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疑惑のディーノ15
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突然走り出したその勢いに付いていけず、頭の上のレイニールは空中に放り出された。
「――ッ!? 全く。しょうがない主様じゃ……」
「レイニールちゃん。ちょっと待って!」
レイニールは呆れ顔でそう呟くと、パタパタと翼をはためかせながら、後を追いかけようとした瞬間にエミルに呼び止められ、ビクつきながらゆっくりと振り返る。
「……ごめんなさいね。星ちゃんが落ち着くまで側に居てあげて、なにかあったら、すぐに私に知らせてちょうだい」
深刻そうな表情で眉をひそめながらお願いする彼女の顔を見つめ「分かったのじゃ」とこくりと頷き、レイニールは星の後を追いかけていった。
出ていく後ろ姿を見届けると、エミルは大きくため息をつく。
そんな彼女に、エリエが言い難そうに声を掛けてきた。
「エミル姉。ちょっと言い過ぎたんじゃい? 確かに何も言わずに出て行ったのは悪いと思うけどさ。星にも、星なりの考えがあったんだと思うし――」
「――分かってるわ。でも、たまには叱っておかないと、あの子の為にならないし。それに、ここからの話はあの子には聞かれるわけにはいかないのよ……」
彼女のその口ぶりから何かを察したのか、エリエはそれ以上は聞かなかった。
エミルは覚悟を決めたような表情で、ディーノの顔を見つめると彼に問い掛けた。
「あなたほどのプレイヤーが、何も言わずに捕まったって事は、何らかの目論見があるんでしょ?」
「目論見? なんの事だい? 僕はただ、あの子の仲間を見たかっただけだよ。おかげで面白いものを見させてもらったしね」
ディーノは口元に微笑を浮かべ、淡々と語った。
エミルの言うのもことも一理ある。いくら高レベルプレイヤーが多くいるとは言え、無抵抗で捕まるのは、あまりにも不自然過ぎる。
なおも真実を口にしようとしない彼に、エミルは更に言葉を続ける。
「別に隠す必要はないわ。もう私はあなたを敵のスパイだと思っていない。あなたは偶然を装っているけど、敵のリーダー格の人物を狙って殺した。逃げようと思えば逃げられたのに、わざわざ私達の到着を待ってから大人しく捕まっている。でもさっきのあなたのスキルの能力から察するに、広域的なスキルなのは間違いない。だってそうでなければ、5人を相手にして星ちゃんに傷一つ付けずに済むはずがないもの」
エミルが自論を展開していると、横からデイビッドが口を挟む。
「エミルちょっと待て! 何を言ってるんだ? どうして、こいつがダークブレットのスパイじゃないと言い切れる。ただの厄介払いの為にリーダーを殺したとも考えられる。それに、PVPではHPは必ず残るはずだ。一対一ならともかく、敵が複数いて『0』にできるなんてありえないだろ!?」
「いいえ。可能よ、普通の武器なら無理だけど……トレジャーアイテム……そう。彼の武器なら、おそらく可能なのよ。そうでしょう?」
エミルはディーノにそう問い掛けると、ディーノは「ふふふっ」と笑みを浮かべて、その後に口を開いた。
「君の考えている通りだよ。僕のダーインスレイヴは敵のHPを奪い取る。少量だけど、プレイヤーのHPを『0』にすることは造作も無い。君なら、僕の計画を話しても乗ってくれそうだ……いいだろう話してあげるよ。もちろん話したからには協力してもらうけどね」
「ええ、星ちゃんに危害を加えないと約束してくれたならね……」
エミルは相手の思惑を探るように言葉を返した。
すると、彼女の言葉を聞いたディーノは瞼を閉じて少し考える素振りを見せると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ。
「了解した。僕はあのダークブレッドという組織が嫌いでさ、君達には、その撲滅に協力してもらいたいんだよ。もちろん彼等の持っているアイテムと金銭は成功報酬として全部僕が頂く。彼等は皆殺しにするからね……君達への見返りはあの子の身の安全くらいになるけど……」
本来は取引条件としては雲泥の差がある申し出だが、エミルは首を縦に振った。
「ええ、それでいいわ。でもその代わり、私達は誰も殺さないわよ?」
「それも承知してるよ。汚れ役を買って出るのは得意だ」
やり取りを聞いていたデイビッド達が納得した様子の2人に声を上げた。
「ちょっと待ってくれ! リスクが大き過ぎる。そんな事を勝手に……」
「そうだよ、エミル姉! どれだけの勢力かも分かりきってないんだよ!」
「そうです! 第一に今はマスターもいません。そんな状況で不可能です!」
デイビッド、エリエ、カレンが声を大にして叫んだ。
まあ、当然だろう。ギルドでもない少数のパーティーでしかない人数でサーバー内で最も危険な犯罪集団を相手にするにはあまりに無謀と言えた。しかし、エミルはその声に耳を傾けることなく、ディーノに向かって深く頷いた。
