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侍の魂2

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 その理由はすぐに分かる。気が付かなかったのではなく、気が付くはずがなかったのだ。
 何故なら、その兵隊達の後ろにある青い複数の魔法陣から、敵がぞろぞろと出現していたからである。

 おそらく。敵は奇襲に備えて用意していたトラップのだろう。地面に青く光る魔法陣は、今もなお敵を吐き出し続け、その数はねずみ算的に膨れ上がっていく。

 その光景を見ていたデイビッドが険しい表情で静かに言った。

「――レイニールちゃん。もっと高度を落としてくれ……俺が降りて、敵の注意を惹きつける……」
「なっ、何言ってるのよ! バカじゃないの!? あの数を相手に1人でどうするっていうの!?」

 真っ先に声を上げたエリエが、その提案を否定した。

 だが、デイビッドは険しい表情を崩さぬまま、腰に差した刀を握り締めて。

「このままではカレンさんの方にまで敵の手が及ぶ可能性がある。誰かが敵の気を惹かないと、後方に残してきたカレンさんが危ない!」
「……でも」
「それに、この中で俺が最も防御力の高い鎧だ。俺以外、この高度から飛び降りて、無事でいられる保証はない!」

 デイビッドはそう言って、自分の侍のような甲冑を叩いた。

 確かに彼の言う通り。ゲームシステム上では、防御力が落下ダメージ以上ならば、HPの減少はない。しかし、逆にそれが下回っている場合は、有無を言わさずHPが『0』になり死亡する……。

 言うなれば、デイビッドのこの主張は全く根拠はなく、必ず上回っているという保証もない。その場しのぎのハッタリに過ぎなかったのだ。

 だが、デイビッドの言う通り。この大群が進行してカレンの元に行くような事態だけは避けなければいけない。
 また、全員で相手をするという方法もあるが、その場合は敵に敵襲を知られてしまい、救出対象である星を他の場所に移される危険があった。

 そんなことになれば、本末転倒もいいところだ。その為、この場では誰かが囮役となる。言い方が悪いと犠牲になる以外の選択肢がない。

「……エリエ。星ちゃんの事はお前に任せる。今はあの子を助ける事に集中しろ……」
「でも……あんな大群とやり合えるはずが……」
「……俺なら大丈夫だ。俺には星ちゃんから預かったこの【炎霊刀 正宗】がある。これなら、複数戦闘も可能だ……それに頃合いを見て必ず撤退するさ!」

 デイビッドはちらっと刀に目を落とすと、すぐに決意に満ちた眼差しでエリエの青い瞳を見つめる。

 エリエはその決意に満ちた瞳を見て、デイビッドの覚悟を感じ取ったのか、小さく頷くと。

「分かった。星の事は私に任せて!」

 っと、力強く頷いて見せた。

 そのやり取りを見ていた孔雀マツザカが、自信満々の笑みを浮かべてデイビッドの肩を叩く。

「なら、わたーしの作った。この簡易形パラシュートを持っていくザマス!」
「おう、助かる!」

 デイビッドは孔雀マツザカが差し出したリックサックを手にすると、レイニールに敵の前に降下するようにと指示を出した。

 突然、空から急降下して来たレイニールに向かって矢が雨のように放たれる。月を背にしていたレイニールだが、月をもってしてもその黄金に輝く巨大な体を隠しきることはできなかった。

「ふん。我輩にはそんなもの効かぬ!」

 その直後、レイニールの口が赤く輝き、炎が勢い良く噴射される。

 放たれた炎は飛んできた矢とともに敵を薙ぎ払うと、辺りに断末魔が響き渡り多くの敵のHP残量がPVP最低値『1』になって黒く焦げた彼等がその場に横たわる。

 その最中、デイビッドが背中から飛び降りる。それを確認して、直ぐ様レイニールが急上昇を始めた。

 レイニールは翼をはためかせ、一目散にその場を飛び去っていく。

 エリエはそんなデイビッドの後ろ姿を見て小さく呟く。

「……死ぬんじゃないわよ……デイビッド」

 飛び降りたデイビッドは、孔雀マツザカから受け取ったリュック形のパラシュートを開いて降下を始めた。
 一時的にだがレイニールの攻撃によって乱れた敵が体制を立て直し、直ぐ様デイビッドに向かって矢を放つ。

 デイビッドは咄嗟に刀を鞘から抜き、飛んで来る矢を片っ端から斬り落とす。だが、その中の数本がパラシュートの翼の部分に穴を開け、次第に落下速度が速まる。

「くっ! こうなったらこれは邪魔だな……着陸時にバランスが取れなくなる!」

 デイビッドは早めに破れたパラシュートを見限り、空中で切り離すと地面に刀を突き刺し着地した。

 地面が窪み、それと同時に辺りに大量の土煙が上がる。

 徐々に迫ってくる敵の集団が、獲物を構えて刃先を土煙の方へと向けている。すると、突如としてその土煙の中から赤黒い炎が飛び出してきた。

 その炎は辺りの敵を巻き込み、敵のHPが『1』になってもその体を燃やし続ける。

「ぎゃあああああああああッ!!」「火だ! 離れないと焼き殺されるぞ!!」「まだ俺は死にたくねぇー!!」

 辺りからは多くの悲鳴が上がり、恐怖で無秩序に動き回る兵士達であふれかえって敵の陣形が乱れ始めていた。

 まさか広範囲に発動できるスキルを有しているとは、彼等は思ってもいなかったのだろう。
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