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襲来者5

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 その物凄い力でエミルの胸に顔を押し付けられたエリエは、息ができなくなり気を失ってしまう。
 結局、エミルが起床したのはエリエが起こしに来てから1時間後だった。

 エミルはイシェルとエリエから星が居なくなったという事実を聞かされ、慌ててリントヴルムに乗って飛び出していった。

 その後。エリエ達も皆を集めて、総出で星の捜索に出掛ける。
 星も日常的に同じパーティーに入っているものの、フリーダムのゲームシステム上。同じフィールド内にいなければマップに正確なマーカーは表示されない。

 一応居るフィールド名は小さく名前の下の括弧に表示されるものの。あまりに広大なフィールドに居る場合は、別フィールドに居ると判断されフィールド名だけで、本人の近くに行かなければマーカーが表示されることはないのだ。
 
 だが、パーティーを組んでおくのには、マップ上にマーカーの表示をさせるということよりも重要な意味がある。それは、キャラクターの名前とレベル、そしてHPの表示があるということだ。

 場所が分からなくても仲間のHPが減ったということは、何か不測の事態が起こったのだと察することができる。

 だが、もしそんな事態になっても高レベルプレイヤーだけで構成されているエミル達のパーティーならば、多少の時間を稼げれば救出もそれほど難しくはない。

 しかし、その中でも盲点だったのは星の存在だ――星はトレジャーアイテムでHPの底上げをしたとはいえ、戦闘に関してはドが付くほどの素人。

 そんな彼女がもし戦闘に突入すれば、ものの数分で消されてしまうだろう。

(昨日の様子から星ちゃんが出ていくなんて思いもしなかった。ううん……あの子がこういう行動に出る時は、いつでも不安になった時――私も迂闊だった……いくらイシェが一緒に寝ないと、物凄く機嫌が悪くなるとはいえ。あの子を1人で寝かせておくべきじゃなかった……)

 エミルは心の中で後悔しながら、リントヴルムの背中から地上とマップを交互に見ながら、必死で星の姿を探した。

 だが、森と言ってもエミルの城は、街までの数本の道以外は周囲を森に囲まれている。
 従って星の向かっていった方向が分からなければ、雲を掴むような話だ。

(こういう時、星ちゃんみたいな大人しい子はどこに行くんだろ。確か前は……森の中! 移動距離から考えて城の近くの【聖者の森】付近。今のあの子の実力で、もしモンスターや対人戦になれば、ひとたまりもない――待っててね、星ちゃん。今行くから!)

 エミルは手綱をパシンと鳴らすと、リントヴルムを森に向けて加速させた。

 逸早く飛び出したエミルに遅れながらも、エリエ達も森に向かっていた。それはエリエとデイビッドが皆に進言したからである。

 少し前――エミルが部屋を飛び出していった後。エリエは別室で寝ていたデイビッドとカレンを叩き起こした。

 もちろん。文字通りの意味だ――。

 無理やり起こされた2人は、リビングに呼び出され不機嫌そうにしている。

「いきなり来いってなんだよ。エリエ……」
「そうだ。大変なことってなんなんだよ。どうせお前の胸が縮んだとか、萎んだとかそんなとこだろ?」

 デイビッドとカレンは、まだ開ききらない目を擦っている。

 それを見て、エリエは声を荒げる。

「そんな冗談言ってる場合じゃない! そんな事より早く2人共。戦闘に行くから準備して!」

 血相を変えてそう叫んだエリエを見て、話の飲み込めない2人はただただ首を傾げている。

 その温度差にエリエの怒りが増していく、そんな彼女にイシェルが声を掛けてきた。

「――エリエちゃん。こういう緊急時は要件だけを言わなあかんよ。実はな、星ちゃんが迷子なんよ~」

 イシェルがそういうと寝起きでぼーっとしていた2人が大きく瞳を開くと声を上げた。

「……星ちゃんが迷子になった!?」
「……せ、星ちゃんが居なくなったって!?」

 驚いた2人はそう叫ぶと、イシェルに飛びつきそうな勢いで身を乗り出す。

 イシェルはそんな2人の勢いに押され、苦笑いを浮かべている。

「なら、こんな所でのんびりしてられない! さっさと城の中を探し回ろう!」

 慌てて振り返って、今にも走り出そうとしているカレンをエリエが止めた。

「ちょっと! 誰も城の中で迷子になったって言ってないでしょ!? バカなの?」 
「なんだって! 元はといえば、お前が星ちゃんをしっかり見てないからだろ? バカって言うならお前の方だ。このバカ!」
「何言ってるのよ! どうして私が、星の事を24時間監視してなきゃいけないのよ!」

 エリエとカレンはお互いにいがみ合っている間に、デイビッドが割って入り2人を強引に引き離す。

 離れた2人がまだやり足りない様子を見せていると。

「落ち着け! 今は言い争っている場合じゃないだろ? そんな事に体力使うんなら、今は星ちゃんを見つける事に体力を使え!」
「「…………ッ!?」」

 少し強い口調でそう言われ、2人の表情は険しいものとなる。
 おそらく。ここに居る全員が、心中穏やかではないだろう。

 まだ朝の8時頃、すっかりこっちの生活に慣れた彼女達の起床時間は僅かに――しかし、確実に遅くなっていた。
 それが気の緩みからくるものなのかは分からないが、ゲーム世界に取り残されたという緊張感は徐々に薄らいでいるのは疑いようもない事実だ。
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