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疑惑のディーノ5

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 もしそうなら、星が剣術をマスターし、自らの固有スキルを使いこなすことさえできればまさに『鬼に金棒』である。

 デイビッドは自分の腰に差したトレジャーアイテムの『炎霊刀 正宗』を横目で見る。だが、デイビッドにはもうひとつ。これとは別に、不信に思っていることがあった。それは、今椅子にミノムシの如く何重にも縄で縛り付けられている目の前の男の固有スキルだ。

 これまで多くのプレイヤーと交流し、刀を交えてきたデイビッドだからこそ分かる。心のどこかから湧き上がる不信感……というよりも、その感情は恐怖に近いかもしれない。

 その恐怖にも似た感情をデイビッドは研ぎ澄まされた感覚によって、痛いほどに肌で感じ取っていたのだ。

(目の前のディーノと名乗る男からは底知れない闇を感じる……)

 デイビッドは目の前のディーノを軽く睨むと、それに気付いたディーノは口元に不敵な笑みを浮かべた。

 そんな彼から目を逸し、今度はエミルの顔をじっと見つめながら重い口を開く。

「――エミル。今までは何も言わなかったが……もし、星ちゃんの固有スキルがとんでもないレアなスキルなら、彼女に剣術を教えるべきじゃないかと俺は思う。それが今後の俺達の為にも星ちゃんの為にもなるんじゃないのか?」 

 それを聞いたエミルがデイビッドの顔を鋭く睨みつけながら、立ち上がると火の付いた様に声を荒げた。

「なっ! そんなの冗談じゃないわ! デイビッドもあの子の性格を知ってるでしょ!? 今日の事件だってそう! もし剣術なんて教えたら、迷わずあの子は戦いの最前線に出るに決まってる! もしそんな事になれば死ぬかもしれないのよ!? そんな事、絶対に反対よ!!」

 彼のその提案に憤るエミルの様子を目にしても、デイビッドは冷静さを崩すことはない。

 星のことを必要以上に気にかけているエミルのことだ――こうなるのは始めから分かっていた。だが、デイビッドもだからと言って、ここで引くわけにはいかなかった。

「まあ、確かにそうだが……しかし、今の状況で優秀なスキルを持っている人材を遊ばせておくほど、俺達も余裕でもないだろ? マスターだって一日も早くここから出る為に、今は別行動を取ってるんじゃないのか? 他にも街では精力的に動いている者もいるだろう。皆がこの世界から抜け出す方法を全力で考えているのに、俺達が切れるカードを切らないのは不公平だとは思わないか?」
「――切れるカードって……あの子は物じゃないのよ! 例え貴方がどう言おうと、星ちゃんを戦いに出すなんて私が許さない!!」

 取り乱しているエミルを諭すように、デイビッドが険しい表情で言葉を続ける。

「確かにあの子はまだ幼いかもしれないけど、ゲームシステム上は補正も入って大人と変わらない力はあるんだ。それなのに後方でいつまでも大事に守っているより、戦力として数えた方がいい。今日の事だって、いつまでも後方で守られるのが嫌で、星ちゃんは剣の練習に行ったんだろ? あの子も望んでいるなら、こちらもそれに応えてあげるのが真の信頼関係じゃないのか?」

 どんな理由であれ。まだ子供の星を危険な状況下で戦いに参加させる訳にはいかないというエミルの怒りも最もだが。

 対するデイビッドの意見も最もだ――ゲーム内のアバターである以上。レベルという制限は合っても、それ以外は大人であろうと子供であろうとステータスに違いはない。早く現実世界に戻りたいと感じている人間は大多数だろう……。

 本来ならば、子供に戦わせることなく大人でこの事態を処理するのが望ましい。だが、フリーダムでは他のゲームでは珍しい初期ハードでランダムに選択される固有スキル制度を利用している。

 チート級の能力でもあり、公平性に欠ける他者との優位性をはっきりさせるこのシステムは、MMORPGという不特定多数でプレイするゲームには不向きに感じるだろう。

 しかし、実際は違う。世界で爆発的なヒット商品となった……このゲームは元々は海外の会社で制作されたゲームであり、国連指導で発売された初めてのゲームだ。日本が特別だとするなら、サーバーが逸早くプレイ可能になったというだけことだ――その為、日本では認可の下りにくいRMTやゲームに実際に存在する企業が参入しやすい制度を多く導入している。

 今では世界的にフリーダムの通貨の【ユール】が仮想通貨の様なもので、世間に出回っているほどだ。
 発表当時はソフトが内蔵されているとは言え、利益を優先させたと言われかねない高額なハード型で売れるわけがないとマスコミも酷評していた。

 しかし、ハードも売上げランキングでは何年も1位を独占している。
 その異常なまでの売上の理由は、固有スキルという個々に設定された『特別なスキル』という存在が大きかった。

 誰でも現実の世界には不満を持って生きているものだ――周囲の評価に、正しく評価されていないと感じることが多々あるだろう。
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