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マスターの目的4

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 後から入ってきたもう一人はさっきの少女ではない。落ち着きがあり物静かそうな少女で忍者――いや、くノ一のような格好をしていて歳は紅蓮より上に見える。背丈から見ると、高校生くらいだろうか。
 
「おう! 姉さんどうしたんだ?」
「御呼びでしょうか? 紅蓮様」

 部屋に入ってきた2人は、首を傾げながら紅蓮の前に立っていた。その様子から察するに、彼等はなんの報告もなくこの場に呼ばれたのだろう。

 紅蓮はそんな2人に手招きすると、自分の横に座らせマスターに2人を紹介する。

「マスター。この2人は私とメルディウスの弟子で白雪と小虎です。2人共、彼に自己紹介してください」

 紅蓮に紹介された少年が、照れくさそうにマスターに向かって自己紹介を始めた。

「僕は小虎と言います。あなたの話は兄貴……いや、ギルマスから良く聞かされてます! 日本サーバーでギルマスの次に強いのはあなただって! よろしくお願いします!」

 小虎は目をキラキラさせると、マスターの顔を羨望の眼差しで見つめ大きく頭を下げた。マスターもその視線に軽い苦笑いを浮かべている。

 その直後、横に正座していた白雪が自己紹介を始めた。

「紅蓮様に仕えている白雪と申します。以後よろしく」

 少女はそう言って一応頭を下げているものの、その目はマスターを快くは思っていない様に見える。

 マスターはそんな2人に「よろしく」と言うと、カップを持ってコーヒーを1口飲んで神妙な顔で話を始めた。

「メルディウスにはもう話したのだが、儂はこのゲームの中から抜け出す為に、精鋭部隊を組織しようと考えておる。その事はメルディウスからは、もう了解してもらった。儂はできれば紅蓮にも協力してもらいたいのだが……」

 そう伝えたマスターは、紅蓮の顔色を窺っている。
 紅蓮は瞼を閉じたまま、終始その話を冷静に聞いていた。

 少し考えているのか、微動だにせずに顎の下に手を当てている。そして、しばらくしてから紅蓮が徐に口を開く。

「――分かりました。他でもないマスターの頼みなら、お受けします」
「そうか! それは心強い限りだ!」

 返事を聞いたマスターは顔を綻ばせると、嬉しそうに紅蓮の手を取った。

 その直後、マスターに手を握られた紅蓮の顔が真っ赤に染まる。それを見たメルディウスが慌てて、2人の手を強引に引き離す。

「話がついたんだ! もういいだろう!? てか何どさくさに紛れて、なんで手握ってんだよ。離れろ、じじい!」
「ああ、つい熱が入ってしまった。すまんな」

 メルディウスに睨まれ、マスターは苦笑いしながら自分の後頭部を撫でている。
 自分の手を見つめ、紅蓮は少し残念そうに小さなため息をついた。

 彼女の様子に横に座っていた白雪が、それを察して心配そうな表情で声を掛ける。
  
「……紅蓮様? 大丈夫ですか?」
「えっ? はい、なんでもありません。大丈夫です」
「はあ、それならば良いのですが……」 

 なおも心配そうに眉をひそめている白雪の肩に紅蓮の手が置かれた。

 横に立っている紅蓮は、そんな白雪に向かって優しい声音で告げる。

「白雪。あなたと小虎には私達2人の補佐をお願いします。一緒に頑張りましょう」
「はい! お任せください! 必ず紅蓮様のお役に立ってみせます!」
「僕も兄貴や姉さんに負けないくらい頑張るぜ!」

 2人はそう言って決意を新たにすると、力強く言った。

 マスターはそんな彼らをたしなめるように呟く。

「勢いがあるのは結構な事だが、無理をしてはいかん。今、儂らの体は現実の物と変わりないのだからな」

 2人は「はい」とその言葉に返事をする2人に、マスターは微笑んで見せた。

 そのやり取りを見て、メルディウスが口元に笑みを浮かべると、ゆっくりと立ち上がった。

「――話はまとまったな。なら、さっそく明日発つとするか! 行くぞ小虎!」
「ま、待ってくれよ兄貴ー!!」

 足早に部屋を後にするメルディウスの背中を、小虎が慌てて追いかけていった。

 それを見送って紅蓮が徐ろに立ち上がり、口を開く。

「あのマスター。申し訳ないのですが部屋がないので、今日は私と2人で、この部屋で寝て頂きたいのですが……よろしいですか?」 
「ふむ。紅蓮と2人でか……まあ、カレンとも寝てるしな。問題無かろう」
「それはいけません!!」

 微笑んでいるマスターと紅蓮を見て、突然、紅蓮の隣で正座していた白雪が声を上げる。その声に驚き、2人の視線は白雪に集中する。

 白雪はその視線に臆することなく口を開いた。

「殿方と一緒に寝るなんてダメに決まっています!」
「ですが、部屋の空きが――」

 紅蓮が言い返そうと口を開いた直後、白雪は更に強い口調で諌めた。

「――紅蓮様は副ギルドマスターです! その自覚を持って頂かないと困ります!」
「……はい」

 彼女の剣幕に押され、紅蓮は黙ったまま俯いてしまう。
 まあ、彼女が起こるのも最もだろう。アバターを一人称視点で、しかも感覚まで共有して遊べるこのゲームは、言わばもう一つの現実と言っていい。

 そんな中、千代のトップギルドの副ギルドマスターが、見ず知らずの男と同じ部屋で、例えなにもないと分かっていたとしても、一夜を共にするなど冗談ではないというのがメンバーとしての見解なのだろう。
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