233 / 630
2人で外出10
しおりを挟む
強く言葉を返しはしたが、小さな肩を小刻みに震わせ、動揺を隠しきれない様子の星にエリエが耐えかねて声を荒げる。
「あんた! 星のお父さんの知り合いかどうかしらないけど、この子には関係がないことでしょ!? もうこの子をそっとしておいてあげてよ!!」
「……うるさい。外野は黙っていろ!!」
「――きゃっ! な、何よこれ!!」
覆面の男が憤りを露わにすると手を彼女の方に向けた直後、エリエの体が突如出現した鉄の檻の中へ閉じ込められた。
エリエの反応速度でも、全く反応できないほどのスピードで構築されたその檻の中で、エリエが「なによこれ!」と叫んでいる。
閉じ込められたエリエを心配そうに見つめる。エリエが結構強引にガシャガシャと暴れている様子を見ると、どうやら閉じ込める目的で作られただけで、それ以上の機能はなさそうだ。
星はエリエの無事をほっと胸を撫で下ろした、意を決したように覆面の男に叫ぶ。
「この人は関係ありません! あなたが欲しいのは私のはずです! エリエさんを放してください!」
「ふんっ! その眼……博士と同じ眼だ。……いいだろう。元からその娘には用はない。君が抵抗せずにこちらに来るというのなら、その娘の安全は保証しよう!」
「……約束ですよ? もし、やぶったら私はここで死にます!」
星は鞘から剣を抜くと、自分の首筋に剣先を向けた。
その決意に満ちた瞳に、表情は見えないものの覆面の男も焦りを隠し切れないのか、あからさまに慌て始める。
フリーダムの世界ではPVP中は剣や異常状態でHPが『0』になることはない。だが、それはあくまでもPVP中の話だ。プレイヤー自身が自分を傷つけた場合には適応されない――。
その事実を覆面の男は知っていたのだろう。星の突然の行動に、覆面の男は慌てて叫んだ。
「待ちたまえ! 分かった。彼女の身の安全は保証する! だから、その剣を降ろしなさい……」
焦りながらも冷静な声音で諭すように告げた覆面の男。
彼のその様子を窺いつつ、星はもう一度声を大にして叫んだ。
「なら、まず周りの弓を持った人達を引かせてください!!」
「ああ、分かった!」
覆面の男は右腕を横に突き出すと、それと同時に周りを囲んでいた敵が皆離れていった。
その直後、星の目の前に青い光を放つ扉が現れた。
「さあ、彼等は引かせた。今度は君が私の言う事を聞く番だ。その扉に入りたまえ……」
「……分かりました」
星は覚悟したように瞼を閉じると、ゆっくりと彼の言う通りに扉の方へと歩き出す。
それをエリエが慌てて声を上げる。
「星。ダメだよ! 私は大丈夫。こんな檻くらいその気になれば簡単に壊せるんだから! だから、そんな奴の言う事を聞いたらダメ!!」
エリエはレイピアを抜くと、力任せに檻を何度も斬りつける。
しかし、そんなことをしても檻を破壊できるはずもなく。虚しくカンカンと刃が檻に当たる音だけが辺りに響いていた。
そんなエリエに星はにっこりと微笑むと、徐ろに口を開く。
「――私は大丈夫です。でも、こんなかたちでお別れになるなんて…………エミルさん達には、お世話になりましたって、エリエさんから伝えてくださ――」
「――嫌だ! そんなの自分で伝えなよ! 私が……私は星を守るって決めたんだから! レイニールにも約束したんだ! だから……壊れろ! 壊れてよッ!!」
エリエは瞳に涙をいっぱいに溜めながら、懇親の力で檻を攻撃したが壊れるどころか、檻の鉄格子にすら傷一つ付かない。
そして、力任せに打つ付けていた為か反動でレイピアが弾かれ、無常にも檻の外へと飛ばされてしまう。
「……どうして私はいつもいつも……」
飛ばされたレイピアを潤んだ瞳で見つめると、力無く呟きエリエはその場に座り込んだ。
