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ウォーレスト山脈
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エミルの城を出て2日。夜空を全速力で進むレイニールの背中に乗りながら、エリエ達は各々に装備を確認し、念入りに準備をしながらウォーレスト山脈へと向かう。
レイニールの背中に揺られるメンバー達の表情は真剣そのものだった。
それもそのはずだ。敵はフリーダムの中でも屈指のPVPに特化した戦闘系の組織――また事件以来。数々の戦闘で得た戦利品を、数多く所有しているのは間違いない。
いくら熟練したプレイヤー揃いのエリエ達でも、物量と装備に長けたダークブレッドのメンバーとの戦闘は、厳しいものになるのは必死だった。最悪は、今この場に居るメンバーの中から犠牲者を出すことも十分に考えられる――。
そんな緊張感もあってか、皆険しい表情でただ前を見つめていた。
っとその時、一番先頭に居たディビッドが声を上げる。
「見えたぞ! 飛竜種の群れだ! これ以上は飛べそうにない。予定通り陸路に切り替える!」
そのデイビッドの言葉に、エリエ達が無言で頷く。
空中での戦闘方法の少ないフリーダムで、飛竜の様な飛行できるものは難易度の高いモンスターに指定されている。
飛行手段のないプレイヤーは飛竜が襲って来た一瞬に背中に飛び移るか、その背中の翼を切り落として無理やり戦闘に持ち込むのがセオリーだ。
空中ならいっぺんに向かって来る奴等も、地上なら一体ずつしか攻撃を仕掛けて来ない設定になっている。
ただそれだけ。空中で戦うのは、とてもリスクの高い敵であることは間違いないだろう。
大きな翼をはためかせながら土煙を巻き上げて、地面に着地したレイニールは、すぐに小さい竜の姿に戻ってしまう。
さすがに長距離を飛び続けて疲れたらしく、その表情には疲労の色が濃く見えた。
それもそのはずだろう。まる2日ずっと飛んでいたのだ。普段は小さい姿を維持して、少しでもエネルギーを節約していたレイニールが、巨竜の姿を維持して飛び続けるのは相当辛かったはずだ。
レイニールはただ『主を助けたい……』というその一心で、気力を振り絞ってここまで来たのだろう。
地面にへばりつくようにして荒い息を繰り返すレイニールに、心配そうにカレンが声を掛ける。
「大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……はぁ……なに、これくらい。どうってことは、ないのじゃ!」
虚勢を張りながら、レイニールが体を重そうにゆっくりと立ち上がる。そんなレイニールをカレンは抱き上げると、徐に自分の肩に乗せた。
レイニールは驚いたように目を丸くさせながら、カレンの顔を見つめた。
「……どういうつもりじゃ?」
「まだ先は長い。君は俺の肩で休んでいるといい。頭に乗るのは、星ちゃんを無事に取り戻してからだろう?」
「うむ。良く分かっておるではないか! 気に入ったぞ!」
レイニールがそう嬉しそうに微笑むと、カレンも微笑み返す。その後、各々召喚用の笛で馬を呼び出すと、その背に跨って走り出す。
幸い。今はまだ平地が続くがこの先は急な斜面や足場の悪い場所が多く、馬などの騎乗用の道具は使えない――っというよりも。使えるけど使わないと言う方が正しいだろう。
一応希少な召喚用アイテムでワイバーンという物もあるのだが、それを使えば直ぐ様、上空の飛竜が襲い掛かって来てしまって戦闘になる。
今は下手な戦闘は避け、少しでも隠密行動をして多くの敵の情報を収集するのが先決だ。
早々と出てきた今のエリエ達には限られた装備品しかなく。第二陣のエミル達が補給物資を持ってくるのを待つ意外に、物量でも数でも勝る相手と戦うのは不可能なのだ。
先頭を走るデイビッドの横に馬を付けたサラザが、難しい顔をしながら声を掛けてきた。
「ここまでは予定通りね、デイビッドちゃん。で、これからどうするの?」
「そうだなー。とりあえずは城からある程度距離を置いた場所で、エミル達を待つ方向で考えてるよ。今のまま進んでも戦闘になるだろうし、戦闘になれば、明らかにこっちが不利だからね」
前を向いたまま淡々と話すデイビッドに、サラザが更に言葉を続ける。
「そう、確かにそれがいいと思うわ~。……人質が居なければね……」
「……サラザさん。何が言いたいんだ?」
そう言ってデイビッドは横目でサラザを見る。
その思わせぶりなサラザの口ぶりに、デイビッドは不機嫌そうに眉をひそめた。だが、サラザはそんなデイビッドに小声で告げた。
「あなたも気が付いているんでしょ? エリーの事よ。待てと言われて待つような精神状態じゃない……きっとあの子は単身でも敵アジトに乗り込むわよ?」
「……確かに。なら、どうする? 何かいい案があるのか?」
