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父親の影2
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覆面の男は今度は星の瞳を凝視する。その時、覆面の中から見えた瞳が血走っていたのを星は見逃さなかった。
「そう、君のお父さんは脳の中の記憶のメカニズムを研究していた。そして、遂に見つけたのだ、人類の進化の全てを超越した【メモリーズ】を……」
「……メモリーズ?」
星はその【メモリーズ】という聞き慣れない言葉に、少し困惑した様子で首を傾げる。
そんな彼女に、覆面の男は自分の覆面を押し潰す様に顔を覆った後に説明を始める。
「ああ、小学生の君には分からないね。掻い摘んで簡単に説明すれば、脳に記憶を記録する電波信号のコードネームだよ。人の記憶とは、五感の無数の電気的な刺激によって記憶され、同じく電気信号によって呼び起こされる。脳の中の海馬と言う部分に特殊な電波を一定時間照射することで、人の記憶の全てを抜き取り上書きする事ができるという画期的な発見をしたのだよ」
その話を聞いて、ただただ首を傾げる星の頭を指差して言った。
「つまり、このメモリーズさえあれば。記憶を完全にコピーできるということだ」
「……それがどうして、私のお父さんが悪い人だって事になるんですか?」
星にそう尋ねられた男が不気味に笑う。
そして、俯く加減で徐に告げた。
「――それは記憶と言うものは、古代より人類の触れてはならない禁忌だからだよ……」
彼の口から出た。その『禁忌』という言葉に、星は難しい顔をして首を傾げている。
「ああ、すまないね。簡単に言うと、やってはいけない事かな?」
「どうしてやってはいけない事なんですか?」
なおも首を傾げる彼女の耳元で、覆面の男が律儀にも説明を始める。
まあ、仮にも小学生の星にとって、彼の話すことは難しいのだろう。どうしても、分からないところを聞き返す形になってしまうのは仕方がない。
「簡単なことだよ。死んだ人間は蘇らせてはいけない。だからクローンという――自分と同じ自分を作り出す技術は使ってはならないとされていた。いや、同じ自分というのは合っていて少し違うな……言うなれば、記憶を蓄積している脳が違うから、クローン技術が日の目を見れなかったと言う方が正しいだろう」
「……脳が違う?」
「そう! 脳へ記憶される信号は、日々の積み重ねでのみ生み出せる。その記憶を蓄積させている脳が違うということは、そのクローンは本体の劣化物にもならん。顔と形の似た別人――いや、人形だよ!」
星は覆面の男の言ってる意味が分からず、更に大きく首を傾げた。
しかし、男はそんな星の様子など気にする素振りすら見せず熱弁を続けている。
「だが、大空博士の研究【メモリーズ】があれば、記憶を抜き取り、それをそのまま上書きした完璧なコピーを生み出すことができる。更に既存の人間の記憶に細工をして、思い通りの記憶を持った人間を作る事も可能になるのだよ! また、記憶を操作できるということは、理性を持たない人間兵器なんかも容易に作り出せる……外国の人間を捕まえて、記憶を操作し。自国のスパイに仕立て上げる事も容易だ――政府の高官の記憶を操作し、戦争を起こさせる事もね……まさに自由自在。思うがままだ! それはまさに、神に唾吐く行為にして、人類が神となれる唯一の方法なのだよ!」
狂ったように笑う狼の覆面の男を見て、星は底知れない恐怖と自分の父親がそんな研究をしていたことを知ったショックとの両方が、激しく頭の中をぐるぐると回っていた。
「うっ……嘘だ。私のお父さんは優しい人で……だから……」
星は顔を青ざめながら、自分に言い聞かせるようにそう呟く。
その時、今まで狂ったように笑っていた男が今度は声を荒らげて叫んだ。
「だが! 大空博士はあの女と一緒に。せっかくの研究のデータと共に姿を消した!」
「……あの女?」
そう呟いた星の方を覆面から覗かせた瞳が、ギロッと見据える。その直後、星の拘束されている検査台に覆い被さる様に星の顔の横に両手を突き立てる。
星はあまりの恐怖に、動けないと分かっていても、逃れようと体を動かしてしまう。
そんな怯えた様子の星に男が抑揚のない声で告げる。
