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紅蓮の宝物8
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* * *
昔の出来事を思い出しながら、紅蓮は心の中にずっと仕舞い込んでいた思いを吐き出す。
(あの時に完成できていたら、マスターはギルドを辞めなかったかもしれない。もしもあの時、ギルドのメンバー5人全員をまとめることができていたなら、きっと今も……)
紅蓮はそんなことを考えながら、雲の上に乗ったまま大空を真っ直ぐに、大熊ことキンググリズリーの生息地の【アルテスト平原】に向かった。
アルテスト平原は名御屋の南に位置する山脈群の間にあり、そこのフィールドボスがキンググリズリーなのである。
名御屋を飛び発って数時間――。
「確か、ここの辺りがキンググリズリーの縄張りだったはずですが……」
騎乗用の雲を使って、紅蓮はキンググリズリーの出現場所上空を飛んでいた。
様々なモンスターの出現場所などの載ったガイドマップを手に、紅蓮はぐるぐると空から地面を見下ろしていた。すると、木の根元で気持ち良さそうに昼寝をしているキンググリズリーを見つける。
「――居ました! 眠っているところ可哀想ですが、仕留めさせて頂きます!」
純白の着物の袖からナイフを取り出すと、浮遊する雲の上から飛び掛かった。
普通なら落下の衝撃でHPが尽きてしまうリスクを犯す行為だが、固有スキル『イモータル』で不死となっている彼女にとって些細な問題でしかない。
しかし、切っ先が突き刺さるすんでのところで、目を覚ましたキンググリズリーの腕で払われた。
「――――ッ!?」
直撃は避けたものの。その凄まじい勢いで巻き起こった風が、紅蓮の華奢な体を吹き飛ばす。
だが、そこは四天王と呼ばれる熟練プレイヤー。素早く空中で受け身を取ると、何事もなかったかのように柔らかく地面に着地する。
「――なかなかやりますね。殺気は消していたはずなのですが……」
紅蓮は逆手に持ったナイフを低い姿勢で構えると、キンググリズリーを鋭く睨む。
――グォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!!
キンググリズリーは威嚇しているのか、ただ単に昼寝の邪魔をされて怒っているのか、けたたましい雄叫びを上げてのっそりと立ち上がった。
体長は10m以上はあるだろうか、頭の毛は逆立ち右目のところには大きな刀傷があり、体にも無数の刀傷が刻まれている。
胸には黄金の毛で王冠のような模様があり、その風貌はまさにキングという名に相応しい。
身長が140あるかないかの紅蓮と比べると、その大きさは圧倒的だ。
キンググリズリーの雄叫びが止むと、周囲から茶色い塊が砂煙を上げながら紅蓮とキンググリズリー目掛けて向かってくるのが見えた。
「あれは……?」
紅蓮がその茶色い塊を目を凝らして見ると、そのひとつひとつが熊だ――数は数え切れないが、ざっと見て100はいるように見える。
向かってくるその熊の大群を見て、紅蓮は無表情のまま呟く。
「なるほど。さすがはフィールドボスですね。ですが、私に数だけでは勝てませんよ?」
紅蓮はキンググリズリーから一旦距離を取ろうと試みる。
しかし、キンググリズリーは巨体の割に素早く、後ろに跳んだ紅蓮をピッタリとマークして離れない。
「――距離が取れない。これは困りましたね」
紅蓮は少し不機嫌そうに眉間にしわを寄せると、持っていたナイフをキンググリズリー目掛けて投げた。
だが、キンググリズリーはいとも容易く、そのナイフを大きな爪で払い落とす。どうやら動きだけではなく、目と反射神経もいいらしい……。
キンググリズリーと向かい合ったまま、困り果てた様子で考え込む紅蓮。
そうこうしているうちに熊の大群に辺りを囲まれ、紅蓮は身動きの取れない状況に追い込まれてしまった。
そんな絶望的な場面なのだが、紅蓮の口元からは笑みが溢れる。
囲みを狭めてジリジリと寄ってくる熊の大群が、紅蓮の逃げ場をなくし追い込む。
その刹那。紅蓮は自分の着物の帯に手をかけると、何を考えたか帯を緩めて小さく呟く。
「――女の子1人を寄ってたかって……しつこい熊さんは嫌われますよ?」
絶体絶命の状況にも関わらず、紅蓮のその表情からは余裕すら感じられる。
一瞬膠着状態になるかと思われたが、一瞬で彼女の目の前に移動したキンググリズリーの鋭い爪が、帯を緩めはだけそうにになる着物のまま、無防備に立っている紅蓮目掛けて飛んできた。
紅蓮は動じることなく、その攻撃を体制を低くして軽々とかわす。風切音とともに、紅蓮の体より大きな腕が頭上を通過する。
しかも、その拍子に緩めていた帯が地面に落ちてしまい。着物が肌蹴る寸前で紅蓮が手でそれを防ぐ。
「……スケベアーですね」
普段なら絶対に口にしない様なオヤジギャグを口にした紅蓮が、クスッと笑みを浮かべている。
その様子から、彼女のテンションが戦闘によって、異常なほどに上がっていることが窺い知れる。
すると、キンググリズリーが咆哮を上げ、それを合図に周りの熊が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「スイフト……」
紅蓮はその熊達を踏み台にして、徐々にキンググリズリーから距離を取ると、勢い良く上空に跳び上がった。
「――エッチな熊さん達には、特別に必殺技をお見せしましょう。これが私の編み出した最強の技……サウザンドナイフです!」