そうデイビッドが聞き返すとサラザは「もちろんよ~」と胸筋を左右交互にピクピク動かして答えた。
まるで生き物の様に動くサラザの胸筋に、デイビッドは顔を引き攣らせている。
レイニールの背中に揺られるメンバー達の表情は真剣そのものだった。
それもそのはずだ。敵はフリーダムの中でも屈指のPVPに特化した戦闘系の組織――また事件以来。数々の戦闘で得た戦利品を、数多く所有しているのは間違いない。
いくら熟練したプレイヤー揃いのエリエ達でも、物量と装備に長けたダークブレッドのメンバーとの戦闘は、厳しいものになるのは必死だった。最悪は、今この場に居るメンバーの中から犠牲者を出すことも十分に考えられる――。
そんな緊張感もあってか、皆険しい表情でただ前を見つめていた。
っとその時、一番先頭に居たディビッドが声を上げる。
「見えたぞ! 飛竜種の群れだ! これ以上は飛べそうにない。予定通り陸路に切り替える!」
そのデイビッドの言葉に、エリエ達が無言で頷く。
空中での戦闘方法の少ないフリーダムで、飛竜の様な飛行できるものは難易度の高いモンスターに指定されている。
飛行手段のないプレイヤーは飛竜が襲って来た一瞬に背中に飛び移るか、その背中の翼を切り落として無理やり戦闘に持ち込むのがセオリーだ。
空中ならいっぺんに向かって来る奴等も、地上なら一体ずつしか攻撃を仕掛けて来ない設定になっている。
ただそれだけ。空中で戦うのは、とてもリスクの高い敵であることは間違いないだろう。
大きな翼をはためかせながら土煙を巻き上げて、地面に着地したレイニールは、すぐに小さい竜の姿に戻ってしまう。
さすがに長距離を飛び続けて疲れたらしく、その表情には疲労の色が濃く見えた。
それもそのはずだろう。まる2日ずっと飛んでいたのだ。普段は小さい姿を維持して、少しでもエネルギーを節約していたレイニールが、巨竜の姿を維持して飛び続けるのは相当辛かったはずだ。
レイニールはただ『主を助けたい……』というその一心で、気力を振り絞ってここまで来たのだろう。
地面にへばりつくようにして荒い息を繰り返すレイニールに、心配そうにカレンが声を掛ける。
「大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……はぁ……なに、これくらい。どうってことは、ないのじゃ!」
虚勢を張りながら、レイニールが体を重そうにゆっくりと立ち上がる。そんなレイニールをカレンは抱き上げると、徐に自分の肩に乗せた。
レイニールは驚いたように目を丸くさせながら、カレンの顔を見つめた。
「……どういうつもりじゃ?」
「まだ先は長い。君は俺の肩で休んでいるといい。頭に乗るのは、星ちゃんを無事に取り戻してからだろう?」
「うむ。良く分かっておるではないか! 気に入ったぞ!」
レイニールがそう嬉しそうに微笑むと、カレンも微笑み返す。その後、各々召喚用の笛で馬を呼び出すと、その背に跨って走り出す。
幸い。今はまだ平地が続くがこの先は急な斜面や足場の悪い場所が多く、馬などの騎乗用の道具は使えない――っというよりも。使えるけど使わないと言う方が正しいだろう。
一応希少な召喚用アイテムでワイバーンという物もあるのだが、それを使えば直ぐ様、上空の飛竜が襲い掛かって来てしまって戦闘になる。
今は下手な戦闘は避け、少しでも隠密行動をして多くの敵の情報を収集するのが先決だ。
早々と出てきた今のエリエ達には限られた装備品しかなく。第二陣のエミル達が補給物資を持ってくるのを待つ意外に、物量でも数でも勝る相手と戦うのは不可能なのだ。
先頭を走るデイビッドの横に馬を付けたサラザが、難しい顔をしながら声を掛けてきた。
「ここまでは予定通りね、デイビッドちゃん。で、これからどうするの?」
「そうだなー。とりあえずは城からある程度距離を置いた場所で、エミル達を待つ方向で考えてるよ。今のまま進んでも戦闘になるだろうし、戦闘になれば、明らかにこっちが不利だからね」
前を向いたまま淡々と話すデイビッドに、サラザが更に言葉を続ける。
「そう、確かにそれがいいと思うわ~。……人質が居なければね……」
「……サラザさん。何が言いたいんだ?」
そう言ってデイビッドは横目でサラザを見る。
その思わせぶりなサラザの口ぶりに、デイビッドは不機嫌そうに眉をひそめた。だが、サラザはそんなデイビッドに小声で告げた。
「あなたも気が付いているんでしょ? エリーの事よ。待てと言われて待つような精神状態じゃない……きっとあの子は単身でも敵アジトに乗り込むわよ?」
「……確かに。なら、どうする? 何かいい案があるのか?」
そうデイビッドが聞き返すとサラザは「もちろんよ~」と胸筋を左右交互にピクピク動かして答えた。
まるで生き物の様に動くサラザの胸筋に、デイビッドは顔を引き攣らせている。
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