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名御屋までの道中12
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白雪は何事もなかったかのように鍋の前に戻ると、にっこりと微笑んで言った。
「あらあら、小虎も随分と疲れていたようです。後でしょぶん……テントまで運んで行かないといけませんね」
目の前で起きた衝撃的な光景を呆然と見つめていたメルディウス、マスター、少女はシンクロしたように同じことを考えていた。
『食べても食べなくても結末は同じ!?』
3人は手の中の器と倒れている小虎に目を向けると、恐る恐る白雪の方を向き直した。
「どうぞ召し上がれ♪」
笑顔でそう告げる白雪を見て、3人は互いの顔を見合うと、覚悟を決めたように器に口を付け一気に汁をすする。
直後、マスターの目がカッ!と見開き、お椀を持つ手が震え出す。
「――う、うまいだと!?」
「見た目と違ってお味噌汁です!!」
マスターと少女が驚きの声を上げた。
白雪は満足そうに笑顔を見せると「当然です」と頷いた。
ほっと胸を撫で下ろし、手の中の器から隣に座っていたメルディウスに視線を移す。
「うまいではないか、なあ、メルディウス!」
「…………」
マスターは彼の背中を叩くと、メルディウスの体はゆっくりと傾きバタッと前へと倒れた。衝撃のあまり、その場に立ち上がったマスター。
よく見ると地面に倒れたメルディウスは白目を向いたまま、口から泡を吹いている。
マスターがふと白雪の方を振り向く――。
「食べながら寝るなんて、ギルマスも随分お疲れのようですね」
優しい声音でほくそ笑みながらそう呟く白雪。
その悪魔の様な不気味な笑みを見たマスターは一度深く深呼吸をすると「風呂に入ってくるかな」と呟き、その場を後にした。
翌日――不機嫌そうに馬に跨ったメルディウスが呟く。まあ、理由は聞かなくても分かる気がするが……。
「全く昨日は酷い目にあったぜ」
「ほんとだよ。結局カレーを食べれなかったしさ」
メルディウスに続いて、横に付いた小虎も眉にしわを寄せてそう呟く。
あの後、2人は白雪にテントの中にまるで物でも扱うように投げ込まれ、最悪な一夜を過ごした。
結局、メルディウスは自分が企画した風呂にも入れず。小虎は風呂どころか、大好物のカレーすら食べることができなかったわけだ。
そんな2人をなだめるように紅蓮が彼等の隣に馬を付け。
「まあまあ、よく分かりませんが、機嫌を直して下さい。カレーならまた作ってあげますし」
「ほんと!?」
小虎は嬉しそうに聞き返すと、紅蓮も静かに頷いた。
メルディウスは大きなため息をつくと少女の方を向く。
「そういえば、お前はどうするんだ? このまま一緒に行くわけにもいかんだろ。もし行くあてがないってんなら俺達のギルドに来るか?」
「そうですねぇー。なんだか楽しそうな人達ばかりだし。それもいいかなぁー」
少し考え少女がそう口にすると、メルディウスは嬉しそうに笑った。
ギルドのメンバーが増えるのは、大手のギルドでも同じこと様だ――。
「そうか! なら白雪。この子を千代に送って行ってやれ!」
「……仕方ないですね。了解です。ギルマス」
白雪は不満を小さく頷くと白雪が後方にいた少女の馬の隣へと来た。
その時、黙っていた少女が徐ろに口を開く。
「あの、私も一緒に行っちゃダメですか? というか、行きたいです!」
少女は懇願すると、メルディウスに熱い視線を向けた。
だが、これから四天王のバロンの元へと行くのに、装備も揃えていない初心者プレイヤーを連れていくことに、メルディウスは躊躇せざるを得なかった。
