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マスターの目的5
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親に怒られた子供のように萎縮する紅蓮を見兼ねてマスターが口を開いた。
「そう強く言う事もなかろう。紅蓮、儂なら外でテントを張って寝るから心配するでない」
「……マスター」
マスターのその言葉を聞いて寂しそうに呟いている紅蓮を見て。
「はぁ……分かりました」
っと白雪が大きなため息をつきながら言った。
「――なら、マスター様。私のお部屋をお使い下さい。私は紅蓮様のお部屋で寝ますから」
それを聞いて珍しくというかここにきて初めて、顔をパァーっと明るくさせた紅蓮がマスターの顔を見上げた。
「良かったですね! マスター」
「ああ、野宿しなくてすむのはありがたい限りだ!」
マスターがそう言って嬉しそうに紅蓮に微笑み掛けると、紅蓮は顔を赤らめ俯いてしまう。
横目でその様子を見ていた白雪がマスターの手を掴む。
「それではマスター様、こちらです」
「――すまない」
マスターは先を歩く白雪に導かれるまま部屋を出て行った。
紅蓮の部屋を出た2人は絨毯の敷き詰められ、壁のあちこちにランプが光る長い廊下を歩いて白雪の部屋へと向かう。
しばらくして、一つの扉の前で白雪が立ち止まった。
「ここが私の部屋です。それでは私は紅蓮様のもとに戻りますので、何かありましたらお呼びください」
一礼して白雪と部屋の前で分かれたマスターは部屋の扉を開けた。
部屋の中はきちんと整理整頓され、無駄な物は一切置いてない。家具もベッドとタンスくらいで、紅蓮の部屋以上に物が少ないと言った印象を受ける。まあ、このくらい物がない方が落ち着きがあって休むには丁度いいだろう。
マスターは部屋の中に入ると、他の物に見向きもせずベッドに倒れ込んだ。
「――儂とした事が、あの技を使うとは迂闊だった……」
天井を見上げ、手を顔の上に置いて、マスターは顔を歪めながら苦笑いを浮かべている。
彼のこんな苦痛に歪む表情は始めて見る。それほどメルディウスとの戦闘で使った技は、体に相当な負担がかかるものなのだろう。
しばらく瞼を閉じて休んでいたマスターが、ぼそっと独り言を呟く。
「何はともあれ、メルディウスと紅蓮の2人は仲間に引き込むことができた。だが、問題は残りの2人だな……」
四天王の中で紅蓮とメルディウスは比較的話が分かる方で、問題なのは残りの2人の方だ――彼等は少し性格に問題がある。
どちらとも強力な固有スキルを有しいるのは言うまでもないが、それ以上に性格の面で一癖も二癖もある扱い難い人物。
唯一の救いはマスターが彼等と知人であることだろうが。それが彼等にどこまで通用するのかは謎が残る。まあ、それでも。初対面でないだけでも相当に有利な状況であることには変わりはないだろうが……。
あの者達のことを考えるとどうしても憂鬱というか、何とも言えない不安が込み上げてくる。
(果たしてあやつらが儂らに協力するかどうか……いや、あやつらの協力なくして、仲間達から犠牲を出さずにこの世界からの脱出は不可能だろう。何としても協力してもらわなければならん)
マスターは拳を天に突き上げ、決意を胸にその日は眠りに就いた。
次の日の朝、窓の外の鳥達のさえずりで目を覚ます。
マスターは重そうに体を起こすと、顔の前に持ってきた手の平を開いたり閉じたりしている。
「……よし。体は元通りのようだな」
マスターはそう呟き笑みを浮かべていると、コンコンっと扉をノックする音が聞こえてきた。
「マスター。もう起きてますか?」
直後。控えめな紅蓮の声が聞こえた。
その言葉に返事をすると「失礼します」という声の後に、ゆっくりと扉が開いて紅蓮の姿が視界に入ってくる。
紅蓮は緊張しているのか、普段より少し表情が硬くなっていた。
マスターはそんな彼女に微笑みを浮かべると、心なしか表情が和らいだ気がした。
「マスター。朝食の用意ができています」
「ああ、わざわざすまんな、今行く!」
ゆっくりとベッドから立ち上がり、紅蓮の元へと向かった。
その後、2人は下の階にある食堂までいくと、そこにはすでに多くの人が集まっていた。
どうやらメルディウスのギルドでは、食事はギルドメンバー全員で一緒に食べるのが決まりになっているらしい。
事件以来。この世界に取り残されている者達全員を管理するのは難しい。だが、食事とあれば、集まらないわけにもいかないだろう。
そこで朝食で用意された人数分の食器で、毎日メンバーの数を数えているというわけだ――。
まるで合宿所の朝の様だと、マスターは微笑を浮かべ、辺りを見渡す。
その数は、ざっと数えても200人以上は居るように見える。さすがはこの千代の街一番のギルドだけのことはある。メンバーは皆、どことなく、強者の風格を漂わせていた。
