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名御屋までの道中2
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「姉さんの……サンドイッチ……」
小虎は生唾を呑み込むと、まるで餌を目の前に待てをさせられている犬の様に純粋な瞳で箱に入ったサンドイッチを見つめていた。
まあ、一番最初に休みたいと言ったのは彼であり。流れで、結果的に一番最後に回されるかたちになった小虎は、もう我慢の限界だったのだろう。
「ああ、小虎にはまだ渡していませんでしたね。どうぞ」
「わーい。姉さんありがとうございます!」
小虎は差し出されたサンドイッチを掴むと、待ちきれなかったのか一気に口の中に頬張った。
「――んぐ!? んんんんんんッ!!」
突然、口をもぐもぐと動かしていた小虎が、急に両手足をばたつかせながら苦しみ出す。
それを見た紅蓮は冷静に飲み物の入ったコップを小虎に手渡すと、彼はそれを勢い良く飲み干した。
小虎は喉に詰まらせた物をやっとの思いで飲み込むと、ほっとしたように息を吐く。
「はぁ~。死ぬかと思った……」
「小虎が焦って食べるからです。そんな事しなくても、たくさん作ってきたので心配いりませんよ?」
紅蓮はそう告げると徐にコマンドを操作し、アイテムの中から更に箱を取り出して、小虎に見える様に蓋を開ける。
中を覗き込んだ小虎は、喜びのあまり声を上げた。
「――これはたまごサンドじゃないですか!!」
「はい。小虎が前に好きだと言ってましたから、食べますか?」
紅蓮はたまごサンドがぎっしり詰まった箱を突き出して首を傾げて尋ねる。
小虎は「食べます!」とその箱の中からたまごサンドを掴むと、美味しそうに頬張った。
「さふがはねえふぁん……ふぉいひいれす!」
紅蓮は口の中に頬張ったままもごもごと喋ってる小虎を見て、呆れ顔で小さく息を吐くと。
「分かりましたから、ゆっくり食べて下さい。そんな事では、また喉に詰まらせますよ? それに口に物を入れて喋るなんてお行儀も悪いです、小虎」
「もぐもぐ………はい!」
仲が良さそうな2人のやり取りを見ていたマスターが微笑みながら「まるで姉弟だな」と呟く。
それとは対照的に、メルディウスと白雪の2人は、その様子を不機嫌そうに見つめていた。
「小虎の奴。紅蓮に迷惑かけやがって……今度稽古つけてやる時には、みっちりしごいてやる!」
「紅蓮様を独り占めして――う、うらやましい……」
「はぁ……」
(こやつらにも困ったものだ……)
小さい声でぼそぼそと呟いているメルディウスと白雪を見て、そう心の中で呟いたマスターは苦笑いを浮かべていた。
それからしばらく休息を取った後にそれぞれ出した馬に跨る。
前の馬は使用限界がきてしまった為、今乗っているのは別の馬である。
馬を呼び出す笛は各町の道具屋で買うことができ、値段も3000ユールくらいなのでそれほど高額なものではない。
駆け出しのプレイヤーには厳しい金額だが、ある程度のプレイ歴があるプレイヤーならば、3個は持っているのが当たり前のアイテムである。
この後もロケットの切り離し方式の様に、次々と使用限界のきた馬を乗り換える予定となっていた。
今向かっている名御屋まで、まだまだ先は長い。あまり一箇所でゆっくりしている時間はないのだ。
先頭のマスターはマップで現在地の位置を確認して小さく呟く。
それは地図に乗っている『始まりの街』という記載が理由だった。
「ここからもうしばらく行けば、始まりの街か……カレンはしっかりやっているかな」
マスターは口元に微かな笑みを浮かべると、馬に跨ったまま彼の掛け声を待っている。
馬を後ろに向けると、手綱をしっかり握り締め、マスターが声を張り上げて叫んだ。
「それでは出発するぞ!!」
『おー!!』
マスターの言葉に合わせるように、全員が腕を空に突き上げながら声を上げる。
その声の直後馬の蹄の音とともに、再び名御屋へと向かって進み始めた。
数時間後。森の入口付近まで来たところで辺りが暗くなり始めたこともあって、森に入るのは明日にした方が懸命である。と言う話でまとまり。完全に日が落ちるまでの間、マスター達は今夜野営る場所を探していた。
野営に適した場所を見つけると、テントの設営や夕食の準備などで、皆忙しなく動き回っている。その時、どこからともなく女性の悲鳴の後に「助けて!」という声が数回聞こえてきた。
「……じじい!!」
「うむ!」
それに直ぐ様反応したマスターとメルディウスが、互いの顔を見合わせて静かに頷く。
そして、すぐにマスターは紅蓮達の方を振り返り叫んだ。
「お前達はここで待て! 儂とメルディウスの2人で様子を見てくる! ゆくぞ!」
「おう!」
2人は野営の準備の為、一度はしまった武器を再び装備するとその声の方へと顔を向ける。
