙を溜めながら恨めしそうに、エリエのことを睨み付けている。
この光景だけ見ると、どっちが悪役なのか分からなくなるが、この際仕方がないだろう。
「さて、それじゃー聞くけど。この前誘拐した女の子はどこに居るの?」
「うっ……ぐすっ……あたし。そんなの知らないし……」
「本当に知らない?」
「知らない!!」
即答してそっぽを向く少女に、エリエは困り果てた様子でため息を漏らす。
縛られながら泣きべそをかいている少女に、今度はサラザが尋ねる。
「なら、こっちに小学4年生くらいの女の子が来なかった~?」
「――知らないし……もし知ってても、キモイからおじさんには教えないし……」
「おじ……へぇ~」
その言葉の直後、ブチッ!っという音が聞こえたかと思うと、サラザはにっこりと微笑み、両手で少女の頬を引っ張った。
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