オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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名御屋へ・・・

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 時間はさかのぼって、名御屋マスター達はというと……。

 日が落ちて仕方なく、平原の陸路を進むマスター達は水辺の大通りに面した場所にテントを張り野宿している。
 焚き火を前に、大きな丸太に腰を下ろし。空に浮かぶ月を見上げていたマスターの元に突然の連絡が入った。

「……なに? カレンからか……」

 マスターは視界に表示された【カレン様からのボイスチャット通信が入りました】という表示の下の【チャット開始】という所に、彼はゆっくりと指を当てる。

 すると、次の瞬間。聞き慣れた愛弟子の声が聞こえて来た。

『――師匠。夜分遅くにすみません。緊急の要件で連絡しました』
「ふむ。カレンか? どうした。何かあったか?」

 照れ隠しでわざとらしく聞き返したマスターに、カレンの落ち込んだ様な声が聴こえる。

『はい。実は……今さっき星ちゃんをダークブレットという組織に誘拐されてしまいまして……』

 それを聞いて目を見開くと、勢い良く立ち上がり。

「なっ……何をやっておるか! このバカタレが!!」
『はい! も、申し訳ありません』

 突然のことに驚き、思わず怒鳴ってしまう。

 マスターは『しまった』と思ったのだが、その時には全てが遅く。声の張りをなくし申し訳なさそうに謝るカレンが言葉を続けた。

『――師匠! 師匠はダークブレットのアジトの場所を知っていますか?』

 驚くカレンの言葉に、マスターは眉をひそめる。

 それもそのはずだ。その組織の名前を知らない高レベルプレイヤーなどフリーダムにはいない。しかも、その組織はマスターと少なからず因縁のある組織――。

(……ダークブレットだと? ふむ。星という娘は奴等に連れ去られたということか、しかし……)

 そんなことを考えながら、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 何を隠そう以前、マスターが独自に彼等の組織の壊滅しようと試みたことが関係していた。
 それは数カ月前。ある機関から依頼され、ダークブレットの調査を頼まれた時のことだ――。

 本来の目的はあくまで調査。組織の規模、活動目的や資金源などを調査して、依頼主に報告するというそれほど難しくないものだったが、組織の内情を最中。マスターは組織の者達の待ち伏せに合い。

 結局。顔を知られたマスターが止むを得ず、1人で組織を再起不能にまで追い込んだのだが……事はそれほど、簡単ではなかった。

 ダークブレッドは様々な国のサーバーに支部があるようで、多くの離反者を出したものの。すぐに各支部から人員を補給し、半月程度でほぼ元の機能を取り戻してたのである。

 その時にマスターは思った――この組織には底知れぬ闇を感じ、もうこの組織には手を出さぬほうが良いと……。

(――できることならダークブレットと争わぬほうが良いのだが……仕掛けられたなら仕方あるまい)

 カレンの声の様子から、事は一刻を争うということを感じ取ったマスターは、難しい顔をしながらもカレンに向かって告げる。

「……うむ。奴等のアジトはウォーレスト山脈に城がある。そこが奴等のアジトだ……だが、あの組織の規模は大きい。儂が戻るまで大人しく待っておれ! 儂等もすぐにこちらを終わらせてそちらへ向かう!」
『……はい。分かりました』

 カレンは深刻そうな重い声で言うと、突然通信を切った。

 元々そうなることは分かっていたものの愛弟子に一方的に切られ、その心に焦りがあると感じたマスターが『やはり教えるべきではなかったか……』と思い。マスターは深刻そうな顔になる。

 戦力としては確かにエミル達だけでは少ないが、個々の能力をフルに発揮すれば、そう難しい相手ではない。

 ましてや、今回の任務は殲滅ではなく星の救出だけだ。だが、もし浮足立ち冷静さを欠いてしまっているのであれば、敵の術中にはまり容易に危機的状況に陥りかねない。

 マスターの険しい表情を見て、心配そうに紅蓮が声を掛けてきた。

「……マスター。なにかありましたか? 深刻そうな顔をしていますよ?」

 小首を傾げている紅蓮の姿に気付いたマスターは、すぐに微笑みを浮かべ。

「あっ、ああ。始まりの街に残してきた弟子から通信があってな……」
「弟子? なにか、困ったことでもありましたか?」
「うむ。儂の知り合いがダークブレットという組織に連れ去られたらしい」

 それを聞いた直後、普段あまり表情に出さない紅蓮の顔が少し険しくなった。

「……えっ? ダークブレットって、あのダークブレットですか?」
「……うむ」
「その方は大丈夫なのでしょうか……私達も救出に向かった方がいいのでは? マスター」

 紅蓮が少し早い口調でそう告げると、マスターはしばらく考える仕草の後、徐ろに口を開いた。

「――いや。儂らはこのままバロンの元へと急ぐ」
「……マスター。分かりました……なら、街に寄るのは止めて先を急ぎましょう」

 彼を気遣ってそう提案する紅蓮に、マスターは首を横に振って言った。

「いや、こちらも一筋縄ではいかぬだろう。予定通り街に寄って、情報収集と補給をしてから名御屋へと向かおう」
「それでこそじじいだぜ!」

 テントの中から出てきたメルディウスが満足そうな笑みを浮かべ歩いてきた。
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