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2人で外出12
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「そ、そんな……こうしちゃいられないわ!!」
エミルは血相を変えて、何も考えず急いで部屋を飛び出して行ってしまった。
彼女を追いかけるように、周りのメンバー達も部屋を飛び出して行く。
エミルが慌てるのも無理はない。何故なら、パーティーの解除は本人かパーティーリーダー以外はできない仕様になっているからだ。
星が自分の意志でパーティーを抜けたと考えるのが自然だが、それは不可能だ――それもそうだろう。エミルは星にパーティーからの抜け方を教えていない。
にも関わらず。名前が消えたということは、星の身に何か起きたと考えるのが普通なのだ。
何者かに脅迫されて解除したことも考えられるが、星は意外と頑固な所があり。自分の生死に関わることは絶対に拒絶するはず……っとなると、既にこの世界に居ないのか……どちらにしても、星が危機的状況に陥っていることは間違いなかった。
居ても立ってもいられずに険しい表情でエミルが身を翻すと、部屋の扉に向かって一目散に駆け出す。
(――待っててね、星ちゃん。今私が行くから頑張って!)
心の中でそう叫びながら、エミルは城の廊下を全速力で走っていってしまう。
もう彼女の思考の中には星のことしかない。だが、エミルが飛び出していってすぐ、もう一人部屋を飛び出した人物がいた――。
「うおおおおおおおおおおッ!!」
「――えっ!?」
走っているエミルの後ろから、雄叫びを上げながら物凄い速度でサラザが爆走してくる。その形相は、まるで獲物を追い掛ける肉食獣の如く。
サラザの全身から湧き上がるエミルは身の危険を感じて、更に速度を上げて走った。
しかし、サラザの足は思いのほか速く、エミルはすぐに捕まってしまう。
「ちょっと待ちなさい! 急に飛び出したってダメよ! 敵のアジトまではエミルのドラゴンに乗っても2日近く掛かる。今は星ちゃんの事を信じましょ~?」
サラザはエミルの体を後ろからがっしりとホールドすると、困惑して暴れることも忘れているエミルの耳元で告げた。
「……でも、私。星ちゃんにもしもの事があったら……」
「大丈夫よ。星ちゃんはパーティーを抜けさせられただけ……それに、あのドラゴンちゃんは星ちゃんが作り出した存在でしょ~? それが無事ってことはまだ大丈夫! そうよね? ドラゴンちゃ~ん」
「その通りじゃ! 珍獣にしては頭が回るではないか! ゴリ――」
空中で腰に手を当てて頷くレイニールの体がそう口にしようとした直後、勢い良く体を引かれサラザの手の中に収まる。
咄嗟のことで何が起きたのか分からずに、レイニールが目をぱちくりさせてきょとんとしている。そんなレイニールにサラザがにっこりと微笑みかけながら問い掛ける。
「あ~ら。今なんて言おうとしたのかしら~? ちょっと聞こえなかったから、もう一度お願い。でもドラゴンちゃん? 返答によってはあなたを食べちゃうかも♪」
首を傾げてるレイニールの頬を、ペロリとひと舐めするサラザ。
すると、やっと自分の置かれている状況が把握できたのか、身の危険を感じたレイニールは震える声で言った。
「あ、あはは……じょ、冗談じゃ! 冗談に決まっておろう! 美しいお前があんな下等生物と同じなわけがあるまい。ド、ドラゴンジョークじゃ! あはは……」
冷や汗を流しながらレイニールが必死に作り笑いを浮かべると、サラザは掴んでいたその手を放す。
レイニールはほっと息を吐くと、パタパタと翼をはためかせ、エミルの前に来ると徐ろに口を開く。
「――主は皆のお荷物になりたくないと、強く思っておる。なら、自分の力でなんとかしようと考えているはずじゃ! 我輩の主は強いのでな!」
レイニールは自慢気にそう言い放つと、胸を張って頻りに頷いている。
星も自分の意思で敵の手に落ちたからには、仲間達の助けを求めようとはしていないだろう。
(……迷惑をかけないようにと、自暴自棄にならなければいいけど……)
エミルはそう心の中で呟くと『今すぐにでも助けに行きたい』と思う気持ちが先走っていた。だが、同時に頭では『冷静にならなければ』と何度も叫んでいる自分もいた。
その噛み合わない心境が、エミルの中でなんとも言えない心のざわめきとなって彼女を惑わせている。
すると、その横をエリエが通り過ぎて行くのが、一瞬エミルの視界に入ってきた――っと同時に、目にも留まらぬ速さでサラザが動きエリエの腕を掴んで止める。
「ちょっとエリー! あなたも少し落ち着きなさいって!」
「落ち着いてなんていられないよ! 星の名前が消えたんだ! もう一刻の猶予もないでしょ!?」
「だとしても、アジトに着くまで2日は掛かるのよ~。こっちも準備してから行かないと犬死になるわ~」
「――今すぐ行っても大丈夫やよ~」
差し迫ったエリエがサラザと言い合っていると、その時イシェルの声が廊下に響いた。
エリエ達が一斉に振り返ると、扉の前から微笑みを浮かべ、後ろ手に両手を組んでゆっくりと向かってくるイシェルの姿があった。
それを驚いた様に見つめるエミルとサラザに、落ち着いた声音でイシェルが言葉を続けた。
「だって、せくんなら別にまとまらんでもええんやし。それに、エミルのとこんドラゴン以外にも、今はレイニールちゃんがおるしな~」
そう言い放ったイシェルはレイニールの方を向いて微笑んだ。
彼女のその表情からは『君も早く主様を助けに行きたいんやろ?』そう言ってる気がして仕方がない。
レイニールはその意図を察したのか、慌ててえっへんと腰に手を当てると、イシェルに向かって胸を張って見せる。
エミルは血相を変えて、何も考えず急いで部屋を飛び出して行ってしまった。
彼女を追いかけるように、周りのメンバー達も部屋を飛び出して行く。
エミルが慌てるのも無理はない。何故なら、パーティーの解除は本人かパーティーリーダー以外はできない仕様になっているからだ。
星が自分の意志でパーティーを抜けたと考えるのが自然だが、それは不可能だ――それもそうだろう。エミルは星にパーティーからの抜け方を教えていない。
にも関わらず。名前が消えたということは、星の身に何か起きたと考えるのが普通なのだ。
何者かに脅迫されて解除したことも考えられるが、星は意外と頑固な所があり。自分の生死に関わることは絶対に拒絶するはず……っとなると、既にこの世界に居ないのか……どちらにしても、星が危機的状況に陥っていることは間違いなかった。
居ても立ってもいられずに険しい表情でエミルが身を翻すと、部屋の扉に向かって一目散に駆け出す。
(――待っててね、星ちゃん。今私が行くから頑張って!)