「――君のお母さんだよ……大空博士は第一助手の僕ではなく! 第二助手のあの女と一緒に研究機関を飛び出したんだ! この僕とではなく! あの阿婆擦れと!!」
「……ひっ!」
声を荒らげ星の顔に噛み付くくらいの勢いで叫んだ男に、星は思わず小さく悲鳴を上げる。
星の目の前の覆面からは、血走った男の瞳がギロリと星の顔を見つめている。
その瞳は憎悪そのものと言った感じのものだった。その恐怖から星の瞳が潤み始める。それを見て、男は再び不気味に笑いゆっくりと立ち上がると、意気消沈した様子で小さく呟いた。
「……大空博士を乗せた車が、崖から転落したという事実を知った時は、僕も目の前が真っ暗になった……やはり神は存在しないと、そう思ったものだよ。だが、やっと……やっとその意味が理解できた。神が僕から親愛なる大空博士を取り上げたのは、君の存在があるからなのだと……」
「…………」
(この人、頭がおかしい……さっきから変なことばっかり言って……)
星が無言のまま、心の中でそう小さく呟く。その時、星の頬を男が右手でそっと撫でた。
小刻みに震えながら、目を瞑った星の耳元で男がささやく。
「――君は僕にとっての実験体であり。最良の妻になる女性だ……メモリーズを手に入れたら、君の頭の中を僕の事だけしか考えられないようにしてあげよう……」
そう告げた男のその右手がゆっくりと星の体を撫でる様に、下がってきて胸の辺りで止まる。
「……君の身も心も記憶も僕に服従させる……そして……」
その言葉とともに震える星の体を再び伝う右手が、今度は星のお腹の下の方で止まる。
覆面の男は星の下腹部を撫でながら、血走った瞳で星の顔を見下ろしながら耳元でささやく。
「向こうの世界に戻ったら……ふふっ、君と僕の子供を作る……博士と僕の遺伝子を受け継いだ子だぁ……きっと、有能な科学者になれる……」
彼の行動全てが奇行と言ってもいい。子供の星にも分かるほどに、彼の思想はぶっ飛んでいた。
「ひっ……」
(……この人……凄く危ない人だ……エミルさん!)
恐怖で怯える星のお腹を撫で回しながら男が。
「フヒヒッ、楽しみだなぁ~」
っと、不気味な笑い声を上げながら呟いた。
女子小学生を検査台に縛り付け覆いかぶさっている狼の覆面を被った男という絵面は、まさに常軌を逸しているの一言に尽きるだろう。
「そう、君のお父さんは脳の中の記憶のメカニズムを研究していた。そして、遂に見つけたのだ、人類の進化の全てを超越した【メモリーズ】を……」
「……メモリーズ?」
星はその【メモリーズ】という聞き慣れない言葉に、少し困惑した様子で首を傾げる。
そんな彼女に、覆面の男は自分の覆面を押し潰す様に顔を覆った後に説明を始める。
「ああ、小学生の君には分からないね。掻い摘んで簡単に説明すれば、脳に記憶を記録する電波信号のコードネームだよ。人の記憶とは、五感の無数の電気的な刺激によって記憶され、同じく電気信号によって呼び起こされる。脳の中の海馬と言う部分に特殊な電波を一定時間照射することで、人の記憶の全てを抜き取り上書きする事ができるという画期的な発見をしたのだよ」
その話を聞いて、ただただ首を傾げる星の頭を指差して言った。
「つまり、このメモリーズさえあれば。記憶を完全にコピーできるということだ」
「……それがどうして、私のお父さんが悪い人だって事になるんですか?」
星にそう尋ねられた男が不気味に笑う。
そして、俯く加減で徐に告げた。
「――それは記憶と言うものは、古代より人類の触れてはならない禁忌だからだよ……」
彼の口から出た。その『禁忌』という言葉に、星は難しい顔をして首を傾げている。
「ああ、すまないね。簡単に言うと、やってはいけない事かな?」
「どうしてやってはいけない事なんですか?」
なおも首を傾げる彼女の耳元で、覆面の男が律儀にも説明を始める。
まあ、仮にも小学生の星にとって、彼の話すことは難しいのだろう。どうしても、分からないところを聞き返す形になってしまうのは仕方がない。
「簡単なことだよ。死んだ人間は蘇らせてはいけない。だからクローンという――自分と同じ自分を作り出す技術は使ってはならないとされていた。いや、同じ自分というのは合っていて少し違うな……言うなれば、記憶を蓄積している脳が違うから、クローン技術が日の目を見れなかったと言う方が正しいだろう」
「……脳が違う?」