紅蓮はまるで鶴が翼を広げるように身に着けていた白い着物を広げると、無数のナイフがキンググリズリー達を襲う。
昔の出来事を思い出しながら、紅蓮は心の中にずっと仕舞い込んでいた思いを吐き出す。
(あの時に完成できていたら、マスターはギルドを辞めなかったかもしれない。もしもあの時、ギルドのメンバー5人全員をまとめることができていたなら、きっと今も……)
紅蓮はそんなことを考えながら、雲の上に乗ったまま大空を真っ直ぐに、大熊ことキンググリズリーの生息地の【アルテスト平原】に向かった。
アルテスト平原は名御屋の南に位置する山脈群の間にあり、そこのフィールドボスがキンググリズリーなのである。
名御屋を飛び発って数時間――。
「確か、ここの辺りがキンググリズリーの縄張りだったはずですが……」
騎乗用の雲を使って、紅蓮はキンググリズリーの出現場所上空を飛んでいた。
様々なモンスターの出現場所などの載ったガイドマップを手に、紅蓮はぐるぐると空から地面を見下ろしていた。すると、木の根元で気持ち良さそうに昼寝をしているキンググリズリーを見つける。
「――居ました! 眠っているところ可哀想ですが、仕留めさせて頂きます!」
純白の着物の袖からナイフを取り出すと、浮遊する雲の上から飛び掛かった。
普通なら落下の衝撃でHPが尽きてしまうリスクを犯す行為だが、固有スキル『イモータル』で不死となっている彼女にとって些細な問題でしかない。
しかし、切っ先が突き刺さるすんでのところで、目を覚ましたキンググリズリーの腕で払われた。
「――――ッ!?」
直撃は避けたものの。その凄まじい勢いで巻き起こった風が、紅蓮の華奢な体を吹き飛ばす。
だが、そこは四天王と呼ばれる熟練プレイヤー。素早く空中で受け身を取ると、何事もなかったかのように柔らかく地面に着地する。
「――なかなかやりますね。殺気は消していたはずなのですが……」
紅蓮は逆手に持ったナイフを低い姿勢で構えると、キンググリズリーを鋭く睨む。
――グォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!!
キンググリズリーは威嚇しているのか、ただ単に昼寝の邪魔をされて怒っているのか、けたたましい雄叫びを上げてのっそりと立ち上がった。
体長は10m以上はあるだろうか、頭の毛は逆立ち右目のところには大きな刀傷があり、体にも無数の刀傷が刻まれている。
胸には黄金の毛で王冠のような模様があり、その風貌はまさにキングという名に相応しい。
身長が140あるかないかの紅蓮と比べると、その大きさは圧倒的だ。
キンググリズリーの雄叫びが止むと、周囲から茶色い塊が砂煙を上げながら紅蓮とキンググリズリー目掛けて向かってくるのが見えた。
「あれは……?」
紅蓮がその茶色い塊を目を凝らして見ると、そのひとつひとつが熊だ――数は数え切れないが、ざっと見て100はいるように見える。
向かってくるその熊の大群を見て、紅蓮は無表情のまま呟く。
「なるほど。さすがはフィールドボスですね。ですが、私に数だけでは勝てませんよ?」
紅蓮はキンググリズリーから一旦距離を取ろうと試みる。
しかし、キンググリズリーは巨体の割に素早く、後ろに跳んだ紅蓮をピッタリとマークして離れない。
「――距離が取れない。これは困りましたね」
紅蓮は少し不機嫌そうに眉間にしわを寄せると、持っていたナイフをキンググリズリー目掛けて投げた。
だが、キンググリズリーはいとも容易く、そのナイフを大きな爪で払い落とす。どうやら動きだけではなく、目と反射神経もいいらしい……。
キンググリズリーと向かい合ったまま、困り果てた様子で考え込む紅蓮。
そうこうしているうちに熊の大群に辺りを囲まれ、紅蓮は身動きの取れない状況に追い込まれてしまった。
そんな絶望的な場面なのだが、紅蓮の口元からは笑みが溢れる。
囲みを狭めてジリジリと寄ってくる熊の大群が、紅蓮の逃げ場をなくし追い込む。
その刹那。紅蓮は自分の着物の帯に手をかけると、何を考えたか帯を緩めて小さく呟く。
「――女の子1人を寄ってたかって……しつこい熊さんは嫌われますよ?」
絶体絶命の状況にも関わらず、紅蓮のその表情からは余裕すら感じられる。
一瞬膠着状態になるかと思われたが、一瞬で彼女の目の前に移動したキンググリズリーの鋭い爪が、帯を緩めはだけそうにになる着物のまま、無防備に立っている紅蓮目掛けて飛んできた。
紅蓮は動じることなく、その攻撃を体制を低くして軽々とかわす。風切音とともに、紅蓮の体より大きな腕が頭上を通過する。
しかも、その拍子に緩めていた帯が地面に落ちてしまい。着物が肌蹴る寸前で紅蓮が手でそれを防ぐ。
「……スケベアーですね」
普段なら絶対に口にしない様なオヤジギャグを口にした紅蓮が、クスッと笑みを浮かべている。
その様子から、彼女のテンションが戦闘によって、異常なほどに上がっていることが窺い知れる。
すると、キンググリズリーが咆哮を上げ、それを合図に周りの熊が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「スイフト……」
紅蓮はその熊達を踏み台にして、徐々にキンググリズリーから距離を取ると、勢い良く上空に跳び上がった。
「――エッチな熊さん達には、特別に必殺技をお見せしましょう。これが私の編み出した最強の技……サウザンドナイフです!」
紅蓮はまるで鶴が翼を広げるように身に着けていた白い着物を広げると、無数のナイフがキンググリズリー達を襲う。
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