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紅蓮の宝物14
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殺気を放つメルディウスを前にしてもなお、バロンは涼しい顔で彼を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。
「お前は今の状況が分かってないな? お前の愛する者の首。今ここで落とされたいのか? 武器を捨てるのはお前の方だ。バカが!!」
「……くッ! しかたねーか……分かっ――」
「――ダメです! 私は大丈夫です! それよりも……」
突如として何かを告げようとした紅蓮の口の動きが止まる。それもそのはず。何故なら、彼女の首筋にバロンの持っていた剣の刃先が食い込んでいたのだから――。
冷や汗が額から落ちた紅蓮に、低く殺気を帯びたバロンの声が響く。
「――黙れ……今は俺が大事な話をしているんだよ。それ以上喋ったら、お前の頭が体とお別れする事になるぞ……」
「…………うぅぅ」
その凄まじい殺気の帯びた声色と、首に食い込み今にも自分の首を飛ばそうとしている刃。そして何より、まるで虫でも見るかの様な瞳に紅蓮も恐怖を感じて口をつぐむしかなかった。
さすがの紅蓮も今までに首と胴体を切り裂かれたことはない。ただ一つ分かっているのは、その激痛は想像を絶するものだということだけだ。しかし、自分の首が落とされること以上に、恐怖を感じていたのは……。
バロンという男は、自分以外をゴミ程度にしか思っていない。協調性はなく、彼にあるのは他者に絶対に負けたくないというプライドだけだ。
だからこそ、彼は勝てないメルディウスとマスターを敵視していた。そんな彼等とギルドを組んでいたのも敵に回すよりも手元に置いていた方が頭に来ないからくらいにしか思っていなかっただろう。
「――バロン!! この人間のクズがああああああッ!!」
メルディウスは発狂し。突如として咆哮を上げると、ギリギリと歯を鳴らしている。
紅蓮が恐れているのは自分の身に降りかかることよりも。今、この場で自分を失ったメルディウスが暴れ回り、固有スキルを発動させ自爆することだった。
まだ、紅蓮の固有スキル『イモータル』が発動するかも分からない。もし彼女の固有スキルが発動せずにこの辺り全土が吹っ飛ぶことになれば、この場で紅蓮とメルディウスが消えることになる。
そんなことになれば、この離脱できない孤立した世界にギルドマスターと副ギルドマスターを両方一遍に失った【THE STRONG】のメンバー達が分離してしまう恐れがあった。
それどころか、この無益な戦闘で、四天王の4人中3人を失うばかりか、マスターが頼りにして訪ねてきてくれたことが無になってしまう――。
(……私はいったいどうしたら……マスター)
紅蓮は目の前にいがみ合っているバロンとメルディウスを見つめながら、心の中でマスターの名前を呼んだ。
* * *
森の中でそんなことが繰り広げられているなどとは露知らず――。
ホテルを出た後、街で聞いた話を元に森の中へとやってきたのはいいが、入口付近で黒い重鎧の兵士に行く手を遮られ、マスターは小虎と少女を背に次々と向かってくる兵士達を殴り飛ばしていた。
だが、さすがのマスターでも2人を守りならでは、思うように戦えないのか、苦戦を強いられていた。
「くッ! これではキリがないな……」
「お姉さんは僕の後ろに! 前に出たらダメだよ!」
渋い顔をして戦うマスターを見て、小虎はコマンドを操作して取り出した燃えるような深紅の大剣を装備すると、その剣を前に構える。
小虎は目の前の鎧の兵士達を睨んだまま、ボソッと呟く。
「兄貴にはあまり見せびらかすなって言われてるけど……この数じゃ仕方ないか……」
もったいぶる様な言い回しでそう呟くと、小虎は剣を振り上げ叫ぶ。
「闘神化! 阿修羅!!」
その声の直後。小虎の体を猛烈な炎が包み込み、体を包む炎が消えると、そこには炎で模られた顔が2つに腕が4本付いていた。
全身に真紅の炎をまとった小虎のその姿は、まさに阿修羅そのものだ――。
「ほう。良いスキルだ! その力、貸してもらうぞ! ――――なにッ!?」
スキルを見たマスターが『明鏡止水』によって、小虎のスキルをコピーしようとしたのだが、彼の固有スキルをコピーすることができなかった。
何故なら、闘神化という固有スキルは、一定期間だけに限定数だけ配布されていたもので、使用中は他のスキルの干渉を受けないという追加能力があったからだ。
その為、マスターの『明鏡止水』の様な能力をコピーするものや、異常状態にする固有スキルの類などもこの状態の小虎は一切受け付けない。
また、小虎の阿修羅は左右に炎で形造られた顔が後方の視界をカバーし、その上6本となった腕には前後左右の攻撃全てに対応できる。
まさに『神』の名に恥じないスキルなのだ。
「このスキルを使っているから、僕は兄貴の右腕的存在なんだ……」
そう呟き、小虎の右手に持っていた剣のコピーを炎で作り出し、左手に装備すると今度は炎の剣が炎でできた腕の全てに現れる。
その直後、右手に持っていた剣からも炎が噴き上がり、合計6本の腕全てに剣を装備した小虎が鋭い視線を黒い兵士達に浴びせる。
「お前は今の状況が分かってないな? お前の愛する者の首。今ここで落とされたいのか? 武器を捨てるのはお前の方だ。バカが!!」
「……くッ! しかたねーか……分かっ――」
「――ダメです! 私は大丈夫です! それよりも……」
突如として何かを告げようとした紅蓮の口の動きが止まる。それもそのはず。何故なら、彼女の首筋にバロンの持っていた剣の刃先が食い込んでいたのだから――。
冷や汗が額から落ちた紅蓮に、低く殺気を帯びたバロンの声が響く。
「――黙れ……今は俺が大事な話をしているんだよ。それ以上喋ったら、お前の頭が体とお別れする事になるぞ……」
「…………うぅぅ」
その凄まじい殺気の帯びた声色と、首に食い込み今にも自分の首を飛ばそうとしている刃。そして何より、まるで虫でも見るかの様な瞳に紅蓮も恐怖を感じて口をつぐむしかなかった。
さすがの紅蓮も今までに首と胴体を切り裂かれたことはない。ただ一つ分かっているのは、その激痛は想像を絶するものだということだけだ。しかし、自分の首が落とされること以上に、恐怖を感じていたのは……。
バロンという男は、自分以外をゴミ程度にしか思っていない。協調性はなく、彼にあるのは他者に絶対に負けたくないというプライドだけだ。
だからこそ、彼は勝てないメルディウスとマスターを敵視していた。そんな彼等とギルドを組んでいたのも敵に回すよりも手元に置いていた方が頭に来ないからくらいにしか思っていなかっただろう。
「――バロン!! この人間のクズがああああああッ!!」
メルディウスは発狂し。突如として咆哮を上げると、ギリギリと歯を鳴らしている。
紅蓮が恐れているのは自分の身に降りかかることよりも。今、この場で自分を失ったメルディウスが暴れ回り、固有スキルを発動させ自爆することだった。
まだ、紅蓮の固有スキル『イモータル』が発動するかも分からない。もし彼女の固有スキルが発動せずにこの辺り全土が吹っ飛ぶことになれば、この場で紅蓮とメルディウスが消えることになる。
そんなことになれば、この離脱できない孤立した世界にギルドマスターと副ギルドマスターを両方一遍に失った【THE STRONG】のメンバー達が分離してしまう恐れがあった。
それどころか、この無益な戦闘で、四天王の4人中3人を失うばかりか、マスターが頼りにして訪ねてきてくれたことが無になってしまう――。
(……私はいったいどうしたら……マスター)
紅蓮は目の前にいがみ合っているバロンとメルディウスを見つめながら、心の中でマスターの名前を呼んだ。
* * *
森の中でそんなことが繰り広げられているなどとは露知らず――。
ホテルを出た後、街で聞いた話を元に森の中へとやってきたのはいいが、入口付近で黒い重鎧の兵士に行く手を遮られ、マスターは小虎と少女を背に次々と向かってくる兵士達を殴り飛ばしていた。
だが、さすがのマスターでも2人を守りならでは、思うように戦えないのか、苦戦を強いられていた。
「くッ! これではキリがないな……」
「お姉さんは僕の後ろに! 前に出たらダメだよ!」
渋い顔をして戦うマスターを見て、小虎はコマンドを操作して取り出した燃えるような深紅の大剣を装備すると、その剣を前に構える。
小虎は目の前の鎧の兵士達を睨んだまま、ボソッと呟く。
「兄貴にはあまり見せびらかすなって言われてるけど……この数じゃ仕方ないか……」
もったいぶる様な言い回しでそう呟くと、小虎は剣を振り上げ叫ぶ。
「闘神化! 阿修羅!!」
その声の直後。小虎の体を猛烈な炎が包み込み、体を包む炎が消えると、そこには炎で模られた顔が2つに腕が4本付いていた。
全身に真紅の炎をまとった小虎のその姿は、まさに阿修羅そのものだ――。
「ほう。良いスキルだ! その力、貸してもらうぞ! ――――なにッ!?」
スキルを見たマスターが『明鏡止水』によって、小虎のスキルをコピーしようとしたのだが、彼の固有スキルをコピーすることができなかった。
何故なら、闘神化という固有スキルは、一定期間だけに限定数だけ配布されていたもので、使用中は他のスキルの干渉を受けないという追加能力があったからだ。
その為、マスターの『明鏡止水』の様な能力をコピーするものや、異常状態にする固有スキルの類などもこの状態の小虎は一切受け付けない。
また、小虎の阿修羅は左右に炎で形造られた顔が後方の視界をカバーし、その上6本となった腕には前後左右の攻撃全てに対応できる。
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「このスキルを使っているから、僕は兄貴の右腕的存在なんだ……」
そう呟き、小虎の右手に持っていた剣のコピーを炎で作り出し、左手に装備すると今度は炎の剣が炎でできた腕の全てに現れる。
その直後、右手に持っていた剣からも炎が噴き上がり、合計6本の腕全てに剣を装備した小虎が鋭い視線を黒い兵士達に浴びせる。
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