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激昂した刃6
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その夜。マスターは四天王の2人を部屋に呼び出し、自分の考えを告げることにした。
「どうしたんだよ。マスターこんな時間に俺達を呼び出すなんて」
メルディウスは後頭部を掻きながら、眠そうに大きなあくびをしている。
「どうしたんです? マスター」
紅蓮の大きな赤い瞳が不安そうな表情でマスターを見つめる。
マスターは2人の顔を感慨深く見つめると、徐ろに口を開いた。
「――2人は長い間。世話になったな……ありがとう」
「……えっ? マスターなにを言って……」
「なっ……なに言ってるんだ? 遂にボケたのか……?」
マスターのその言葉に、2人は彼が何を言っているのか理解するのに時間が掛かった。
初めは何かの冗談だと思っていた彼等だったが。真剣な彼の表情に、ただならぬ雰囲気を感じ取り、次第に2人の表情は青ざめていった。
「いやです……そんな事を言わないで……ください!」
紅蓮の瞳から一粒の涙が流れ落ちた。それを見たメルディウスが大きな声を上げる。
「ギルマス! 何を言ってんだよあんた! 俺達は運命共同体じゃねぇーのかよ!!」
彼が叫ぶのも無理はない。メルディウスとマスターは5人という少数ギルドの中で、マスターと最も仲が良かったのは彼だ。
動じる様子なくその場に立ち尽くしているマスターが、突然ギルド脱退を告げられ、動揺を露わにしているメルディウスの問に答える。
「お前達の思っている通りの意味だ。どうやら儂は強くなりすぎたらしい。命のやり取りのないこの世界なら、全力で戦える好敵手に出会えると――この体を支配する勝負への乾きを解消できると思っていた……だが、もはやプレイヤーの中に儂とやり合える者はもうおらん。このままだと、儂は今の現状に満足できずにお前達を危険に晒すやもしれん。痛覚のあるこのゲーム内で、これ以上。お前達に負担を強いるわけにはいかん。儂は今後、高難易度のダンジョンに一人で挑むことにする……」
「……なに。言ってんだ……?」
マスターの言っている言葉の意味が理解できないのか、メルディウスは口をあんぐりと開けたまま、目を見開き唖然としている。
「――武闘家として高みを目指すというこの考えは変えられん。儂が居るとお前達にも結果として迷惑をかける――今日をもって我がギルド『SEARCHER』は解散とする」
マスターがそう言い放つと、涙を流していた紅蓮が信じられないと言った表情でその場に崩れ落ちた。
それとほぼ同時に、メルディウスが道着の胸ぐらを掴んで、怒りを秘めた瞳で鋭く睨みを利かせ、立ち尽くしているマスターに詰め寄る。
「このやろぉー!! 百歩譲って解散するのはいいとしよう。でもな! メンバーには事前に相談なりなんなりあっても良かったんじゃねぇーのか! どうなんだよ! ギルマスさんよー!!」
「……なら聞くが。お主は、相談すれば両手を上げて賛成したと言うのか? メルディウス」
「……くっ!」
胸ぐらを掴んでいる彼の目を見て言ったマスターのその言葉に、メルディウスは歯を噛み締めながら睨み続けるしかなかった。
マスターの言葉通り。事前に相談されても、おそらくこういう結果になるのは変わらなかったと自分でも理解できていたからに他ならない。
一度口籠ったメルディウスが思い出したように再び口を開く。
「……他の2人はどうすんだよ。俺達が認めたって、あの2人が認めるわけねぇー!!」
「2人にはもう話をつけている。後はお前達だけだ……」
「……随分と念の入った事だな! 俺達の方が簡単に落ちると思って、あいつらより後回しにしたってことかよ!」
メルディウスが今にもマスターを殴りそうな勢いで睨んでいるところに、紅蓮が割って入るように口を挟んだ。
「……私は嫌です」
涙を流しながら地面に座り込んでいた紅蓮が徐ろに立ち上がると、マスターの前に来てその顔を見上げた。
マスターもそんな彼女の顔をじっと見つめている。
「私……引っ込み思案で、同級生とも趣味が合わなくて……でも、こうして皆と仲良くなれて、凄く嬉しかった……嬉しかったんです! だから、私はこの今を壊したくない!!」
涙で潤んだ瞳で必死に訴えかけた紅蓮に、マスターは優しい声で告げる。
「そうか……お前の気持ちは良く分かった。だが、腕を磨き高みを目指したいと思うのは、武を極める者の宿命なのだ――今は分からんでも、いつかお前にも分かる時がくる」
「そんなの……分かりたくないです……私はただ……ずっと、皆で一緒に居たい……このギルドを解散なんてしたくない」
ぼろぼろと止めどなく溢れる涙で声を震わせながら、なおもそう訴える紅蓮の肩に手を置くと「すまん。儂の事は忘れてくれ」と言い残し、マスターは部屋を後にした。
紅蓮はその場に座り込むと、嗚咽を堪えながら泣き続けた。
そんな彼女を見て、メルディウスは唇を噛み拳を握り締めながら小さく呟く。
「――紅蓮……くそじじいが……」