心の中でそう叫びながら、エミルは城の廊下を全速力で走っていってしまう。
もう彼女の思考の中には星のことしかない。だが、エミルが飛び出していってすぐ、もう一人部屋を飛び出した人物がいた――。
「うおおおおおおおおおおッ!!」
「――えっ!?」
走っているエミルの後ろから、雄叫びを上げながら物凄い速度でサラザが爆走してくる。その形相は、まるで獲物を追い掛ける肉食獣の如く。
サラザの全身から湧き上がるエミルは身の危険を感じて、更に速度を上げて走った。
しかし、サラザの足は思いのほか速く、エミルはすぐに捕まってしまう。
「ちょっと待ちなさい! 急に飛び出したってダメよ! 敵のアジトまではエミルのドラゴンに乗っても2日近く掛かる。今は星ちゃんの事を信じましょ~?」
サラザはエミルの体を後ろからがっしりとホールドすると、困惑して暴れることも忘れているエミルの耳元で告げた。
「……でも、私。星ちゃんにもしもの事があったら……」
「大丈夫よ。星ちゃんはパーティーを抜けさせられただけ……それに、あのドラゴンちゃんは星ちゃんが作り出した存在でしょ~? それが無事ってことはまだ大丈夫! そうよね? ドラゴンちゃ~ん」
「その通りじゃ! 珍獣にしては頭が回るではないか! ゴリ――」
空中で腰に手を当てて頷くレイニールの体がそう口にしようとした直後、勢い良く体を引かれサラザの手の中に収まる。
咄嗟のことで何が起きたのか分からずに、レイニールが目をぱちくりさせてきょとんとしている。そんなレイニールにサラザがにっこりと微笑みかけながら問い掛ける。
「あ~ら。今なんて言おうとしたのかしら~? ちょっと聞こえなかったから、もう一度お願い。でもドラゴンちゃん? 返答によってはあなたを食べちゃうかも♪」
首を傾げてるレイニールの頬を、ペロリとひと舐めするサラザ。
すると、やっと自分の置かれている状況が把握できたのか、身の危険を感じたレイニールは震える声で言った。
「あ、あはは……じょ、冗談じゃ! 冗談に決まっておろう! 美しいお前があんな下等生物と同じなわけがあるまい。ド、ドラゴンジョークじゃ! あはは……」
冷や汗を流しながらレイニールが必死に作り笑いを浮かべると、サラザは掴んでいたその手を放す。
レイニールはほっと息を吐くと、パタパタと翼をはためかせ、エミルの前に来ると徐ろに口を開く。
「――主は皆のお荷物になりたくないと、強く思っておる。なら、自分の力でなんとかしようと考えているはずじゃ! 我輩の主は強いのでな!」
レイニールは自慢気にそう言い放つと、胸を張って頻りに頷いている。
星も自分の意思で敵の手に落ちたからには、仲間達の助けを求めようとはしていないだろう。
(……迷惑をかけないようにと、自暴自棄にならなければいいけど……)
エミルはそう心の中で呟くと『今すぐにでも助けに行きたい』と思う気持ちが先走っていた。だが、同時に頭では『冷静にならなければ』と何度も叫んでいる自分もいた。
その噛み合わない心境が、エミルの中でなんとも言えない心のざわめきとなって彼女を惑わせている。
すると、その横をエリエが通り過ぎて行くのが、一瞬エミルの視界に入ってきた――っと同時に、目にも留まらぬ速さでサラザが動きエリエの腕を掴んで止める。
「ちょっとエリー! あなたも少し落ち着きなさいって!」
「落ち着いてなんていられないよ! 星の名前が消えたんだ! もう一刻の猶予もないでしょ!?」
「だとしても、アジトに着くまで2日は掛かるのよ~。こっちも準備してから行かないと犬死になるわ~」
「――今すぐ行っても大丈夫やよ~」
差し迫ったエリエがサラザと言い合っていると、その時イシェルの声が廊下に響いた。
エリエ達が一斉に振り返ると、扉の前から微笑みを浮かべ、後ろ手に両手を組んでゆっくりと向かってくるイシェルの姿があった。
それを驚いた様に見つめるエミルとサラザに、落ち着いた声音でイシェルが言葉を続けた。
「だって、せくんなら別にまとまらんでもええんやし。それに、エミルのとこんドラゴン以外にも、今はレイニールちゃんがおるしな~」
そう言い放ったイシェルはレイニールの方を向いて微笑んだ。
彼女のその表情からは『君も早く主様を助けに行きたいんやろ?』そう言ってる気がして仕方がない。
レイニールはその意図を察したのか、慌ててえっへんと腰に手を当てると、イシェルに向かって胸を張って見せる。
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