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侍の魂7
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月夜に煌めく銀色の髪に、白くきめ細かい肌がまるで雪女の化身ではないかとまで錯覚させるほどだ。
目の前に倒れるナイフが刺さった無数の敵を見つめ、デイビッドが目を丸くさせている。
「なっ、何が起こったんだ?」
「はぁ~。どうして男の人は、こうも無謀なのでしょう……」
驚くデイビッドを一瞬だけ横目に俯き加減でためため息を漏らすと、銀髪の女の子が振り返った。
「あなたがマスターの友人ですか?」
「えっ? マスター?」
「…………いえ、もういいです。黙ってください」
小首を傾げ自分から尋ねておきながら、そう吐き捨てて前を向き直る女の子に。
「えっ!? もういいの!?」
っとデイビッドが声を上げる。
女の子は羽織った着物を着直して、コマンドから白い長刀を取り出すと、鞘の紐を肩に掛け背負った。
その直後、刀から伸びる鎖で右腕を拘束されている女が笑い声を上げる。
「はははっ! たった2人の援軍くらいで図に乗るんじゃないよ! あたしの欲しいのはその刀だ……男ならともかく。女なんかに興味はないんだよ! 呑み込んじまいな。イザナミ!!」
「なっ!? 地面から水が!?」
少女は咄嗟に後ろに跳んだが、それを追うようにして波が少女に迫る――。
「そうはさせません!」
女の子は自分の身長ほどもある金の装飾が施された真っ白な長刀を引き抜く抜くと、その波に向かって振り下ろす。
「……凍て付かせなさい小豆長光! 氷無永麗殺!!」
女の子そう叫ぶと、刀身から氷の結晶が吹雪のように吹き荒れて、凄まじい勢いで辺りに広がっていく。
直後。向かってきていた水の波が凍り始め、次第に地面へとその余波が侵食していくと、周りにいた敵の殆どが氷の中に閉じ込められた。それはまるで、氷上の平原に氷でできたオブジェの様だ――。
「そんな……バカな……こんなはず――」
そう言い残し、女も氷漬けになった。
着物に短刀を手にしたその姿はまるで、氷のショーケースの中に入った日本人形の様だ。
一瞬にして大将と多くの味方を失った敵の軍団は、仲間を置き去りにそそくさと撤退を始める。
その様子を見ていた女の子と少女が持っていた刀を鞘に収め、静かに口を開く。
「そろそろバロン様が来る頃ですか? 紅蓮様」
「ええ、そのはずですが……まあ、何と言ってもバロンですから……」
「ああ……」
眉をひそめながらため息混じりに納得したように頷いている2人を見て、状況を全く飲み込めていないデイビッドが彼女達に声を掛けた。
「そのバロンって誰ですか?」
「……すぐに分かると思いますよ」
遠くを見つめ指差す女の子に、デイビッドは首を傾げながら同じ方向を見つめる。
そこには何やら黒く蠢く何かが見えた。目を細め、それを凝視したデイビッドが驚いて声を上げた。
「おい。あれって敵の増援じゃないのか!?」
まるで黒い津波の様に、黒馬に跨り黒い西洋風の甲冑を来た兵士達がひしめき合い、土煙を上げながら物凄い勢いで向かってくる。
驚き目を見開いているデイビッドを余所に、2人は小さく息を吐いた。
その後、少女が静かに口を開く。
「安心してください。あれはこちらの援軍です。マスター様の作戦で、敵軍の後方に味方を配置していたのです」
「だが、あんな大群をいつ……? 君達は何者なんだ!?」
口元に微かに笑みを浮かべ、女の子がその質問に答える。
「私達はテスターですよ。私も、あそこの彼もオリジナルスキル持ちです」
「なっ、なんだって!? じゃ、じゃー君達がマスターが以前作ったっていうギルドの!?」
「はい。私達はそのメンバーです」
それを聞いたデイビッドの表情は一変した。
それもそうだろう。【テスター】即ちベータ版のテストプレイヤーは、日本サーバーでたった4人だけ。しかも、その全てはオリジナルに考案したスキルを持ち、性格は最悪と聞かされていた。
更にこの【フリーダム】が稼働したのは5年前――だが、目の前にいる女の子は高く見積もっても小学5年生と言ったところだろう。そんな子が【テスター】だと言っても、にわかには信じがたい――。
それはデイビッドも同じな様で、あんぐりと口を開けたデイビッドが、震えた指で女の子を指差す。
「じょ、冗談でしょ? だって君はまだ小学――」
そう口にしようとしたデイビッドの首筋に、突如として鞘から引き抜かれた女の子の刀の鋒が向けられる。
鋭く睨むその瞳は殺意に満ちていて、デイビッドがそれ以上何か口にしようものなら、どうなっても不思議ではない。
女の子は小さく影のある声音で告げる。
「――人を見かけで判断すると、ケガをしますよ?」
「は、はい……」
デイビッドが首筋に突き付けられた刀を見て答えると、瞼を閉じた女の子はすっと離したのを見てほっと胸を撫で下ろす。
その耳元で女の子と同じ着物姿で横に立っていた姉と思わしき少女が、彼の耳元でささやく。
「紅蓮様は身長の事を気にしてますから、あまりその話はしないのがよろしいかと……」
「ああ、なるほどー」
苦笑いを浮かべながらデイビッドがそう返すと、少女は小さく会釈を返した。
