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紅蓮の宝物17
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それとは対照的に、普段からギルドの皆の先頭に立ち、強力なモンスターと対峙することの多いメルディウスは、重鎧に更に強度を求めざるを得ない。
更に彼は変身前は大剣と斧の両面を使うことができ、変身後は攻撃力に特化した大斧となる『ベルセルク』だ。
その特殊なトレジャーアイテムによって自在に重心を変え、足りない回避速度。更には攻撃速度と圧倒的な破壊力を両立していた。
もし戦闘で苦しくなれば、大斧のモードでの爆発能力を用いて敵を一度吹き飛ばせば、容易に不利な状況からでも体制を整えられる。
つまり、圧倒的な破壊力と爆発能力を持つ『ベルセルク』という相棒を念頭に置いての戦闘スタイルなのだ――。
とは言え。メルディウスは曲がりなりにも、テスターと呼ばれるフリーダムの中では最も古参のプレイヤーだ。多少の武器の変更では、その強さは揺るがない――だが……。
「ははっ! どうした? 俺様の首を斬り落とす前に、お前の首が飛びそうだぞ!」
「ふんっ! お前なんて、こんななまくらで十分だ!」
(紅蓮。必ずお前を助ける……もうしばらく辛抱してくれ……)
メルディウスは紅蓮の姿を横目で見ながら、心の中で決意を新たに呟いた。
その視線の先に居た紅蓮は口は布で塞がれ、両脇には剣を持った黒い鎧の兵士が立っている。
* * *
どうしてこんな状況になったかというと、それは少し前に遡る――。
凄まじい殺気を放ち、紅蓮の首筋に剣を突きつけたバロンとメルディウスが対峙しながら睨み合っていた。
バロンの持っていた剣が、更に紅蓮の首筋に食い込む。
「ほら、早く得物を捨てろよ……」
「……ああ、分かった。その代わり紅蓮は逃がしてくれないか? 頼む!」
メルディウスは内から湧き上がる憤りを抑え、悔しそうに唇を噛み締めると、その場で深々とバロンに向かって頭を下げる。しかし、そんなことをバロンが聞き入れるわけもなく……。
「――バカかお前? お前如きの頼みを俺様が聞くわけないだろバカ!」
「……だろうな。分かった……」
「ダメです。そんなことをしては! 私の事は放っておいてください!」
紅蓮は大きな声で叫ぶ。
たとえ何をされても紅蓮は死ぬということはないはずだ。だが、メルディウスは別だ――バロンの攻撃でHPが尽きることはないが、周りの兵士にやられればどうなるかは分からない。
しかし、それ以前にメルディウスが固有スキルを使えば、辺り一帯が吹き飛んでしまう。それを聞いたバロンは不快そうな顔をすると、紅蓮に向かって怒鳴った。
「お前の役目は終わった。今更叫び声を上げてるんじゃない! お前達!!」
「なっ! なにするんですか?」
紅蓮の脇に立っていた兵士達は、紅蓮の口に無理矢理布を巻き付けて声を出せないようにした。
それを見たメルディウスが、狼狽えながら叫ぶ。
「やめろ! バロン! 紅蓮には手を出すな! 分かった捨てる! 捨てりゃいいんだろ!」
興奮したバロンが次に持っている大剣で紅蓮を傷付けると思ったのか、メルディウスは持っていたベルセルクを地面に突き刺すと、数歩後ろに下がった。
バロンはメルディウスの手からベルセルクが離れると見るやニヤリと笑みを浮かべ、紅蓮の首筋に突き付けていた大剣を今度はメルディウスへと向ける。
「ふふふっ……あははははッ!! 全く面白いなメルディウス。女の為にそこまでするとは、もはや無様を通り越して哀れみすら感じる……そんなお前にチャンスをやろう!」
「……チャンス?」
