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アジトへの潜入5

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 星を探して、城内をあてもなく走っていたエリエ達の前に、上へと通じる階段が現れた。

 逃げ回りながらだが、すでにこの階に星はいないであろうと誰もが感じ取っていた。

 後ろからは数多くの兵士達が追いかけて来ている。

 その緊迫する雰囲気の中、エリエが階段を指差して叫ぶ。

「見て! あそこから上に上がれる!」
「このまま走っていても、らちが明かないわ~。とりあえず、上の階に上がりましょ~」

 サラザのその声に従う様に皆躊躇なく、上の階へと続く螺旋状の階段を一気に駆け上がっていく。

 だが、後ろからは多くの敵が追いかけてきている以上は、上に行けば行くほど退路がなくなる為、不利になるのがセオリーだ。

 しかし、だからと言ってこのまま何もこの階に留まっていても、星を発見できる確率が上がるわけでもない。

 今が何階に居るのかは分からないものの。だが、上空から急降下してレイニールが飛び込んだわけなのだから、だいぶ上の階だったはずだ。

 そこから推測して、まずは上を探索するのがいいだろう。最悪は、敵を上の階に惹き付けて、レイニールに乗ってもう一度下の階の壁を破壊してもらってもいい。また、上空に逃げるという選択肢も取れる。

 通常ならばデメリットしかないが、こちらにレイニールという空中退避手段がある以上は、上階に上がることはむしろメリットしかない。
 フリーダムのゲームシステム上、飛行系固有スキルの所持者は極めて低く。星を捕らえているとすれば、地上から攻めにくく守りやすい最上階辺りに監禁しているはず。

 その時、一番最後尾を息を切らせながら必死に付いて来ていたカルビが突如歩みを止める。

「はぁ……はぁ……あたいはここに残るわ……」

 その場に立ち止まり、肩で息をしながら苦しそうな声を上げるカルビ。

 唐突にそう告げたカルビにサラザが声を叫ぶ。

「何言ってるのよ~! こんな場所で1人で残ったって勝機はないわ。あきらめないで~!!」
「……サラザ。ごめんなさい」

 カルビはそう小さく微笑みを浮かべると、天に身を任せ両手を広げて後ろに倒れるようにして階段を落ちていった。

 徐々に遠くなるカルビの姿に、オカマイスターのメンバーが瞳に涙を浮かべて声を大にして叫ぶ。

「「「カルビー!!」」」

 階段の幅一杯に手を広げて落ちていく。

 その突然の行動に追いかけてきた敵は断末魔の叫び声を上げて、次々と転がるカルビに巻き込まれていった。

 カルビは相撲取りなみの体格を誇る巨漢だ――それが階段の上から転がり落ちてくれば、その殺傷能力は計り知れない。
 将棋倒しの様に……ドミノ倒しの様に、一気に崩れ落ちていく敵と徐々に小さくなっていくカルビを見つめながらガーベラが叫ぶ。

「――カルビ……あの、馬鹿野郎!!」

 右手を握り締め拳を階段の壁に突き立てたガーベラのその瞳は涙で潤んでいる。
 皆その場に立ち止まり、勇敢に身を投げていったカルビのことをいつまでも見つめていた。

 追手もなくなり、静まり返った階段に突如サラザの声が響く。

「行くわよ! カルビの作った時間を無駄にはできないわ~」
「そうザマス! 早く人質を取り返してカルビを助けに戻るザマス!」
「……そうだ。私達オカマイスターは!」
『離れていても心は一つ!!』

 オカマ達3人は拳を突き出すと互いの拳を重ね、最後に打ち付け合って互いの絆を確かめ合うように声を合わせて叫んだ。

 その光景は、エリエとレイニールにとって何と表現すればいいのか分からない異質なものだった……。

 勝手に決意を新たにしたオカマイスター達と共に、エリエとレイニールは再び階段を駆け上がっていく。すると、先程とは違って少し広い場所に出た。

 だが、そこには3つの頭を持った犬の様な獅子の様な生き物が、何とも言えない威圧感と存在感を放ちながら階段の出口から飛び出してきたエリエ達を睨んでいる。その頭の大きさは大人を軽く丸呑みにできそうなほど大きく、体は象ほどはあるだろう……。

 神話に出てくる3つの頭を持つ猛獣はよだれを垂らしながら、その大きな黄色い6つの瞳を部屋の入り口付近で立ち尽くしているエリエ達に向けて全身から凄まじい殺気を放っていた。

「なっ、なんて大きさなの……」

 エリエがその大きな幻獣を見上げ掻き消えそうな声で呟く。その時、幻獣の頭からひょっこりと何者かが顔を覗かせる。

 それは肩くらいの黒髪に黄色いカチューシャを付けた中学生に入るか入らないかくらいのまだ幼さが残る少女だった。
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