それもそうだろう。バロンの固有スキルは広範囲に影響を及ぼすタイプの能力で、しかも数千の兵士は全てが操るプレイヤーのレベルと同じ強敵。
つまりはバロンのレベルが100ならば、その傘下の兵士達も同じ100ということだ。それが数千を超えるほどいるのであれば、さすがのメルディウス達でも守りきれる保証はない。
メルディウスはしばらく考える素振りを見せ、真剣な顔でもう一度彼女に尋ねた。
「本当に行くのか? 俺達は守ってやれるか分からないぞ?」
「もちろんです!」
考える素振りすら見せずに、直ぐ様返事を返した彼女の眼差しと熱意に押されたのか、メルディウスは頷き叫んだ。
もしもここで少しでも彼女が躊躇すれば、有無を言わさずに白雪に千代へと送り返させるつもりだったのだが、決意が決まっているのならば、これ以上言うのも野暮というものだろう……。
「よし! なら付いて来い! だが、ギルドに入るにはギルドのあるホームタウンに戻る必要があるからな。この旅の間にお前がどういう奴なのかしっかり見せてもらうぞ?」
「はい! 頑張ります隊長!」
「――ふっ、隊長か……悪くねぇな」
メルディウスは彼女の『隊長』という言葉が満更でもなかったのか、口元に笑みを浮かべると、右腕を頭上に高らかに突き上げて大きく叫んだ。
「よっしゃー、野郎ども! 俺に付いて来いやぁー!!」
「「おー!!」」
少女と小虎はその声に腕を高く掲げ、先に馬を走らせていったメルディウスの後を追う。
紅蓮と白雪は顔を見合わせると、ため息をつきながら呟く。
「「野郎じゃないです」」
彼等のテンションについていけない2人は、不機嫌そうな顔をしながら馬を出した。
マスターはその様子を呆れ顔で見ると、額に手を当てながら大きなため息をついた。
「はぁー。こんな事で名御屋まで持つのか、不安だ……」
そう呟くと先に森の中へと進んでいったメルディウス達を追いかけるように、馬の手綱をしならせ馬を出した。
マスター達6人は朝日を受けキラキラと輝いている森の中へと、吸い込まれるように小さくなっていく。
「あらあら、小虎も随分と疲れていたようです。後でしょぶん……テントまで運んで行かないといけませんね」
目の前で起きた衝撃的な光景を呆然と見つめていたメルディウス、マスター、少女はシンクロしたように同じことを考えていた。
『食べても食べなくても結末は同じ!?』
3人は手の中の器と倒れている小虎に目を向けると、恐る恐る白雪の方を向き直した。
「どうぞ召し上がれ♪」
笑顔でそう告げる白雪を見て、3人は互いの顔を見合うと、覚悟を決めたように器に口を付け一気に汁をすする。
直後、マスターの目がカッ!と見開き、お椀を持つ手が震え出す。
「――う、うまいだと!?」
「見た目と違ってお味噌汁です!!」
マスターと少女が驚きの声を上げた。
白雪は満足そうに笑顔を見せると「当然です」と頷いた。
ほっと胸を撫で下ろし、手の中の器から隣に座っていたメルディウスに視線を移す。
「うまいではないか、なあ、メルディウス!」
「…………」
マスターは彼の背中を叩くと、メルディウスの体はゆっくりと傾きバタッと前へと倒れた。衝撃のあまり、その場に立ち上がったマスター。
よく見ると地面に倒れたメルディウスは白目を向いたまま、口から泡を吹いている。
マスターがふと白雪の方を振り向く――。
「食べながら寝るなんて、ギルマスも随分お疲れのようですね」
優しい声音でほくそ笑みながらそう呟く白雪。
その悪魔の様な不気味な笑みを見たマスターは一度深く深呼吸をすると「風呂に入ってくるかな」と呟き、その場を後にした。
翌日――不機嫌そうに馬に跨ったメルディウスが呟く。まあ、理由は聞かなくても分かる気がするが……。
「全く昨日は酷い目にあったぜ」