メルディウスは泣き崩れている紅蓮を慰めることもできずに、去って行くマスターの背中を見ながら憤る心を必死に抑えていた。
* * *
「どうしたんだよ。マスターこんな時間に俺達を呼び出すなんて」
メルディウスは後頭部を掻きながら、眠そうに大きなあくびをしている。
「どうしたんです? マスター」
紅蓮の大きな赤い瞳が不安そうな表情でマスターを見つめる。
マスターは2人の顔を感慨深く見つめると、徐ろに口を開いた。
「――2人は長い間。世話になったな……ありがとう」
「……えっ? マスターなにを言って……」
「なっ……なに言ってるんだ? 遂にボケたのか……?」
マスターのその言葉に、2人は彼が何を言っているのか理解するのに時間が掛かった。
初めは何かの冗談だと思っていた彼等だったが。真剣な彼の表情に、ただならぬ雰囲気を感じ取り、次第に2人の表情は青ざめていった。
「いやです……そんな事を言わないで……ください!」
紅蓮の瞳から一粒の涙が流れ落ちた。それを見たメルディウスが大きな声を上げる。
「ギルマス! 何を言ってんだよあんた! 俺達は運命共同体じゃねぇーのかよ!!」
彼が叫ぶのも無理はない。メルディウスとマスターは5人という少数ギルドの中で、マスターと最も仲が良かったのは彼だ。
動じる様子なくその場に立ち尽くしているマスターが、突然ギルド脱退を告げられ、動揺を露わにしているメルディウスの問に答える。
「お前達の思っている通りの意味だ。どうやら儂は強くなりすぎたらしい。命のやり取りのないこの世界なら、全力で戦える好敵手に出会えると――この体を支配する勝負への乾きを解消できると思っていた……だが、もはやプレイヤーの中に儂とやり合える者はもうおらん。このままだと、儂は今の現状に満足できずにお前達を危険に晒すやもしれん。痛覚のあるこのゲーム内で、これ以上。お前達に負担を強いるわけにはいかん。儂は今後、高難易度のダンジョンに一人で挑むことにする……」
「……なに。言ってんだ……?」
マスターの言っている言葉の意味が理解できないのか、メルディウスは口をあんぐりと開けたまま、目を見開き唖然としている。
「――武闘家として高みを目指すというこの考えは変えられん。儂が居るとお前達にも結果として迷惑をかける――今日をもって我がギルド『SEARCHER』は解散とする」
マスターがそう言い放つと、涙を流していた紅蓮が信じられないと言った表情でその場に崩れ落ちた。
それとほぼ同時に、メルディウスが道着の胸ぐらを掴んで、怒りを秘めた瞳で鋭く睨みを利かせ、立ち尽くしているマスターに詰め寄る。
「このやろぉー!! 百歩譲って解散するのはいいとしよう。でもな! メンバーには事前に相談なりなんなりあっても良かったんじゃねぇーのか! どうなんだよ! ギルマスさんよー!!」
「……なら聞くが。お主は、相談すれば両手を上げて賛成したと言うのか? メルディウス」
「……くっ!」
胸ぐらを掴んでいる彼の目を見て言ったマスターのその言葉に、メルディウスは歯を噛み締めながら睨み続けるしかなかった。
マスターの言葉通り。事前に相談されても、おそらくこういう結果になるのは変わらなかったと自分でも理解できていたからに他ならない。
一度口籠ったメルディウスが思い出したように再び口を開く。
「……他の2人はどうすんだよ。俺達が認めたって、あの2人が認めるわけねぇー!!」
「2人にはもう話をつけている。後はお前達だけだ……」
「……随分と念の入った事だな! 俺達の方が簡単に落ちると思って、あいつらより後回しにしたってことかよ!」
メルディウスが今にもマスターを殴りそうな勢いで睨んでいるところに、紅蓮が割って入るように口を挟んだ。
「……私は嫌です」
涙を流しながら地面に座り込んでいた紅蓮が徐ろに立ち上がると、マスターの前に来てその顔を見上げた。
マスターもそんな彼女の顔をじっと見つめている。
「私……引っ込み思案で、同級生とも趣味が合わなくて……でも、こうして皆と仲良くなれて、凄く嬉しかった……嬉しかったんです! だから、私はこの今を壊したくない!!」
涙で潤んだ瞳で必死に訴えかけた紅蓮に、マスターは優しい声で告げる。
「そうか……お前の気持ちは良く分かった。だが、腕を磨き高みを目指したいと思うのは、武を極める者の宿命なのだ――今は分からんでも、いつかお前にも分かる時がくる」
「そんなの……分かりたくないです……私はただ……ずっと、皆で一緒に居たい……このギルドを解散なんてしたくない」
ぼろぼろと止めどなく溢れる涙で声を震わせながら、なおもそう訴える紅蓮の肩に手を置くと「すまん。儂の事は忘れてくれ」と言い残し、マスターは部屋を後にした。
紅蓮はその場に座り込むと、嗚咽を堪えながら泣き続けた。
そんな彼女を見て、メルディウスは唇を噛み拳を握り締めながら小さく呟く。
「――紅蓮……くそじじいが……」
メルディウスは泣き崩れている紅蓮を慰めることもできずに、去って行くマスターの背中を見ながら憤る心を必死に抑えていた。
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