メルディウスは『こいつがそんな事をするわけがない』と分かっていても、その言葉に微かな希望を持ってしまう。
勝ち誇った様子でにんまりと笑みをこぼしたバロンが、上機嫌に言葉を告げた。
「ああ、俺様と戦ってもし、万が一にでも勝てれば紅蓮を返してやる」
「――その言葉に嘘偽りはないな……?」
「ああ、勝てれば……な」
バロンは古びた剣を取り出すと、それをメルディウスに放り投げた。
それを受け取ったメルディウスは一瞬にして、険しい表情に変わる。
(……こいつはやべぇーな。勝てねぇー事はねぇ……だが、こいつが約束を守るはずもねぇー。最悪の場合は、隙をみて紅蓮を救出して逃した後で俺は自爆するしかねぇーか……)
目の前で不敵な笑みを浮かべているバロンを見て心の中でそう呟くと、メルディウスは自分の手に握られている錆びついた剣を見つめた。
「俺んとこの大事なサブギルドマスターを無事に連れ帰らねぇーと、千代に残してきた奴らにも顔向けできねぇーしな……返してくれるって言うならやってやる! どこからでも掛かって来いよ、バロン!!」
「ふっ……身の程を教えてやるぞ? メルディウス!!」
メルディウスは剣を構えると、バロンが斬り込んでくる。
大剣を振りかぶり、メルディウスの近くに勢い良く地面に叩きつけると、彼に聞こえる様にわざとらしく小声で呟く。
「――お前を殺した後で、紅蓮も俺様の玩具にしてやる。知ってたか? こいつは痛くても叫び声を上げない――だが、それがまたいい。全身から汗を吹き出しながら苦痛に歪める女の表情ってのは、実に俺好みだぜ……」
「そうかよ……相変わらず腐ってやがるな! お前のそのサディスティックな考えが俺は大嫌いだぜ!!」
「奇遇だな。俺もお前が嫌いだよ!!」
バロンは素早く持っていた大剣を、メルディウスの首筋に目掛け振り抜く。
メルディウスは身を低くしてその攻撃をかわすと、バロンの振り抜いた大剣を蹴り上げ、虚を突かれたバロンの腹部を素早く蹴り飛ばした。
更に彼は変身前は大剣と斧の両面を使うことができ、変身後は攻撃力に特化した大斧となる『ベルセルク』だ。
その特殊なトレジャーアイテムによって自在に重心を変え、足りない回避速度。更には攻撃速度と圧倒的な破壊力を両立していた。
もし戦闘で苦しくなれば、大斧のモードでの爆発能力を用いて敵を一度吹き飛ばせば、容易に不利な状況からでも体制を整えられる。
つまり、圧倒的な破壊力と爆発能力を持つ『ベルセルク』という相棒を念頭に置いての戦闘スタイルなのだ――。
とは言え。メルディウスは曲がりなりにも、テスターと呼ばれるフリーダムの中では最も古参のプレイヤーだ。多少の武器の変更では、その強さは揺るがない――だが……。
「ははっ! どうした? 俺様の首を斬り落とす前に、お前の首が飛びそうだぞ!」
「ふんっ! お前なんて、こんななまくらで十分だ!」
(紅蓮。必ずお前を助ける……もうしばらく辛抱してくれ……)
メルディウスは紅蓮の姿を横目で見ながら、心の中で決意を新たに呟いた。
その視線の先に居た紅蓮は口は布で塞がれ、両脇には剣を持った黒い鎧の兵士が立っている。
* * *
どうしてこんな状況になったかというと、それは少し前に遡る――。
凄まじい殺気を放ち、紅蓮の首筋に剣を突きつけたバロンとメルディウスが対峙しながら睨み合っていた。
バロンの持っていた剣が、更に紅蓮の首筋に食い込む。
「ほら、早く得物を捨てろよ……」
「……ああ、分かった。その代わり紅蓮は逃がしてくれないか? 頼む!」
メルディウスは内から湧き上がる憤りを抑え、悔しそうに唇を噛み締めると、その場で深々とバロンに向かって頭を下げる。しかし、そんなことをバロンが聞き入れるわけもなく……。