「ほんとだよ。結局カレーを食べれなかったしさ」
メルディウスに続いて、横に付いた小虎も眉にしわを寄せてそう呟く。
あの後、2人は白雪にテントの中にまるで物でも扱うように投げ込まれ、最悪な一夜を過ごした。
結局、メルディウスは自分が企画した風呂にも入れず。小虎は風呂どころか、大好物のカレーすら食べることができなかったわけだ。
そんな2人をなだめるように紅蓮が彼等の隣に馬を付け。
「まあまあ、よく分かりませんが、機嫌を直して下さい。カレーならまた作ってあげますし」
「ほんと!?」
小虎は嬉しそうに聞き返すと、紅蓮も静かに頷いた。
メルディウスは大きなため息をつくと少女の方を向く。
「そういえば、お前はどうするんだ? このまま一緒に行くわけにもいかんだろ。もし行くあてがないってんなら俺達のギルドに来るか?」
「そうですねぇー。なんだか楽しそうな人達ばかりだし。それもいいかなぁー」
少し考え少女がそう口にすると、メルディウスは嬉しそうに笑った。
ギルドのメンバーが増えるのは、大手のギルドでも同じこと様だ――。
「そうか! なら白雪。この子を千代に送って行ってやれ!」
「……仕方ないですね。了解です。ギルマス」
白雪は不満を小さく頷くと白雪が後方にいた少女の馬の隣へと来た。
その時、黙っていた少女が徐ろに口を開く。
「あの、私も一緒に行っちゃダメですか? というか、行きたいです!」
少女は懇願すると、メルディウスに熱い視線を向けた。
だが、これから四天王のバロンの元へと行くのに、装備も揃えていない初心者プレイヤーを連れていくことに、メルディウスは躊躇せざるを得なかった。
それもそうだろう。バロンの固有スキルは広範囲に影響を及ぼすタイプの能力で、しかも数千の兵士は全てが操るプレイヤーのレベルと同じ強敵。
つまりはバロンのレベルが100ならば、その傘下の兵士達も同じ100ということだ。それが数千を超えるほどいるのであれば、さすがのメルディウス達でも守りきれる保証はない。
メルディウスはしばらく考える素振りを見せ、真剣な顔でもう一度彼女に尋ねた。
「本当に行くのか? 俺達は守ってやれるか分からないぞ?」
「もちろんです!」
考える素振りすら見せずに、直ぐ様返事を返した彼女の眼差しと熱意に押されたのか、メルディウスは頷き叫んだ。
もしもここで少しでも彼女が躊躇すれば、有無を言わさずに白雪に千代へと送り返させるつもりだったのだが、決意が決まっているのならば、これ以上言うのも野暮というものだろう……。
「よし! なら付いて来い! だが、ギルドに入るにはギルドのあるホームタウンに戻る必要があるからな。この旅の間にお前がどういう奴なのかしっかり見せてもらうぞ?」
「はい! 頑張ります隊長!」
「――ふっ、隊長か……悪くねぇな」
メルディウスは彼女の『隊長』という言葉が満更でもなかったのか、口元に笑みを浮かべると、右腕を頭上に高らかに突き上げて大きく叫んだ。
「よっしゃー、野郎ども! 俺に付いて来いやぁー!!」
「「おー!!」」
少女と小虎はその声に腕を高く掲げ、先に馬を走らせていったメルディウスの後を追う。
紅蓮と白雪は顔を見合わせると、ため息をつきながら呟く。
「「野郎じゃないです」」
彼等のテンションについていけない2人は、不機嫌そうな顔をしながら馬を出した。
マスターはその様子を呆れ顔で見ると、額に手を当てながら大きなため息をついた。
「はぁー。こんな事で名御屋まで持つのか、不安だ……」
そう呟くと先に森の中へと進んでいったメルディウス達を追いかけるように、馬の手綱をしならせ馬を出した。
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