ディーノはそれを見ると「交渉成立だね」とほくそ笑んだ。
「――ッ!? 全く。しょうがない主様じゃ……」
「レイニールちゃん。ちょっと待って!」
レイニールは呆れ顔でそう呟くと、パタパタと翼をはためかせながら、後を追いかけようとした瞬間にエミルに呼び止められ、ビクつきながらゆっくりと振り返る。
「……ごめんなさいね。星ちゃんが落ち着くまで側に居てあげて、なにかあったら、すぐに私に知らせてちょうだい」
深刻そうな表情で眉をひそめながらお願いする彼女の顔を見つめ「分かったのじゃ」とこくりと頷き、レイニールは星の後を追いかけていった。
出ていく後ろ姿を見届けると、エミルは大きくため息をつく。
そんな彼女に、エリエが言い難そうに声を掛けてきた。
「エミル姉。ちょっと言い過ぎたんじゃい? 確かに何も言わずに出て行ったのは悪いと思うけどさ。星にも、星なりの考えがあったんだと思うし――」
「――分かってるわ。でも、たまには叱っておかないと、あの子の為にならないし。それに、ここからの話はあの子には聞かれるわけにはいかないのよ……」
彼女のその口ぶりから何かを察したのか、エリエはそれ以上は聞かなかった。
エミルは覚悟を決めたような表情で、ディーノの顔を見つめると彼に問い掛けた。
「あなたほどのプレイヤーが、何も言わずに捕まったって事は、何らかの目論見があるんでしょ?」
「目論見? なんの事だい? 僕はただ、あの子の仲間を見たかっただけだよ。おかげで面白いものを見させてもらったしね」
ディーノは口元に微笑を浮かべ、淡々と語った。
エミルの言うのもことも一理ある。いくら高レベルプレイヤーが多くいるとは言え、無抵抗で捕まるのは、あまりにも不自然過ぎる。
なおも真実を口にしようとしない彼に、エミルは更に言葉を続ける。
「別に隠す必要はないわ。もう私はあなたを敵のスパイだと思っていない。あなたは偶然を装っているけど、敵のリーダー格の人物を狙って殺した。逃げようと思えば逃げられたのに、わざわざ私達の到着を待ってから大人しく捕まっている。でもさっきのあなたのスキルの能力から察するに、広域的なスキルなのは間違いない。だってそうでなければ、5人を相手にして星ちゃんに傷一つ付けずに済むはずがないもの」
エミルが自論を展開していると、横からデイビッドが口を挟む。
「エミルちょっと待て! 何を言ってるんだ? どうして、こいつがダークブレットのスパイじゃないと言い切れる。ただの厄介払いの為にリーダーを殺したとも考えられる。それに、PVPではHPは必ず残るはずだ。一対一ならともかく、敵が複数いて『0』にできるなんてありえないだろ!?」
「いいえ。可能よ、普通の武器なら無理だけど……トレジャーアイテム……そう。彼の武器なら、おそらく可能なのよ。そうでしょう?」
エミルはディーノにそう問い掛けると、ディーノは「ふふふっ」と笑みを浮かべて、その後に口を開いた。
「君の考えている通りだよ。僕のダーインスレイヴは敵のHPを奪い取る。少量だけど、プレイヤーのHPを『0』にすることは造作も無い。君なら、僕の計画を話しても乗ってくれそうだ……いいだろう話してあげるよ。もちろん話したからには協力してもらうけどね」
「ええ、星ちゃんに危害を加えないと約束してくれたならね……」
エミルは相手の思惑を探るように言葉を返した。
すると、彼女の言葉を聞いたディーノは瞼を閉じて少し考える素振りを見せると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ。
「了解した。僕はあのダークブレッドという組織が嫌いでさ、君達には、その撲滅に協力してもらいたいんだよ。もちろん彼等の持っているアイテムと金銭は成功報酬として全部僕が頂く。彼等は皆殺しにするからね……君達への見返りはあの子の身の安全くらいになるけど……」
本来は取引条件としては雲泥の差がある申し出だが、エミルは首を縦に振った。
「ええ、それでいいわ。でもその代わり、私達は誰も殺さないわよ?」
「それも承知してるよ。汚れ役を買って出るのは得意だ」
やり取りを聞いていたデイビッド達が納得した様子の2人に声を上げた。
「ちょっと待ってくれ! リスクが大き過ぎる。そんな事を勝手に……」
「そうだよ、エミル姉! どれだけの勢力かも分かりきってないんだよ!」
「そうです! 第一に今はマスターもいません。そんな状況で不可能です!」
デイビッド、エリエ、カレンが声を大にして叫んだ。
まあ、当然だろう。ギルドでもない少数のパーティーでしかない人数でサーバー内で最も危険な犯罪集団を相手にするにはあまりに無謀と言えた。しかし、エミルはその声に耳を傾けることなく、ディーノに向かって深く頷いた。
ディーノはそれを見ると「交渉成立だね」とほくそ笑んだ。
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