紅蓮はその中にメルディウス見つけると、その隣に腰掛けた。
マスターもその向かい側に腰を下ろすと、それを確認したメルディウスが徐ろに席を立つ。
「そう強く言う事もなかろう。紅蓮、儂なら外でテントを張って寝るから心配するでない」
「……マスター」
マスターのその言葉を聞いて寂しそうに呟いている紅蓮を見て。
「はぁ……分かりました」
っと白雪が大きなため息をつきながら言った。
「――なら、マスター様。私のお部屋をお使い下さい。私は紅蓮様のお部屋で寝ますから」
それを聞いて珍しくというかここにきて初めて、顔をパァーっと明るくさせた紅蓮がマスターの顔を見上げた。
「良かったですね! マスター」
「ああ、野宿しなくてすむのはありがたい限りだ!」
マスターがそう言って嬉しそうに紅蓮に微笑み掛けると、紅蓮は顔を赤らめ俯いてしまう。
横目でその様子を見ていた白雪がマスターの手を掴む。
「それではマスター様、こちらです」
「――すまない」
マスターは先を歩く白雪に導かれるまま部屋を出て行った。
紅蓮の部屋を出た2人は絨毯の敷き詰められ、壁のあちこちにランプが光る長い廊下を歩いて白雪の部屋へと向かう。
しばらくして、一つの扉の前で白雪が立ち止まった。
「ここが私の部屋です。それでは私は紅蓮様のもとに戻りますので、何かありましたらお呼びください」
一礼して白雪と部屋の前で分かれたマスターは部屋の扉を開けた。
部屋の中はきちんと整理整頓され、無駄な物は一切置いてない。家具もベッドとタンスくらいで、紅蓮の部屋以上に物が少ないと言った印象を受ける。まあ、このくらい物がない方が落ち着きがあって休むには丁度いいだろう。
マスターは部屋の中に入ると、他の物に見向きもせずベッドに倒れ込んだ。
「――儂とした事が、あの技を使うとは迂闊だった……」
天井を見上げ、手を顔の上に置いて、マスターは顔を歪めながら苦笑いを浮かべている。
彼のこんな苦痛に歪む表情は始めて見る。それほどメルディウスとの戦闘で使った技は、体に相当な負担がかかるものなのだろう。
しばらく瞼を閉じて休んでいたマスターが、ぼそっと独り言を呟く。
「何はともあれ、メルディウスと紅蓮の2人は仲間に引き込むことができた。だが、問題は残りの2人だな……」
四天王の中で紅蓮とメルディウスは比較的話が分かる方で、問題なのは残りの2人の方だ――彼等は少し性格に問題がある。
どちらとも強力な固有スキルを有しいるのは言うまでもないが、それ以上に性格の面で一癖も二癖もある扱い難い人物。
唯一の救いはマスターが彼等と知人であることだろうが。それが彼等にどこまで通用するのかは謎が残る。まあ、それでも。初対面でないだけでも相当に有利な状況であることには変わりはないだろうが……。
あの者達のことを考えるとどうしても憂鬱というか、何とも言えない不安が込み上げてくる。
(果たしてあやつらが儂らに協力するかどうか……いや、あやつらの協力なくして、仲間達から犠牲を出さずにこの世界からの脱出は不可能だろう。何としても協力してもらわなければならん)
マスターは拳を天に突き上げ、決意を胸にその日は眠りに就いた。
次の日の朝、窓の外の鳥達のさえずりで目を覚ます。
マスターは重そうに体を起こすと、顔の前に持ってきた手の平を開いたり閉じたりしている。
「……よし。体は元通りのようだな」
マスターはそう呟き笑みを浮かべていると、コンコンっと扉をノックする音が聞こえてきた。
「マスター。もう起きてますか?」
直後。控えめな紅蓮の声が聞こえた。
その言葉に返事をすると「失礼します」という声の後に、ゆっくりと扉が開いて紅蓮の姿が視界に入ってくる。
紅蓮は緊張しているのか、普段より少し表情が硬くなっていた。
マスターはそんな彼女に微笑みを浮かべると、心なしか表情が和らいだ気がした。
「マスター。朝食の用意ができています」
「ああ、わざわざすまんな、今行く!」
ゆっくりとベッドから立ち上がり、紅蓮の元へと向かった。
その後、2人は下の階にある食堂までいくと、そこにはすでに多くの人が集まっていた。
どうやらメルディウスのギルドでは、食事はギルドメンバー全員で一緒に食べるのが決まりになっているらしい。
事件以来。この世界に取り残されている者達全員を管理するのは難しい。だが、食事とあれば、集まらないわけにもいかないだろう。
そこで朝食で用意された人数分の食器で、毎日メンバーの数を数えているというわけだ――。
まるで合宿所の朝の様だと、マスターは微笑を浮かべ、辺りを見渡す。
その数は、ざっと数えても200人以上は居るように見える。さすがはこの千代の街一番のギルドだけのことはある。メンバーは皆、どことなく、強者の風格を漂わせていた。
紅蓮はその中にメルディウス見つけると、その隣に腰掛けた。
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