この時、今更になって自分が星に外に出ようと言ってしまったことをエリエは悔いていた。まさか、今朝襲われてその日に再び仕掛けてくるなんて思いもしていなかった。
こんなことになるなら『エミルにも声を掛けておけば……』と。だがいくら悔やんでも、もう失った時間は戻って来ない……。
その一部始終を見ていた星が意気消沈しているエリエに言った。
「――エリエさん……もういいんです。もう十分です……レイをお願いします。……さようなら」
そう言い残すと、星は扉の向こうへと消えていった。
扉は星の姿を飲み込むと、その場から幻の様に消え失せる。
もう姿の見えない星に向かってエリエが必死に叫ぶ。
「待って! 待ってよ……私が……私が守られても……意味ないじゃない……行かないで。星……行かないでよ……」
檻の中から右手を前に突き出しながら、涙でぼやける視界の中の星の残像だけを必死に掴もうと手を伸ばす。例え、その行動に意味がなかったとしても……。
そんな中、覆面の男が不気味に笑い声を上げた。
「ふふふっ……はっはっはっはっ! これで全てが私の思いのままになる! 博士。あなたの研究は私が引き継ぎますよ……博士の娘さえ手に入れればもういい! 撤収する!」
その声に従うように辺りの敵も、次々に光の扉の中へと消えていく。
残されたエリエの檻の下にも魔法陣が現れ、元居た場所へと戻された。
「あんた! 星のお父さんの知り合いかどうかしらないけど、この子には関係がないことでしょ!? もうこの子をそっとしておいてあげてよ!!」
「……うるさい。外野は黙っていろ!!」
「――きゃっ! な、何よこれ!!」
覆面の男が憤りを露わにすると手を彼女の方に向けた直後、エリエの体が突如出現した鉄の檻の中へ閉じ込められた。
エリエの反応速度でも、全く反応できないほどのスピードで構築されたその檻の中で、エリエが「なによこれ!」と叫んでいる。
閉じ込められたエリエを心配そうに見つめる。エリエが結構強引にガシャガシャと暴れている様子を見ると、どうやら閉じ込める目的で作られただけで、それ以上の機能はなさそうだ。
星はエリエの無事をほっと胸を撫で下ろした、意を決したように覆面の男に叫ぶ。
「この人は関係ありません! あなたが欲しいのは私のはずです! エリエさんを放してください!」
「ふんっ! その眼……博士と同じ眼だ。……いいだろう。元からその娘には用はない。君が抵抗せずにこちらに来るというのなら、その娘の安全は保証しよう!」
「……約束ですよ? もし、やぶったら私はここで死にます!」
星は鞘から剣を抜くと、自分の首筋に剣先を向けた。
その決意に満ちた瞳に、表情は見えないものの覆面の男も焦りを隠し切れないのか、あからさまに慌て始める。
フリーダムの世界ではPVP中は剣や異常状態でHPが『0』になることはない。だが、それはあくまでもPVP中の話だ。プレイヤー自身が自分を傷つけた場合には適応されない――。
その事実を覆面の男は知っていたのだろう。星の突然の行動に、覆面の男は慌てて叫んだ。
「待ちたまえ! 分かった。彼女の身の安全は保証する! だから、その剣を降ろしなさい……」
焦りながらも冷静な声音で諭すように告げた覆面の男。
彼のその様子を窺いつつ、星はもう一度声を大にして叫んだ。
「なら、まず周りの弓を持った人達を引かせてください!!」
「ああ、分かった!」
覆面の男は右腕を横に突き出すと、それと同時に周りを囲んでいた敵が皆離れていった。
その直後、星の目の前に青い光を放つ扉が現れた。
「さあ、彼等は引かせた。今度は君が私の言う事を聞く番だ。その扉に入りたまえ……」
「……分かりました」
星は覚悟したように瞼を閉じると、ゆっくりと彼の言う通りに扉の方へと歩き出す。
それをエリエが慌てて声を上げる。
