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紅蓮の宝物9
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高速で打ち出されるナイフが、風を切り裂き熊達へと次々に突き刺さっていく。
断末魔の鳴き声を上げ、次々とそのナイフの嵐の中で倒れてゆく熊の群れ――それは大将のキンググリズリーも例外ではなく……。
――グオオオオオオオオオオォォォォォォ…………ドスンッ!!
遂に最後まで抗って見せたキンググリズリーの巨体が、断末魔の叫びを上げ地面に崩れ落ちた。
紅蓮は肌蹴そうになる着物の端を両腕で押さえながら地面に着地すると、着物の袖に腕を通し直し。
屍と化した熊達の間をてくてくと歩いて帯の前まで行くと、地面に落ちていた帯を拾い上げた。
「……速いて見えなかったですか? この技はナイフという軽い武器と、普段から軽い着物を装備から外す事で、重量は最大限まで軽くなります……」
紅蓮は拾った帯を馴れた手付きで締め直して乱れた着物を整えると、更に言葉を続ける。
「それによってシステムの補正効果と、スイフトの攻撃速度を上げる効果により。腕を高速で動かせるようになり、千本にもなるナイフを超高速で撃ち出す事が可能になるのです」
着物の帯を締め直した紅蓮は身を翻し、無数のナイフが刺さったまま倒れているキンググリズリーに背を向けた。
その直後、キンググリズリーが息を吹き返し、背を向けたままの紅蓮に襲い掛かる。
――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「ですが……」
紅蓮は素早くナイフを取り出すと、逆手で持ったそのナイフでキンググリズリーの首を斬り飛ばす。
「――この着物の裏地に縫い込んだトレジャーアイテム『インフィニティ・マント』の収納能力あってこそです…………あと、私がダジャレを口にしたのは内緒ですよ?」
そう言い終わるよりも先にキンググリズリーの巨体が地面に倒れ、紅蓮の足元に斬り落とされた首が転がる。
紅蓮は緊張の糸が切れたようにほっと息を吐くと、その頭から牙を抜き取った。すると、キンググリズリーと熊達の体がキラキラと光となって、上空に上がっていく。
上空に待機させていた雲を呼び戻すと、紅蓮は迷うことなくその上に飛び乗った。
街に戻る道中。上機嫌の紅蓮は思い出したように手を叩いた。
「ああ、そうです。この際ですし、バロンを探しに行きましょう。きっと何か情報が得られるはずです。今日はいい日ですから」
紅蓮は嬉しそうに懐にしまっていた短刀を見て、微かに笑みを浮かべた。
紅蓮と別行動になってしまった小虎と少女は、あてもなく人が多く行き交う繁華街の中を歩き回っていた――。
「お姉さん。ちょっと休憩しよう。僕もう足が棒になりそうだ~」
だらしなくふらふらと体を揺らしながら少女の後を歩いていた小虎が、そう弱音を吐いて立ち止まる。
重い足取りでよろけながら歩いている小虎に、心配した少女が優しく声を掛けた。
「そうね。紅蓮ちゃんもどこかに行っちゃったし……どこかのお店で休憩しよっか!」
「うん!」
小虎は『休憩』という言葉を聞いた途端に元気を取り戻し、少女を追い越して駆け出した。
少女をその場に残し、あっという間に先に行った小虎が振り返り。
「おーい。お姉さん早く休憩しに行こうよー!」
「もう。足が棒になるんじゃなかったの~?」
元気に手を振っている小虎を見て、少し呆れた様な笑みを浮かべると、小虎の後を追いかける。
2人は近くの大きなビルの様な建物内のファミレスに入る。
どうして、オンラインゲームに現実世界のファミレスが存在しているのかというと、それはこのフリーダムがRMTを推奨しているゲームだからに他ならない。
一般的なモニター越しにするオンラインゲームでは、RMTは推奨しているものは少ない。
それはそうだろう。IDをいくらでも作れるMMO内でRMTを推奨すれば、アカウントハックや複数アカウントでのBOT――つまりプログラムによって無人のキャラクターを操作し、昼夜問わずモンスターを狩り続け、利益を上げる違法プレイヤーが数多く発生するだろう。
しかもそれだけではなく、VR以外のゲームでレストランを経営してもあまり意味がない。
もしRMTを推奨しているゲームがあったとしても、モニター越しでは実際に食事をしている感覚には程遠いだろう。
しかし、その点に置いてフリーダムはリアルに近い感覚でゲームを楽しめる。
そこでは特殊な技術で五感を再現し、現実世界と同じように空腹感があり。食事をすると、それと比例して満腹感が得られるようになっている。
そしてなにより。RMTによって、ゲーム内通貨が現実の通貨へと換金可能なのだ。
それは、企業側として1つの産業にできるということでもあり。そして、ここには客となるプレイヤーに事欠くこともなく。実際に現実世界で存在している店の宣伝にもなる。
更に経営する上での大きな負担となりうる人件費は、既存のNPCによって賄うことができる上に本来掛かるはずの店舗を建設、更には光熱費、店舗維持などに掛かるはずの膨大な賃貸費用も掛からず、売上から少量の店舗区画使用料を差し引いても損はしない。
そして何よりその店舗の売上の規模によって、選択できる建物の規模も変化するということも嬉しいところだろう。
どうして売上によってという制限が付いているかというと、いくらゲームとはいえ、使える土地には限りがあるからだ。
そのせいで店舗を大きくする際は、横にではなく縦に大きくなってしまうのは致し方ないと言えるだろう――。
断末魔の鳴き声を上げ、次々とそのナイフの嵐の中で倒れてゆく熊の群れ――それは大将のキンググリズリーも例外ではなく……。
――グオオオオオオオオオオォォォォォォ…………ドスンッ!!
