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鉤爪武器の男6
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全身から放たれるその殺気から、相当彼が怒っていることが分かる。
辺りにはピリピリとした空気が流れ、静かに手にはめたグローブを握り締めてマスターは男に低い声で告げた。
「――儂の弟子を散々おもちゃにしてくれたようだな…………容赦はせんぞ?」
「何を言ってるぜよ。女をおもちゃにして何が悪い……女なんて所詮は、男を楽しませる為の嗜好品に過ぎんぜよ!」
鋭い眼光で拳を構えるマスターに、悪びれる様子もなく笑いながら男が言い放つ。
マスターは怒りに震えた声で小さく「儂とお前とは相容れぬようだ……」と呟くと、拳に闇属性の黒いオーラを纏った。
次の瞬間。一陣の風の如く、鬼の様な形相で地面を蹴って瞬時に距離を詰めたマスターが男に襲い掛かる。
男は攻撃が当たる瞬間に両手足で地面を蹴って素早くかわし。その後、獣の様に手足を巧みに使って四足歩行で地面を自由自在に駆け回ると、マスターに向かって飛び掛かってきた。
マスターはその攻撃を紙一重でかわすと、男も再度地面を蹴って何度も襲い掛かる。
カレンはそんな男の攻撃を見て、自分が男にやられた時のことを思い出していた。
(そうか! あの時、一瞬遅れたのは俺が遅かったからじゃない……二本足で蹴るより、両手足を使った四本で蹴った方がシステム上は速いんだ!!)
カレンのその推測は当たっていた――現にマスターは男の攻撃をかわしてはいるものの。なかなか反撃に転じることができず防戦一方になっている。
しかし、マスターも反撃をする気がないわけではない。
スピードが速すぎて攻撃の体制に入るよりも先に、男がその場所を移動してしまうのだ。だが、それはマスターが劣っているというわけではない――。
今のマスターは上半身の装備をカレンに貸していて、それによってマスター防御力はがくっと下がっている。
しかし、それは生身の肌を曝け出しているからだ。システム上は防具は装備されていた道着の重量は軽減されてはいるものの、スピードは向こうに利がある。
フリーダムでの基本スキルは、スイフトとタフネスの2種類――スイフトはスピード、攻撃速度を上昇させ。タフネスは防御力、パワーを上昇させる。
マスターはタフネスなのにもかかわらず、今、戦闘中の男はスイフトを使用し、尚且つゲームシステム上予想していなかった両手足で地面を蹴る、四足戦術を使っている。四足歩行での加速――それは言うなれば、バグを利用したチートの様なものだ。
道着という軽めの装備にグローブを装備したことで、マスターも重量軽減による攻撃速度、スピードの追加ボーナスがあったとしても、チートを使用している相手との戦闘は厳しい。
度重なる男の攻撃を全て紙一重でかわすマスターに男の声が響いた。
「どうした? 老化で足腰が覚束なくなってるぜよッ!?」
「フンッ、話している暇があるとはな……お前の攻撃など、そよ風ほどにも感じぬわ!」
そう言い放つマスターの涼しい表情から、その言葉がはったりではないことが窺い知れる。
ただ、動きに慣れたマスターも時折男にフェイントのような攻撃の真似事をするくらいで、有効打を打つ素振りすらない。それはまるで、時間を稼いでいるかのようにも見えた。
そんなマスターに痺れを切らした男が、体制を整える為一瞬マスターから距離を取り、座り込んでいるカレンを見てニヤリと不気味に笑う。
その刹那、地面に転がっている石を拾い上げると、素早くカレン目掛けて投げた。
「――なっ!? カレンッ!!」
「ふふっ……弱いやつから片付けるのは戦闘の常識だろ? あの女の残りHPは1……つまり、あの石ころ一つでゲームオーバーぜよ!!」
カレンは自分目掛けて一直線に飛んでくる石を見つめ一瞬で顔を青ざめさせる。
それもそのはずだ。今は『リカバリー』で回復した異常状態だが、毒の効果によってカレンのHP残量は『1』しかも、マスターが戦闘に割って入ったところで戦闘は継続している。
フリーダムのゲームシステム上。PVP中の回復アイテムの使用は不可で、それに加えて、最小ダメージは0ではなく1なのである。
だが、所詮は石ころ。弓などの飛び道具があるフリーダム内ではさほど速くはない為、見えていれば容易に見切ることが可能。プレイヤーがかわせばいいのだが、今のカレンには防御どころか、蓄積した疲労から指一本動かすことすらできない……。
「どうする! 咄嗟に女を庇えば、俺がお前を背中から仕留め! 見捨てれば、お前の大事な女を失う! さあ、どっちを選んでもジ・エンドぜよ!!」
男は雄叫びを上げた直後、マスターがカレンを助ける為に背中を見せると踏んだのか、地面に両手を着いていつでも攻撃を仕掛けられる体制に入った。
彼の体制を見るに、先程の言葉はハッタリではなく。カレンを助けに入ったマスターの背後から一気に勝負を決めるつもりでいるのは間違いない。
だが、マスターは口元に微かな笑みを浮かべ呟く。
「なに……ならば、この場を動かなければ良いだけのこと……」
徐に両手を左右に突き出すと、マスターは右手をカレンに向かう石に向け、左手を男に向けた。その直後、マスターの両手から圧縮された黒いオーラが放出され、カレンに向かう石と男を撃ち抜く。
辺りにはピリピリとした空気が流れ、静かに手にはめたグローブを握り締めてマスターは男に低い声で告げた。
「――儂の弟子を散々おもちゃにしてくれたようだな…………容赦はせんぞ?」
「何を言ってるぜよ。女をおもちゃにして何が悪い……女なんて所詮は、男を楽しませる為の嗜好品に過ぎんぜよ!」
鋭い眼光で拳を構えるマスターに、悪びれる様子もなく笑いながら男が言い放つ。
マスターは怒りに震えた声で小さく「儂とお前とは相容れぬようだ……」と呟くと、拳に闇属性の黒いオーラを纏った。
次の瞬間。一陣の風の如く、鬼の様な形相で地面を蹴って瞬時に距離を詰めたマスターが男に襲い掛かる。
男は攻撃が当たる瞬間に両手足で地面を蹴って素早くかわし。その後、獣の様に手足を巧みに使って四足歩行で地面を自由自在に駆け回ると、マスターに向かって飛び掛かってきた。
マスターはその攻撃を紙一重でかわすと、男も再度地面を蹴って何度も襲い掛かる。
カレンはそんな男の攻撃を見て、自分が男にやられた時のことを思い出していた。
(そうか! あの時、一瞬遅れたのは俺が遅かったからじゃない……二本足で蹴るより、両手足を使った四本で蹴った方がシステム上は速いんだ!!)
