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紅蓮の宝物22

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 ホテルに戻ったマスターは疲労困憊と言った感じにソファーに腰掛けた。だが、それも無理はない。バロンの出した黒い兵士達は使用するプレイヤーのレベルをそのまま受け継ぐ。

 つまり、古参のバロンのレベルはMAX――従って全ての兵士がLv100ということだ。

 それは重装備のモンスターを相手にしているのと変わらず、それを相当数相手にして疲れないわけがない。
 皆、疲労から項垂れる中。まず、マスターが安堵したように大きく息を吐いて。

「とりあえず。なんとかバロンはこちら側に引き込めたようだな」
「はぁー。引き込めたというよりは、妹がこちら側に居て、兄妹間で彼には拒否権がないように思えましたが……」

 呆れた様にため息をついて、白雪が呟く。
 まあ、白雪は身を隠していたとはいえ、あの現場で一部始終を目撃し。バロンの人間性と攻撃的な性格を目の当たりにしていて、こんなにもあっさり解決したことに拍子抜けしているのだろう。

 そこにメルディウスが口を挟んできた。

「まあ、結果オーライって事でいいんじゃねぇーのか?」
「そうそう。でもあの時のお姉さんは本当に怖かった。……僕にはあんなことしないよね?」

 小虎は少し怯えたように尋ねると、フィリスはにっこり微笑んで呟いた。

「小虎くんがいい子にしてればね~」
「あはは……気をつけよう……」

 はぐらかすように笑うフィリスに、小虎は顔を青ざめさせながら呟く。
 そうこうしていると、気を失ってベッドで眠っていた紅蓮が目を覚まし、むくっと体を起こしてゆっくりと歩いてきた。

 紅蓮はほっとした表情をしたのも束の間――すぐに険しい表情になり、メルディウスの隣へと腰を下ろす。

 メルディウスは気まずいのか、彼女の方を向いて小さな声で。

「――悪い……俺が油断していたばかりに、お前の短刀壊させちまって……」
「いいえ、あなたが無事ならそれで……」

 前を向いたまま、視線を合わせることなく紅蓮が言葉を返した。
 おそらく。以前から紅蓮が宝物だと言っていた脇差を失ったことをだいぶ気にしているのか、メルディウスはバツが悪そうに頭を掻く。

「でもよー。あれは限定の装備だから、もう手に入らないだろ?」
「――形あるものはいつか砕けます。メルディウス、あなたが気にする事じゃありません」
「ああ、すまん……」

 紅蓮は表情1つ変えずに告げると、メルディウスはもう一度謝った。
 正直。付き合いの長いメルディウスにも、感情表現の薄い紅蓮の言葉の意図を汲み取ることは殆どできていない。

 無言のまま頷くと、紅蓮はマスターに向かって尋ねる。

「マスター。目的は達成しました。今後はどうしますか? お弟子さんを救出に行くなら、私も行きます」
「……うーむ。だが、バロンにやられたダメージも残っておろう。儂1人で先に行こう!」

 マスターは少し考える素振りを見せてそう答えると、紅蓮はその言葉を聞いて、顎の下に手を当て考えると「分かりました」と小さく呟いた。

「なら、白雪をお供に連れて行って下さい。お願いできますか? 白雪」

 紅蓮は白雪の方を向いて首を傾げる。

 今回の戦闘で最も消耗していないのは白雪であり、彼女ならば隠密行動にも長けていることを理解しての人選なのだろう。

 的確に状況を判断できるのは、さすがサブギルドマスターを務めているだけのことはある。

 その申し出を白雪も二つ返事で了解する。

「はい。紅蓮様がそれをお望みでしたら――マスター様。私がお供いたします」
「うむ。よろしく頼む!」

 白雪は何の迷いもなく即答すると、マスターもそれに頷いた。


 翌日、出立するマスターと白雪を見送るために、皆名御屋の街の入口にきた。

 馬を近くに召喚した状態で、いつもと変わらぬ落ち着いた様子で笑みを浮かべている2人が立っていた。
 その様子は、とても今からプレイヤーキラーと称されるブラックギルドのアジトへと向かうとは思えない。

「――マスター、白雪。くれぐれもお気をつけて……」

 心配そうに眉をひそめている紅蓮に、2人はにっこりと微笑みながら言葉を返す。

「うむ。心配は要らん。お前達こそ気をつけてな」
「大丈夫ですよ紅蓮様。もしもの時は固有スキルで隠密行動が取れますし。偵察も援護もおまかせください。マスター様をお守りするお役目、必ず果たします!」
「はい。期待はしています。ですが、無理はしないで下さいね。すぐに私達も後を追いますから」
「はい」
「うむ」

 力強く頷くと、2人は颯爽と馬に跨がり走り去っていった。
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