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2人で外出13
しおりを挟むエミルはそれを聞いてポンっと手の平を叩くと口を開いた。
「どうして気が付かなかったのかしら……なら、私がリントヴルムと一緒に先に――」
閃いたエミルがそう口にしようとした直後、エミルの腕にイシェルの腕が絡み付き、強引に自分の方へと引き寄せた。
「――あかんよ~。エミルから離れるなんて、うち考えられひん」
「ちょっと、今はそんな事を言ってる場合じゃ……」
エミルがあたふたしてイシェルから離れようとした直後。イシェルが小さく耳元でささやいた。
「……ディーノって人も見張らなあかん。それに、必ず星ちゃんを助け出すのに準備は必要やろ? 緊急時ほど、冷静に、そして確実に……やよ!」
「……そ、そうね」
それを聞いたエミルは返事をすると、イシェルの真剣そうな瞳を見つめた。
彼女の瞳には、普段ののほほんとした彼女とは違うなんとも言えない闘志のようなものが漲っている。
イシェルとエミルは長い付き合いになるが、イシェルがやる気を見せたのは人生で数えるくらいしかない。
普段から何事もそつなくこなせる彼女にとって、日常の殆どのことが他愛もない出来事なのだろう……。
だが、人の命がかかっているこの状況で――今の彼女から感じる気迫は、普段の彼女とはかけ離れていて常人の比ではない。
それをひしひしと感じたエミルは、額から冷や汗を掻きながら生唾を呑み込むと。
「――全てイシェ。あなたに任せるわ」
っと呟いて、深く頷いて見せた。
こうなった時のイシェルは自分以上に頼りになる存在だと、エミルは長年の付き合いで分かっていた。
彼女ならどんなに危機的な状況でさえ、全く臆さない並外れた精神力がある。それを知っているエミルだからこそ彼女に託したのだろう。
イシェルは満足そうに微笑むと、その表情はすぐに神妙な面持ちに変わり、力強く皆に指示を出していく。
「ほな。エミル、うち、カレンちゃん、ディーノはんはうちと一緒にニ陣や。物資を揃えてリントヴルムで――」
「――待ってください!」
騒ぎを聞きつけて部屋の前に出て来ていた彼等にイシェルが告げ声を遮って、不服そうにカレンが声を上げた。
ゆっくりとイシェルの前に歩いて来たカレンが、イシェルの瞳をじっと見つめた。
「俺も一陣で行きます! 星ちゃんが誘拐される時に、俺が一緒に居ればこんな事には……今回の事は俺にも責任があります!」
「そ、そんな……カレンさんに責任なんて……」
「いえ、お風呂に入っていたエミルさんと違い。こいつと星ちゃんが出ていった事に……それに気がつかなかった俺の責任は大きい。俺が必ずあの子を救い出します!!」
詰め寄るようにエミルの前に出たカレンの決意に満ちた眼差しに、エミルは思わずたじろぐ。
すると、隣に居たイシェルがため息混じりに徐ろに口を開く。
「――はぁ……分かった。せやけど、無理はあかん! それと、デイビッドの言う事をちゃんと聞くんやよ?」
「はい!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! どうしてそうなるんだ!?」
カレンが頷いた直後。一番後方で皆のやり取りを見守っていたデイビッドが、焦ったような情けない声を上げた。
動揺した様子の彼に、イシェルは何食わぬ顔で言った。
「それはな~。デイビッドくんが一番観察力があるからに決まってるやん! 頼りにしとるんよ~」
デイビッドの不満を受け流すようにイシェルはやんわりとした言葉で返した。
納得いかなと言いたげな顔で、デイビッドが人差し指で頭を掻くと。
「……いや、それは答えになってない」
そう言い返そうとしたデイビッドを完全に無視し、イシェルはサラザに向かって話し始めた。
「サラザさん。ええか? うちらと合流するまでは、敵地を偵察だけにしててほしいんよ。そんでな。もし、見つかってしもたら、できるだけ敵を錯乱させてほしいんや。敵がバラけてた方が侵入しやすいやろ?」
「ええ、了解よ~。情報集めがメインで、最悪は派手に暴れて構わないって事でいいのかしら~?」
自信満々に拳を突き出し満面の笑みで応えると、イシェルはにっこりと微笑み返した。
その直後、待ちきれなくなったエリエとレイニールが声を揃えて叫んだ。
「早く行こうよ!」
「早く行くのじゃ!」
そう言ってすぐにでも飛び出していきそうなエリエ達の方に慌てて、一陣のメンバー達が駆け寄っていった。
一陣は皆を乗せてアジト近くまで運ぶレイニールとエリエ、カレン、デイビッド、サラザ、ガーベラ、カルビ、孔雀マツザカ――そして街で物資を買い漁り、後から向かう。実質、補給部隊という位置付けにある第二陣はリントヴルムで向かうエミル、イシェル、ディーノの3人だ――。
城の外へと出るとレイニールが巨竜の姿へと変身し、その背中に皆を乗せた。
それを心配そうに見つめるエミルが徐ろに口を開いた。
「――皆。無理はしないでね……エリー。もし何かあったら、すぐにメッセージでもボイスチャットでもいいから連絡するのよ?」
不安そうな眼差しを向けてそう告げたエミルに対し、エリエは自信満々に答えた。
「大丈夫! 必ず星を助け出すから! エミル姉達はゆっくり来ていいからね!」
「もう。そういうわけにはいかないわよ……皆も気をつけて……」
神妙な面持ちでそう呟くエミルの顔を見て、他のメンバー達も無言のまま静かに頷いた。
レイニールの背に乗っている皆のその表情には、それぞれの決意を感じる。
その緊張感の中。レイニールが大きく翼を数回はためかせその後、大きく叫んだ。
「主、待ってろ! 今助けにゆくぞー!!」
その雄叫びにも似た叫び声が大気を震わせた次の瞬間。レイニールの巨体がゆっくりと地上を離れてあっという間に飛び去っていく。
エミルとイシェルは手を振りながらそれを見送ると、月光に照らされながら月の中へと消えていく黄金のドラゴンの後ろ姿をいつまでも見送っていた。
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