カレンのその推測は当たっていた――現にマスターは男の攻撃をかわしてはいるものの。なかなか反撃に転じることができず防戦一方になっている。
しかし、マスターも反撃をする気がないわけではない。
スピードが速すぎて攻撃の体制に入るよりも先に、男がその場所を移動してしまうのだ。だが、それはマスターが劣っているというわけではない――。
今のマスターは上半身の装備をカレンに貸していて、それによってマスター防御力はがくっと下がっている。
しかし、それは生身の肌を曝け出しているからだ。システム上は防具は装備されていた道着の重量は軽減されてはいるものの、スピードは向こうに利がある。
フリーダムでの基本スキルは、スイフトとタフネスの2種類――スイフトはスピード、攻撃速度を上昇させ。タフネスは防御力、パワーを上昇させる。
マスターはタフネスなのにもかかわらず、今、戦闘中の男はスイフトを使用し、尚且つゲームシステム上予想していなかった両手足で地面を蹴る、四足戦術を使っている。四足歩行での加速――それは言うなれば、バグを利用したチートの様なものだ。
道着という軽めの装備にグローブを装備したことで、マスターも重量軽減による攻撃速度、スピードの追加ボーナスがあったとしても、チートを使用している相手との戦闘は厳しい。
度重なる男の攻撃を全て紙一重でかわすマスターに男の声が響いた。
「どうした? 老化で足腰が覚束なくなってるぜよッ!?」
「フンッ、話している暇があるとはな……お前の攻撃など、そよ風ほどにも感じぬわ!」
そう言い放つマスターの涼しい表情から、その言葉がはったりではないことが窺い知れる。
ただ、動きに慣れたマスターも時折男にフェイントのような攻撃の真似事をするくらいで、有効打を打つ素振りすらない。それはまるで、時間を稼いでいるかのようにも見えた。
そんなマスターに痺れを切らした男が、体制を整える為一瞬マスターから距離を取り、座り込んでいるカレンを見てニヤリと不気味に笑う。
その刹那、地面に転がっている石を拾い上げると、素早くカレン目掛けて投げた。
「――なっ!? カレンッ!!」
「ふふっ……弱いやつから片付けるのは戦闘の常識だろ? あの女の残りHPは1……つまり、あの石ころ一つでゲームオーバーぜよ!!」
カレンは自分目掛けて一直線に飛んでくる石を見つめ一瞬で顔を青ざめさせる。
それもそのはずだ。今は『リカバリー』で回復した異常状態だが、毒の効果によってカレンのHP残量は『1』しかも、マスターが戦闘に割って入ったところで戦闘は継続している。
フリーダムのゲームシステム上。PVP中の回復アイテムの使用は不可で、それに加えて、最小ダメージは0ではなく1なのである。
だが、所詮は石ころ。弓などの飛び道具があるフリーダム内ではさほど速くはない為、見えていれば容易に見切ることが可能。プレイヤーがかわせばいいのだが、今のカレンには防御どころか、蓄積した疲労から指一本動かすことすらできない……。
「どうする! 咄嗟に女を庇えば、俺がお前を背中から仕留め! 見捨てれば、お前の大事な女を失う! さあ、どっちを選んでもジ・エンドぜよ!!」
男は雄叫びを上げた直後、マスターがカレンを助ける為に背中を見せると踏んだのか、地面に両手を着いていつでも攻撃を仕掛けられる体制に入った。
彼の体制を見るに、先程の言葉はハッタリではなく。カレンを助けに入ったマスターの背後から一気に勝負を決めるつもりでいるのは間違いない。
だが、マスターは口元に微かな笑みを浮かべ呟く。
「なに……ならば、この場を動かなければ良いだけのこと……」
徐に両手を左右に突き出すと、マスターは右手をカレンに向かう石に向け、左手を男に向けた。その直後、マスターの両手から圧縮された黒いオーラが放出され、カレンに向かう石と男を撃ち抜く。
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