「星。ダメだよ! 私は大丈夫。こんな檻くらいその気になれば簡単に壊せるんだから! だから、そんな奴の言う事を聞いたらダメ!!」
エリエはレイピアを抜くと、力任せに檻を何度も斬りつける。
しかし、そんなことをしても檻を破壊できるはずもなく。虚しくカンカンと刃が檻に当たる音だけが辺りに響いていた。
そんなエリエに星はにっこりと微笑むと、徐ろに口を開く。
「――私は大丈夫です。でも、こんなかたちでお別れになるなんて…………エミルさん達には、お世話になりましたって、エリエさんから伝えてくださ――」
「――嫌だ! そんなの自分で伝えなよ! 私が……私は星を守るって決めたんだから! レイニールにも約束したんだ! だから……壊れろ! 壊れてよッ!!」
エリエは瞳に涙をいっぱいに溜めながら、懇親の力で檻を攻撃したが壊れるどころか、檻の鉄格子にすら傷一つ付かない。
そして、力任せに打つ付けていた為か反動でレイピアが弾かれ、無常にも檻の外へと飛ばされてしまう。
「……どうして私はいつもいつも……」
飛ばされたレイピアを潤んだ瞳で見つめると、力無く呟きエリエはその場に座り込んだ。
この時、今更になって自分が星に外に出ようと言ってしまったことをエリエは悔いていた。まさか、今朝襲われてその日に再び仕掛けてくるなんて思いもしていなかった。
こんなことになるなら『エミルにも声を掛けておけば……』と。だがいくら悔やんでも、もう失った時間は戻って来ない……。
その一部始終を見ていた星が意気消沈しているエリエに言った。
「――エリエさん……もういいんです。もう十分です……レイをお願いします。……さようなら」
そう言い残すと、星は扉の向こうへと消えていった。
扉は星の姿を飲み込むと、その場から幻の様に消え失せる。
もう姿の見えない星に向かってエリエが必死に叫ぶ。
「待って! 待ってよ……私が……私が守られても……意味ないじゃない……行かないで。星……行かないでよ……」
檻の中から右手を前に突き出しながら、涙でぼやける視界の中の星の残像だけを必死に掴もうと手を伸ばす。例え、その行動に意味がなかったとしても……。
そんな中、覆面の男が不気味に笑い声を上げた。
「ふふふっ……はっはっはっはっ! これで全てが私の思いのままになる! 博士。あなたの研究は私が引き継ぎますよ……博士の娘さえ手に入れればもういい! 撤収する!」
その声に従うように辺りの敵も、次々に光の扉の中へと消えていく。
残されたエリエの檻の下にも魔法陣が現れ、元居た場所へと戻された。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
続・歴史改変戦記「北のまほろば」
高木一優
SF
この物語は『歴史改変戦記「信長、中国を攻めるってよ」』の続編になります。正編のあらすじは序章で説明されますので、続編から読み始めても問題ありません。
タイム・マシンが実用化された近未来、歴史学者である私の論文が中国政府に採用され歴史改変実験「碧海作戦」が発動される。私の秘書官・戸部典子は歴女の知識を活用して戦国武将たちを支援する。歴史改変により織田信長は中国本土に攻め入り中華帝国を築き上げたのだが、日本国は帝国に飲み込まれて消滅してしまった。信長の中華帝国は殷賑を極め、世界の富を集める経済大国へと成長する。やがて西欧の勢力が帝国を襲い、私と戸部典子は真田信繁と伊達政宗を助けて西欧艦隊の攻撃を退け、ローマ教皇の領土的野心を砕く。平和が訪れたのもつかの間、十七世紀の帝国の北方では再び戦乱が巻き起ころうとしていた。歴史を思考実験するポリティカル歴史改変コメディー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる