オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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2人で外出10

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 強く言葉を返しはしたが、小さな肩を小刻みに震わせ、動揺を隠しきれない様子の星にエリエが耐えかねて声を荒げる。

「あんた! 星のお父さんの知り合いかどうかしらないけど、この子には関係がないことでしょ!? もうこの子をそっとしておいてあげてよ!!」
「……うるさい。外野は黙っていろ!!」
「――きゃっ! な、何よこれ!!」
 
 覆面の男が憤りを露わにすると手を彼女の方に向けた直後、エリエの体が突如出現した鉄の檻の中へ閉じ込められた。
 エリエの反応速度でも、全く反応できないほどのスピードで構築されたその檻の中で、エリエが「なによこれ!」と叫んでいる。

 閉じ込められたエリエを心配そうに見つめる。エリエが結構強引にガシャガシャと暴れている様子を見ると、どうやら閉じ込める目的で作られただけで、それ以上の機能はなさそうだ。

 星はエリエの無事をほっと胸を撫で下ろした、意を決したように覆面の男に叫ぶ。

「この人は関係ありません! あなたが欲しいのは私のはずです! エリエさんを放してください!」
「ふんっ! その眼……博士と同じ眼だ。……いいだろう。元からその娘には用はない。君が抵抗せずにこちらに来るというのなら、その娘の安全は保証しよう!」
「……約束ですよ? もし、やぶったら私はここで死にます!」

 星は鞘から剣を抜くと、自分の首筋に剣先を向けた。
 その決意に満ちた瞳に、表情は見えないものの覆面の男も焦りを隠し切れないのか、あからさまに慌て始める。

 フリーダムの世界ではPVP中は剣や異常状態でHPが『0』になることはない。だが、それはあくまでもPVP中の話だ。プレイヤー自身が自分を傷つけた場合には適応されない――。

 その事実を覆面の男は知っていたのだろう。星の突然の行動に、覆面の男は慌てて叫んだ。

「待ちたまえ! 分かった。彼女の身の安全は保証する! だから、その剣を降ろしなさい……」

 焦りながらも冷静な声音で諭すように告げた覆面の男。

 彼のその様子を窺いつつ、星はもう一度声を大にして叫んだ。

「なら、まず周りの弓を持った人達を引かせてください!!」
「ああ、分かった!」

 覆面の男は右腕を横に突き出すと、それと同時に周りを囲んでいた敵が皆離れていった。

 その直後、星の目の前に青い光を放つ扉が現れた。

「さあ、彼等は引かせた。今度は君が私の言う事を聞く番だ。その扉に入りたまえ……」
「……分かりました」

 星は覚悟したように瞼を閉じると、ゆっくりと彼の言う通りに扉の方へと歩き出す。

 それをエリエが慌てて声を上げる。

「星。ダメだよ! 私は大丈夫。こんな檻くらいその気になれば簡単に壊せるんだから! だから、そんな奴の言う事を聞いたらダメ!!」

 エリエはレイピアを抜くと、力任せに檻を何度も斬りつける。
 しかし、そんなことをしても檻を破壊できるはずもなく。虚しくカンカンと刃が檻に当たる音だけが辺りに響いていた。

 そんなエリエに星はにっこりと微笑むと、徐ろに口を開く。  
   
「――私は大丈夫です。でも、こんなかたちでお別れになるなんて…………エミルさん達には、お世話になりましたって、エリエさんから伝えてくださ――」
「――嫌だ! そんなの自分で伝えなよ! 私が……私は星を守るって決めたんだから! レイニールにも約束したんだ! だから……壊れろ! 壊れてよッ!!」

 エリエは瞳に涙をいっぱいに溜めながら、懇親の力で檻を攻撃したが壊れるどころか、檻の鉄格子にすら傷一つ付かない。

 そして、力任せに打つ付けていた為か反動でレイピアが弾かれ、無常にも檻の外へと飛ばされてしまう。

「……どうして私はいつもいつも……」

 飛ばされたレイピアを潤んだ瞳で見つめると、力無く呟きエリエはその場に座り込んだ。
 この時、今更になって自分が星に外に出ようと言ってしまったことをエリエは悔いていた。まさか、今朝襲われてその日に再び仕掛けてくるなんて思いもしていなかった。

 こんなことになるなら『エミルにも声を掛けておけば……』と。だがいくら悔やんでも、もう失った時間は戻って来ない……。 

 その一部始終を見ていた星が意気消沈しているエリエに言った。

「――エリエさん……もういいんです。もう十分です……レイをお願いします。……さようなら」

 そう言い残すと、星は扉の向こうへと消えていった。
 扉は星の姿を飲み込むと、その場から幻の様に消え失せる。

 もう姿の見えない星に向かってエリエが必死に叫ぶ。

「待って! 待ってよ……私が……私が守られても……意味ないじゃない……行かないで。星……行かないでよ……」

 檻の中から右手を前に突き出しながら、涙でぼやける視界の中の星の残像だけを必死に掴もうと手を伸ばす。例え、その行動に意味がなかったとしても……。 

 そんな中、覆面の男が不気味に笑い声を上げた。

「ふふふっ……はっはっはっはっ! これで全てが私の思いのままになる! 博士。あなたの研究は私が引き継ぎますよ……博士の娘さえ手に入れればもういい! 撤収する!」

 その声に従うように辺りの敵も、次々に光の扉の中へと消えていく。

 残されたエリエの檻の下にも魔法陣が現れ、元居た場所へと戻された。
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