遂に最後まで抗って見せたキンググリズリーの巨体が、断末魔の叫びを上げ地面に崩れ落ちた。
紅蓮は肌蹴そうになる着物の端を両腕で押さえながら地面に着地すると、着物の袖に腕を通し直し。
屍と化した熊達の間をてくてくと歩いて帯の前まで行くと、地面に落ちていた帯を拾い上げた。
「……速いて見えなかったですか? この技はナイフという軽い武器と、普段から軽い着物を装備から外す事で、重量は最大限まで軽くなります……」
紅蓮は拾った帯を馴れた手付きで締め直して乱れた着物を整えると、更に言葉を続ける。
「それによってシステムの補正効果と、スイフトの攻撃速度を上げる効果により。腕を高速で動かせるようになり、千本にもなるナイフを超高速で撃ち出す事が可能になるのです」
着物の帯を締め直した紅蓮は身を翻し、無数のナイフが刺さったまま倒れているキンググリズリーに背を向けた。
その直後、キンググリズリーが息を吹き返し、背を向けたままの紅蓮に襲い掛かる。
――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「ですが……」
紅蓮は素早くナイフを取り出すと、逆手で持ったそのナイフでキンググリズリーの首を斬り飛ばす。
「――この着物の裏地に縫い込んだトレジャーアイテム『インフィニティ・マント』の収納能力あってこそです…………あと、私がダジャレを口にしたのは内緒ですよ?」
そう言い終わるよりも先にキンググリズリーの巨体が地面に倒れ、紅蓮の足元に斬り落とされた首が転がる。
紅蓮は緊張の糸が切れたようにほっと息を吐くと、その頭から牙を抜き取った。すると、キンググリズリーと熊達の体がキラキラと光となって、上空に上がっていく。
上空に待機させていた雲を呼び戻すと、紅蓮は迷うことなくその上に飛び乗った。
街に戻る道中。上機嫌の紅蓮は思い出したように手を叩いた。
「ああ、そうです。この際ですし、バロンを探しに行きましょう。きっと何か情報が得られるはずです。今日はいい日ですから」
紅蓮は嬉しそうに懐にしまっていた短刀を見て、微かに笑みを浮かべた。
紅蓮と別行動になってしまった小虎と少女は、あてもなく人が多く行き交う繁華街の中を歩き回っていた――。
「お姉さん。ちょっと休憩しよう。僕もう足が棒になりそうだ~」
だらしなくふらふらと体を揺らしながら少女の後を歩いていた小虎が、そう弱音を吐いて立ち止まる。
重い足取りでよろけながら歩いている小虎に、心配した少女が優しく声を掛けた。
「そうね。紅蓮ちゃんもどこかに行っちゃったし……どこかのお店で休憩しよっか!」
「うん!」
小虎は『休憩』という言葉を聞いた途端に元気を取り戻し、少女を追い越して駆け出した。
少女をその場に残し、あっという間に先に行った小虎が振り返り。
「おーい。お姉さん早く休憩しに行こうよー!」
「もう。足が棒になるんじゃなかったの~?」
元気に手を振っている小虎を見て、少し呆れた様な笑みを浮かべると、小虎の後を追いかける。
2人は近くの大きなビルの様な建物内のファミレスに入る。
どうして、オンラインゲームに現実世界のファミレスが存在しているのかというと、それはこのフリーダムがRMTを推奨しているゲームだからに他ならない。
一般的なモニター越しにするオンラインゲームでは、RMTは推奨しているものは少ない。
それはそうだろう。IDをいくらでも作れるMMO内でRMTを推奨すれば、アカウントハックや複数アカウントでのBOT――つまりプログラムによって無人のキャラクターを操作し、昼夜問わずモンスターを狩り続け、利益を上げる違法プレイヤーが数多く発生するだろう。
しかもそれだけではなく、VR以外のゲームでレストランを経営してもあまり意味がない。
もしRMTを推奨しているゲームがあったとしても、モニター越しでは実際に食事をしている感覚には程遠いだろう。
しかし、その点に置いてフリーダムはリアルに近い感覚でゲームを楽しめる。
そこでは特殊な技術で五感を再現し、現実世界と同じように空腹感があり。食事をすると、それと比例して満腹感が得られるようになっている。
そしてなにより。RMTによって、ゲーム内通貨が現実の通貨へと換金可能なのだ。
それは、企業側として1つの産業にできるということでもあり。そして、ここには客となるプレイヤーに事欠くこともなく。実際に現実世界で存在している店の宣伝にもなる。
更に経営する上での大きな負担となりうる人件費は、既存のNPCによって賄うことができる上に本来掛かるはずの店舗を建設、更には光熱費、店舗維持などに掛かるはずの膨大な賃貸費用も掛からず、売上から少量の店舗区画使用料を差し引いても損はしない。
そして何よりその店舗の売上の規模によって、選択できる建物の規模も変化するということも嬉しいところだろう。
どうして売上によってという制限が付いているかというと、いくらゲームとはいえ、使える土地には限りがあるからだ。
そのせいで店舗を大きくする際は、横にではなく縦に大きくなってしまうのは致し方ないと言えるだろう――。
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