「――バカかお前? お前如きの頼みを俺様が聞くわけないだろバカ!」
「……だろうな。分かった……」
「ダメです。そんなことをしては! 私の事は放っておいてください!」
紅蓮は大きな声で叫ぶ。
たとえ何をされても紅蓮は死ぬということはないはずだ。だが、メルディウスは別だ――バロンの攻撃でHPが尽きることはないが、周りの兵士にやられればどうなるかは分からない。
しかし、それ以前にメルディウスが固有スキルを使えば、辺り一帯が吹き飛んでしまう。それを聞いたバロンは不快そうな顔をすると、紅蓮に向かって怒鳴った。
「お前の役目は終わった。今更叫び声を上げてるんじゃない! お前達!!」
「なっ! なにするんですか?」
紅蓮の脇に立っていた兵士達は、紅蓮の口に無理矢理布を巻き付けて声を出せないようにした。
それを見たメルディウスが、狼狽えながら叫ぶ。
「やめろ! バロン! 紅蓮には手を出すな! 分かった捨てる! 捨てりゃいいんだろ!」
興奮したバロンが次に持っている大剣で紅蓮を傷付けると思ったのか、メルディウスは持っていたベルセルクを地面に突き刺すと、数歩後ろに下がった。
バロンはメルディウスの手からベルセルクが離れると見るやニヤリと笑みを浮かべ、紅蓮の首筋に突き付けていた大剣を今度はメルディウスへと向ける。
「ふふふっ……あははははッ!! 全く面白いなメルディウス。女の為にそこまでするとは、もはや無様を通り越して哀れみすら感じる……そんなお前にチャンスをやろう!」
「……チャンス?」
メルディウスは『こいつがそんな事をするわけがない』と分かっていても、その言葉に微かな希望を持ってしまう。
勝ち誇った様子でにんまりと笑みをこぼしたバロンが、上機嫌に言葉を告げた。
「ああ、俺様と戦ってもし、万が一にでも勝てれば紅蓮を返してやる」
「――その言葉に嘘偽りはないな……?」
「ああ、勝てれば……な」
バロンは古びた剣を取り出すと、それをメルディウスに放り投げた。
それを受け取ったメルディウスは一瞬にして、険しい表情に変わる。
(……こいつはやべぇーな。勝てねぇー事はねぇ……だが、こいつが約束を守るはずもねぇー。最悪の場合は、隙をみて紅蓮を救出して逃した後で俺は自爆するしかねぇーか……)
目の前で不敵な笑みを浮かべているバロンを見て心の中でそう呟くと、メルディウスは自分の手に握られている錆びついた剣を見つめた。
「俺んとこの大事なサブギルドマスターを無事に連れ帰らねぇーと、千代に残してきた奴らにも顔向けできねぇーしな……返してくれるって言うならやってやる! どこからでも掛かって来いよ、バロン!!」
「ふっ……身の程を教えてやるぞ? メルディウス!!」
メルディウスは剣を構えると、バロンが斬り込んでくる。
大剣を振りかぶり、メルディウスの近くに勢い良く地面に叩きつけると、彼に聞こえる様にわざとらしく小声で呟く。
「――お前を殺した後で、紅蓮も俺様の玩具にしてやる。知ってたか? こいつは痛くても叫び声を上げない――だが、それがまたいい。全身から汗を吹き出しながら苦痛に歪める女の表情ってのは、実に俺好みだぜ……」
「そうかよ……相変わらず腐ってやがるな! お前のそのサディスティックな考えが俺は大嫌いだぜ!!」
「奇遇だな。俺もお前が嫌いだよ!!」
バロンは素早く持っていた大剣を、メルディウスの首筋に目掛け振り抜く。
メルディウスは身を低くしてその攻撃をかわすと、バロンの振り抜いた大剣を蹴り上げ、虚を突かれたバロンの腹部を素早く蹴り飛ばした。
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