今にも走り出そうとしたその時「待ってくれ!」という小虎の声が耳に飛び込んできた。
小虎は生唾を呑み込むと、まるで餌を目の前に待てをさせられている犬の様に純粋な瞳で箱に入ったサンドイッチを見つめていた。
まあ、一番最初に休みたいと言ったのは彼であり。流れで、結果的に一番最後に回されるかたちになった小虎は、もう我慢の限界だったのだろう。
「ああ、小虎にはまだ渡していませんでしたね。どうぞ」
「わーい。姉さんありがとうございます!」
小虎は差し出されたサンドイッチを掴むと、待ちきれなかったのか一気に口の中に頬張った。
「――んぐ!? んんんんんんッ!!」
突然、口をもぐもぐと動かしていた小虎が、急に両手足をばたつかせながら苦しみ出す。
それを見た紅蓮は冷静に飲み物の入ったコップを小虎に手渡すと、彼はそれを勢い良く飲み干した。
小虎は喉に詰まらせた物をやっとの思いで飲み込むと、ほっとしたように息を吐く。
「はぁ~。死ぬかと思った……」
「小虎が焦って食べるからです。そんな事しなくても、たくさん作ってきたので心配いりませんよ?」
紅蓮はそう告げると徐にコマンドを操作し、アイテムの中から更に箱を取り出して、小虎に見える様に蓋を開ける。
中を覗き込んだ小虎は、喜びのあまり声を上げた。
「――これはたまごサンドじゃないですか!!」
「はい。小虎が前に好きだと言ってましたから、食べますか?」
紅蓮はたまごサンドがぎっしり詰まった箱を突き出して首を傾げて尋ねる。
小虎は「食べます!」とその箱の中からたまごサンドを掴むと、美味しそうに頬張った。
「さふがはねえふぁん……ふぉいひいれす!」
紅蓮は口の中に頬張ったままもごもごと喋ってる小虎を見て、呆れ顔で小さく息を吐くと。
「分かりましたから、ゆっくり食べて下さい。そんな事では、また喉に詰まらせますよ? それに口に物を入れて喋るなんてお行儀も悪いです、小虎」
「もぐもぐ………はい!」
仲が良さそうな2人のやり取りを見ていたマスターが微笑みながら「まるで姉弟だな」と呟く。
それとは対照的に、メルディウスと白雪の2人は、その様子を不機嫌そうに見つめていた。
「小虎の奴。紅蓮に迷惑かけやがって……今度稽古つけてやる時には、みっちりしごいてやる!」
「紅蓮様を独り占めして――う、うらやましい……」
「はぁ……」
(こやつらにも困ったものだ……)
小さい声でぼそぼそと呟いているメルディウスと白雪を見て、そう心の中で呟いたマスターは苦笑いを浮かべていた。
それからしばらく休息を取った後にそれぞれ出した馬に跨る。
前の馬は使用限界がきてしまった為、今乗っているのは別の馬である。
馬を呼び出す笛は各町の道具屋で買うことができ、値段も3000ユールくらいなのでそれほど高額なものではない。
駆け出しのプレイヤーには厳しい金額だが、ある程度のプレイ歴があるプレイヤーならば、3個は持っているのが当たり前のアイテムである。
この後もロケットの切り離し方式の様に、次々と使用限界のきた馬を乗り換える予定となっていた。
今向かっている名御屋まで、まだまだ先は長い。あまり一箇所でゆっくりしている時間はないのだ。
先頭のマスターはマップで現在地の位置を確認して小さく呟く。
それは地図に乗っている『始まりの街』という記載が理由だった。
「ここからもうしばらく行けば、始まりの街か……カレンはしっかりやっているかな」
マスターは口元に微かな笑みを浮かべると、馬に跨ったまま彼の掛け声を待っている。
馬を後ろに向けると、手綱をしっかり握り締め、マスターが声を張り上げて叫んだ。
「それでは出発するぞ!!」
『おー!!』
マスターの言葉に合わせるように、全員が腕を空に突き上げながら声を上げる。
その声の直後馬の蹄の音とともに、再び名御屋へと向かって進み始めた。
数時間後。森の入口付近まで来たところで辺りが暗くなり始めたこともあって、森に入るのは明日にした方が懸命である。と言う話でまとまり。完全に日が落ちるまでの間、マスター達は今夜野営る場所を探していた。
野営に適した場所を見つけると、テントの設営や夕食の準備などで、皆忙しなく動き回っている。その時、どこからともなく女性の悲鳴の後に「助けて!」という声が数回聞こえてきた。
「……じじい!!」
「うむ!」
それに直ぐ様反応したマスターとメルディウスが、互いの顔を見合わせて静かに頷く。
そして、すぐにマスターは紅蓮達の方を振り返り叫んだ。
「お前達はここで待て! 儂とメルディウスの2人で様子を見てくる! ゆくぞ!」
「おう!」
2人は野営の準備の為、一度はしまった武器を再び装備するとその声の方へと顔を向ける。
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