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名御屋へ・・・5

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 その後ろ姿を見つめながら、メルディウスが思わず叫んだ。

「俺の……俺のギルマスとしての存在意味はいったいどこにあるんだ~!!」

 彼の悲痛な叫び声は、名御屋の街の夜空に虚しく吸い込まれていった。


 ホテルの中へ入ると、高価な置物が多く置かれ。その中央には360度、円柱の透明なガラスで囲まれた近代的な造りのエレベーターが備え付けられている。
 天井には大小いくつもの綺羅びやかなシャンデリアがぶら下がっていて、地面に向かって温かい光が降り注ぐ。

 地面には絨毯が敷き詰められており。エントランスには観葉植物が置かれ、正面入り口の前には一面が大きな水槽になっていて、その中を悠々と色とりどりの熱帯魚が泳いでいる。ソファーや椅子とテーブルが数多く置かれたラウンジには、大きなモニターも備え付けられており、如何にも高級ホテルと言った感じの雰囲気を醸し出していた。

 紅蓮は意気消沈しているメルディウスから財布を受け取ると、フロントのNPCと会話して宿泊の手続きを済ませた。
 その間も興奮を抑えられない様子の小虎と少女は、まるで野に放たれた子犬のようにホテルの中を駆け回っている。

「ほら、2人とも、他の方の迷惑になりますから、早くお部屋に行きますよ?」
「「は~い!」」

 その紅蓮の呼びかけに2人は元気に返事をすると、彼女のもとへと駆けていく。

 それを見てほっと胸をおろしたのも束の間。紅蓮が今度はマスターと白雪に向かって声を掛ける。 
 
「すみません。マスター、白雪。メルディウスを連れて来てもらってもいいですか? お部屋は最上階の201号室のスイートルームなので」
「――ス、スイートルームだと!?」

 それを聞いたメルディウスは、まるで魂が抜けたかのようにその場に崩れ落ちていく。
 
「ギルマス! 気をしっかり持ってください! っというか鎧重いんですから脱いで下さい!」
「うむ。仕方なかろう……ほれ、メルディウス。しっかりせんか! バカタレが!」

 完全に魂の抜け殻と化したメルディウスを白雪とマスターが両側から支えるように抱え、なんとかエレベーターの中へと押し込んだ。

 一面ガラス張りのエレベーターは、まるで空でも飛んでいるかの様に、ホテルの中を一直線に上がっていく。
 そのエレベーターの中から、目をキラキラさせた小虎と少女が頻りに辺りを見渡している。

 そうこうしているうちに、最上階に到達し宿泊する部屋の扉を開けた。
 部屋の中は開放的な作りになっていて、夜の街が一望できる様に全面ガラス張りの窓をバルコニーが部屋を囲う様に造られている。部屋の隅とバルコニーには観葉植物が置かれ、壁には装飾が施されている。

 ゲームの中なのだから、全てデータだと頭では分かっていても、普段お目にかかれるものではないその空間にどうしてもかしこまってしまう――っと思っているのは少女だけのようで……。

「わー。なんだかギルドホールに帰ってきたみたいだね。姉さん!」
「そうですね。あっ! 小虎。あまりあちこち触ってはいけませんよ?」
「……思っていたより狭いですね。紅蓮様」
「そうですね。お金は高いんですけど、これなら私達のギルドホールの方が快適ですね」

 小虎、紅蓮、白雪は何食わぬ顔で会話しながら部屋の中へと進んでいく。

 きょとんとしながら紅蓮達の話を聞いていた少女は、次にマスターとメルディウスの方に目を向けた。
 まあ、彼女が困惑するのも無理はない。普段なら泊まることなど絶対に不可能というような高級ホテルなのにも関わらず、メルディウス以外はあまり動じている様子がない。

 それどころか、皆思い思いにくつろいでいる。一般庶民が高級ホテルに泊まれば緊張で萎縮してしまうものなのだが……。

 薄くアイボリーカラーのベールの天蓋に覆われた大きなキングサイズのベッドの上で小虎がはしゃいでいるのも、ギルドホールに帰ってきたようだという。例えるならば、自分の家に帰ってきた時の安心感に似ているのだろう。

 マスターが顎の下に手を当て、部屋の入り口に掲示されているホテルの見取図を確認して。

「ふむ。同じフロアに風呂があるのか……旅の疲れを取りに行ってみるか、メルディウス」

 マスターはホテルの見取図を見てそう尋ねると、頭を抱えていたメルディウスが大声で叫んだ。

「あー。もうやめだやめだ! 結局はまたモンスターぶっ倒して稼げばいいんだからよ! じじい。風呂行くぞ!」
「落ち込んだり怒ったり。本当に忙しい奴だな……」
「あっ! 待って兄貴。僕も行くから!」

 この豪華な部屋のことなど、全く気にも止めていない様子で2人が少女の横を通り過ぎると、それを追って小虎も慌てて駆けて行った。
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