オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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激昂した刃7

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 咆哮を上げながら武器の柄を強く握り締め、メルディウスは感情に任せるように大きく斧を振り上げた。

「――あの時から……紅蓮の奴は笑わなくなったんだよ!!」

 そう叫んで力いっぱいに振り下ろした直後。けたたましい音と凄まじい威力に地面が裂け、噴石が数万単位で宙を舞う。

 マスターは地面を転がるようにしてなんとかその攻撃をかわすと、素早く体制を立て直した。

 再び拳を構え直し、マスターは次の攻撃に身構える。

「あいつは……優しいからよ。お前に心配かけないようにって振る舞っていたが、それが俺には、痛々しく見えてたまんねぇんだよ……」
「…………」

 急に悲しい表情で告げるメルディウスに、マスターは無言のまま彼を見つめていた。

 メルディウスは斧を大剣に変えると、今まで以上の殺意をマスターに向け、低い声で告げる。

「俺達の――紅蓮の前から何も言わずに消えろ……でないと、俺は今の状況を利用してお前を殺さないといけなくなる……」

 マスターはその殺気を感じ取っているのか、険しい表情で拳をに力を込めている。

 だが、その場から逃げる素振りは一向に見せず。彼の瞳には、まだ並々ならぬ闘志が宿っていた。

「そうか引く気はねぇーようだな……残念だ……」

 メルディウスはそう呟くと、大剣を構え襲い掛かってくる。マスターは物凄い勢いで向かってくるメルディウスを見つめ拳を固めた。

 彼の思いは痛いほど伝わってくるが、今のマスターには引くという選択肢そのものがない。
 この世界に閉じ込められた仲間達を、そしてこの災厄に見舞われたプレイヤー達を、元の世界に返してやらないといけないのだ。その為にも、どうしても彼等の力が必要なのである。
 
(お前達には悪いことをしたと思ってる……だが、今の儂には守りたい者達がおる。皆を無事に連れ帰るまで、こんな場所で負けてやるわけにはいかんのだ!)

 マスターは心の中で決意を固めると、力強くそう叫んだ。

「――ダークネス!!」

 その直後、マスターは闇属性の黒いオーラを帯びた拳でメルディウスを迎え撃つ。

 2人の攻撃が激しくぶつかり合う――その威力は、お互いの攻撃の衝撃で地面が陥没しひび割れるほどだ。

 その凄まじい一撃の後、互いに後ろに跳んで距離を取ると、2人は顔を睨み続けている。

「じじい。お前は俺達の前にのこのこ出てきて、何を考えてやがる!」
「……それはお前が儂に勝てたら教えてやろう!」

 マスターがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 そのマスターの挑発的な態度に、メルディウスの怒りが爆発する。

「――そうかよ……やっぱりてめぇーは手を抜いてやれるほど甘くはねぇーか!」
「何を言っておる。手を抜くとは、上の相手が下の相手に向けて使う言葉だ! お前は儂に手を抜いてるというのか?」

 マスターが不敵に笑うメルディウスの顔を不機嫌そうに睨んだ。
 彼が不機嫌になるのは最もだ。最初に『本気で来い』と言ったメルディウスが、今まで本気で戦っていると思っていたメルディウスが、まだ本気を出していないと言われれば仕方ないだろう。

 向かい合っていたメルディウスは剣を突き付けると、不敵な笑みを浮かべ。

「それはこいつが……このベルセルクがトレジャーアイテムだからだ! トレジャーアイテムにはそれぞれ固有のスキルがある!」
「ふん。儂のこのグローブも同じだぞ? それだけでは儂には――」

 自信満々に言い放つ彼に、マスターは眉間にしわを寄せて見つめている。

「――分かってねぇなー。お前も知ってんだろ? じじい。武器や防具のアイテムっていうのは使った数――熟練度によって、その能力が上昇する。つまりだ……」

 突き出していた大剣を、メルディウスが今度は天に振り上げる。

「熟練度がMAXになると、装備系のトレジャーアイテムは真の姿を見せる!!」

 その叫び声の後、剣の刀身が見る見るうちに姿を変えていく。

 天高らかに振り上げた武器は虹色に光り輝くと、剣の刃が消える代りに斧の刃の部分が更に巨大に鋭利になっていく。武器が状態変化が終わると、メルディウスの持っている武器は完全な大きな斧の形になっていた。

 刃は柄の部分を飲み込むほどの大きさで、大人一人分ほどまで肥大化していて、斧頭には大きな鬼の顔のような装飾が施されている。
 黄金に輝くその大斧はとても神々しく感じた。いや、武器と言うよりその大斧は黄金で作られた財宝の様にも見える。

 だが、黄金の見た目とは違い。その大きな刃は鋭く光りを反射させ、血を欲しているように見える――まさにベルセルク『狂戦士』という名に相応しい。
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