その直後、敵の叫び声が夜の荒野に響き渡る。その声は普通ならば耳を塞ぎたくなるような惨劇の断末魔の様だ――。
目の前に倒れるナイフが刺さった無数の敵を見つめ、デイビッドが目を丸くさせている。
「なっ、何が起こったんだ?」
「はぁ~。どうして男の人は、こうも無謀なのでしょう……」
驚くデイビッドを一瞬だけ横目に俯き加減でためため息を漏らすと、銀髪の女の子が振り返った。
「あなたがマスターの友人ですか?」
「えっ? マスター?」
「…………いえ、もういいです。黙ってください」
小首を傾げ自分から尋ねておきながら、そう吐き捨てて前を向き直る女の子に。
「えっ!? もういいの!?」
っとデイビッドが声を上げる。
女の子は羽織った着物を着直して、コマンドから白い長刀を取り出すと、鞘の紐を肩に掛け背負った。
その直後、刀から伸びる鎖で右腕を拘束されている女が笑い声を上げる。
「はははっ! たった2人の援軍くらいで図に乗るんじゃないよ! あたしの欲しいのはその刀だ……男ならともかく。女なんかに興味はないんだよ! 呑み込んじまいな。イザナミ!!」
「なっ!? 地面から水が!?」
少女は咄嗟に後ろに跳んだが、それを追うようにして波が少女に迫る――。
「そうはさせません!」
女の子は自分の身長ほどもある金の装飾が施された真っ白な長刀を引き抜く抜くと、その波に向かって振り下ろす。
「……凍て付かせなさい小豆長光! 氷無永麗殺!!」
女の子そう叫ぶと、刀身から氷の結晶が吹雪のように吹き荒れて、凄まじい勢いで辺りに広がっていく。
直後。向かってきていた水の波が凍り始め、次第に地面へとその余波が侵食していくと、周りにいた敵の殆どが氷の中に閉じ込められた。それはまるで、氷上の平原に氷でできたオブジェの様だ――。
「そんな……バカな……こんなはず――」
そう言い残し、女も氷漬けになった。
着物に短刀を手にしたその姿はまるで、氷のショーケースの中に入った日本人形の様だ。
一瞬にして大将と多くの味方を失った敵の軍団は、仲間を置き去りにそそくさと撤退を始める。
その様子を見ていた女の子と少女が持っていた刀を鞘に収め、静かに口を開く。
「そろそろバロン様が来る頃ですか? 紅蓮様」
「ええ、そのはずですが……まあ、何と言ってもバロンですから……」
「ああ……」
眉をひそめながらため息混じりに納得したように頷いている2人を見て、状況を全く飲み込めていないデイビッドが彼女達に声を掛けた。
「そのバロンって誰ですか?」
「……すぐに分かると思いますよ」
遠くを見つめ指差す女の子に、デイビッドは首を傾げながら同じ方向を見つめる。
そこには何やら黒く蠢く何かが見えた。目を細め、それを凝視したデイビッドが驚いて声を上げた。
「おい。あれって敵の増援じゃないのか!?」
まるで黒い津波の様に、黒馬に跨り黒い西洋風の甲冑を来た兵士達がひしめき合い、土煙を上げながら物凄い勢いで向かってくる。
驚き目を見開いているデイビッドを余所に、2人は小さく息を吐いた。
その後、少女が静かに口を開く。
「安心してください。あれはこちらの援軍です。マスター様の作戦で、敵軍の後方に味方を配置していたのです」
「だが、あんな大群をいつ……? 君達は何者なんだ!?」
口元に微かに笑みを浮かべ、女の子がその質問に答える。
「私達はテスターですよ。私も、あそこの彼もオリジナルスキル持ちです」
「なっ、なんだって!? じゃ、じゃー君達がマスターが以前作ったっていうギルドの!?」
「はい。私達はそのメンバーです」
それを聞いたデイビッドの表情は一変した。
それもそうだろう。【テスター】即ちベータ版のテストプレイヤーは、日本サーバーでたった4人だけ。しかも、その全てはオリジナルに考案したスキルを持ち、性格は最悪と聞かされていた。
更にこの【フリーダム】が稼働したのは5年前――だが、目の前にいる女の子は高く見積もっても小学5年生と言ったところだろう。そんな子が【テスター】だと言っても、にわかには信じがたい――。
それはデイビッドも同じな様で、あんぐりと口を開けたデイビッドが、震えた指で女の子を指差す。
「じょ、冗談でしょ? だって君はまだ小学――」
そう口にしようとしたデイビッドの首筋に、突如として鞘から引き抜かれた女の子の刀の鋒が向けられる。
鋭く睨むその瞳は殺意に満ちていて、デイビッドがそれ以上何か口にしようものなら、どうなっても不思議ではない。
女の子は小さく影のある声音で告げる。
「――人を見かけで判断すると、ケガをしますよ?」
「は、はい……」
デイビッドが首筋に突き付けられた刀を見て答えると、瞼を閉じた女の子はすっと離したのを見てほっと胸を撫で下ろす。
その耳元で女の子と同じ着物姿で横に立っていた姉と思わしき少女が、彼の耳元でささやく。
「紅蓮様は身長の事を気にしてますから、あまりその話はしないのがよろしいかと……」
「ああ、なるほどー」
苦笑いを浮かべながらデイビッドがそう返すと、少女は小さく会釈を返した。
その直後、敵の叫び声が夜の荒野に響き渡る。その声は普通ならば耳を塞ぎたくなるような惨劇の断末魔の様だ――。
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