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襲来者

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 朝、いつものように目覚めた星は、眠い目を擦りながら大きなあくびをすると、横に寝ているレイニールの寝顔を見てにっこりと微笑んだ。

 枕元で寝ているレイニールは、体を丸めてまだ気持ち良さそうな寝息を立てている。

 その後、レイニールを起こさない様にゆっくりとベッドから身を起こして、星は壁に立て掛けていた剣に目を向けた。壁に掛けられた剣は新品同様に綺麗で、部屋に漏れる微かな光りを受けてキラキラと輝く。

(……結局、昨日も助けてもらっただけ……迷惑をかけてばかりだなぁ……)

 星は昨日のキマイラとの戦闘を思い出すと、しょんぼりと項垂れた。
 無理もない。昨日の戦闘を引き起こしたきっかけは、結局のところは尻尾の蛇にまり人質になってしまった自分なのだ。

 もし。星がキマイラに捕まらなければ、その場を素早く離れることもできた。しかし、星が捕まってしまったことで、メンバー達はキマイラとの戦闘を余儀なくされてしまったのは言うまでもない。

 その時、星の頭に不安が過る――。

(もし……負けてたら……)

 星がそう考えると、脳裏に最悪の光景が浮かび上がり、背筋に悪寒を感じた。
 このゲーム内での死は現実世界での死と同じなのは、もう星も知っていることだ。

 今回はデイビッドのおかげで助かったわけだが、それはあくまでも結果論でしかない。1つ間違えれば、星だけではなく仲間からも死者を出していたかもしれない。
 そんなことを考えていると『自分は足手まといにしかなっていないのだ』という事実に、更に気持ちが重くなる――。

「……もっと強くなりたい……ううん。皆と一緒にいるためには、もっと私が強くならなきゃ!」

 そう決心した星は壁に立て掛けてあった剣を取り、扉を開けて飛び出していった。
 部屋を出てリビングにきたものの、朝早いということもあり。まだ誰も起きていないようだ。

 それを見てほっと胸を撫で下ろす。
 もしもこんなところをエミルに見つかれば、何をしにいくのかと問い詰められ、小一時間説教をされた挙げ句に止められるのは間違いない。

 気付かれないように物音を立てずにゆっくりと部屋を出て、廊下を足早に進み急いで城を飛び出した。
 全力で城の城門を通り過ぎると、肩で息をしながら辺りを見渡した。

(……まずは近場で……とりあえず。この森がいいかな……)

 城を飛び出した星は剣を握り締めて、近くの森を目指して走った。しかし、しばらく森の中を進んでいると、ふと今まで軽快に走っていた星の足が止まる。

 今までの道は微かに光りが照らしてくれたのだが、それより先は光りも殆ど届くことのない闇が広がっていた。

(朝早いからかな……? 薄暗くてすごく怖い……)

 星は怯えながら、まだ薄暗い森の中と辺りを見渡す。

       
              * * *


 その少し後に、大きく伸びをしてレイニールが目を覚ます。

「ふわぁ~。あれ? 主がおらん……」

 レイニールは目を擦りながら、壁に立て掛けたはずの剣がなくなっているのを見て、慌てて窓の方に飛んでいって外を見た。

 するとそこには、城の門を足早に通り抜ける星の姿がある。

 それを見た直後、レイニールの中で怒りがマグマのように沸き起こってきて。

「……主? なぜ我輩を置いて遊びに行くのだー!!」

 置いてけぼりを食らったレイニールは激怒すると、窓を突き破って外へ飛び出した。

 外に飛び出したレイニールが星の後を追いかけたのだが、そこにはもう星の姿はなかった。
 それからしばらく上空から星の姿を探していたレイニールだったが、その甲斐も虚しく一向に星は見つからない。

「我輩から逃げられると思っておるのか!」
 
 空から探しても見つけられないことにだんだんイライラして来たのか、レイニールが大きな声で叫び、その体が金色に輝き大きい竜の状態になった。

 そのまま城の近くの森の上を飛ぶと、翼を大きく羽ばたかせ突風を起こして森の木々を揺らす。 


           * * *


 星が気持ちを奮い立たせ、強張って動かなくなった体をなんとか動かそうとした。その時、突如として激しい突風が吹き荒れて周りの木々を激しく揺らす。

「きゃあああああああああッ!!」

 星は悲鳴を上げると、頭を押さえながらその場に座り込んだ。

 森の木々が大きく左右に激しく揺れ、葉が擦れ幹の軋む物凄い音を立てている。その様子がまるで巨大なモンスターが動く姿に見えた。その直後、上空から星を呼ぶ声が聞こえてきた。

「見つけたのじゃ! あ~る~じ~!!」

 星がその声を聞いて見上げると、上空から巨大な金色の竜が星に向かって急降下してきていた。

「――レイ!?」

 星が驚いていると、レイニールの体が再び金色に輝く。

 すると、今度は金髪のツインテールの女の子が全裸で手足を広げた格好のまま、星の上に降ってきた。

「えっ!? いやあああああああああッ!!」

 その叫び声の直後。星の上にレイニールが覆いかぶさるようにして倒れた。

「うぅ~……早く、どいてレイ……」

 星が苦しそうにうめき声を上げて、上に乗ったレイニールに目を向けると、そこには目を回しているレイニールの姿があった。
 どうやら。星を確実に捕える為に、人間状態で落ちてきたまでは良かったのだが、普段よりも強い落ちた衝撃でそのまま気を失ってしまったらしい。

 普段なら落ちてくる際に翼を使って勢いを上手く殺しているが、人間モードだとその重要な役割を果たす翼が消えている為、減速できなかったのだ。しかも、いつもこのモードだとレイニールは体に何も身に着けていない……。

 星は諦めたように大きなため息をつくと、レイニールが起きるのを待った。
 先程は恐怖しか感じなかったが、地面に大の字になって空を見上げると生い茂る木の葉の隙間から光りが溢れ、それが優しい風で左右に揺れてキラキラと輝いて見える。

 その光景を見上げていると、なんだか懐かしく。時間がゆっくりと流れる様な感覚が、心地よく感じていた。
 星が瞼を閉じると、先程より強く木の葉の擦れる音が心なしか大きく聞こえる気がしてとても安らぐ。
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