「そう! 脳へ記憶される信号は、日々の積み重ねでのみ生み出せる。その記憶を蓄積させている脳が違うということは、そのクローンは本体の劣化物にもならん。顔と形の似た別人――いや、人形だよ!」
星は覆面の男の言ってる意味が分からず、更に大きく首を傾げた。
しかし、男はそんな星の様子など気にする素振りすら見せず熱弁を続けている。
「だが、大空博士の研究【メモリーズ】があれば、記憶を抜き取り、それをそのまま上書きした完璧なコピーを生み出すことができる。更に既存の人間の記憶に細工をして、思い通りの記憶を持った人間を作る事も可能になるのだよ! また、記憶を操作できるということは、理性を持たない人間兵器なんかも容易に作り出せる……外国の人間を捕まえて、記憶を操作し。自国のスパイに仕立て上げる事も容易だ――政府の高官の記憶を操作し、戦争を起こさせる事もね……まさに自由自在。思うがままだ! それはまさに、神に唾吐く行為にして、人類が神となれる唯一の方法なのだよ!」
狂ったように笑う狼の覆面の男を見て、星は底知れない恐怖と自分の父親がそんな研究をしていたことを知ったショックとの両方が、激しく頭の中をぐるぐると回っていた。
「うっ……嘘だ。私のお父さんは優しい人で……だから……」
星は顔を青ざめながら、自分に言い聞かせるようにそう呟く。
その時、今まで狂ったように笑っていた男が今度は声を荒らげて叫んだ。
「だが! 大空博士はあの女と一緒に。せっかくの研究のデータと共に姿を消した!」
「……あの女?」
そう呟いた星の方を覆面から覗かせた瞳が、ギロッと見据える。その直後、星の拘束されている検査台に覆い被さる様に星の顔の横に両手を突き立てる。
星はあまりの恐怖に、動けないと分かっていても、逃れようと体を動かしてしまう。
そんな怯えた様子の星に男が抑揚のない声で告げる。
「――君のお母さんだよ……大空博士は第一助手の僕ではなく! 第二助手のあの女と一緒に研究機関を飛び出したんだ! この僕とではなく! あの阿婆擦れと!!」
「……ひっ!」
声を荒らげ星の顔に噛み付くくらいの勢いで叫んだ男に、星は思わず小さく悲鳴を上げる。
星の目の前の覆面からは、血走った男の瞳がギロリと星の顔を見つめている。
その瞳は憎悪そのものと言った感じのものだった。その恐怖から星の瞳が潤み始める。それを見て、男は再び不気味に笑いゆっくりと立ち上がると、意気消沈した様子で小さく呟いた。
「……大空博士を乗せた車が、崖から転落したという事実を知った時は、僕も目の前が真っ暗になった……やはり神は存在しないと、そう思ったものだよ。だが、やっと……やっとその意味が理解できた。神が僕から親愛なる大空博士を取り上げたのは、君の存在があるからなのだと……」
「…………」
(この人、頭がおかしい……さっきから変なことばっかり言って……)
星が無言のまま、心の中でそう小さく呟く。その時、星の頬を男が右手でそっと撫でた。
小刻みに震えながら、目を瞑った星の耳元で男がささやく。
「――君は僕にとっての実験体であり。最良の妻になる女性だ……メモリーズを手に入れたら、君の頭の中を僕の事だけしか考えられないようにしてあげよう……」
そう告げた男のその右手がゆっくりと星の体を撫でる様に、下がってきて胸の辺りで止まる。
「……君の身も心も記憶も僕に服従させる……そして……」
その言葉とともに震える星の体を再び伝う右手が、今度は星のお腹の下の方で止まる。
覆面の男は星の下腹部を撫でながら、血走った瞳で星の顔を見下ろしながら耳元でささやく。
「向こうの世界に戻ったら……ふふっ、君と僕の子供を作る……博士と僕の遺伝子を受け継いだ子だぁ……きっと、有能な科学者になれる……」
彼の行動全てが奇行と言ってもいい。子供の星にも分かるほどに、彼の思想はぶっ飛んでいた。
「ひっ……」
(……この人……凄く危ない人だ……エミルさん!)
恐怖で怯える星のお腹を撫で回しながら男が。
「フヒヒッ、楽しみだなぁ~」
っと、不気味な笑い声を上げながら呟いた。
女子小学生を検査台に縛り付け覆いかぶさっている狼の覆面を被った男という絵面は、まさに常軌を逸しているの一言に尽きるだろう。
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