オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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ファンタジー20

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 そんなことを理解しているのか、勢いに任せて戦っているのか分からないが、カレンが手当たり次第に己の拳で粉砕していく。それを見たサラザも彼女に負けじと、バーベルを振り回しながらカレンに続いた。 

 その頃、イシェルも2人から少し離れたところで、敵を惹きつけながら戦っていた。

「咆哮を上げるキマイラとの戦闘はうちにはできひんけど……こん程度の低レベルな敵なら、うち1人でも余裕なんよ!」

 イシェルはそう叫ぶと神楽鈴を鳴らし、巻き起こした旋風で自分の周りの敵の群れを起こしたかまいたちで細切れにして一掃する。

 そんな仲間達の奮闘もあり、エミルはキマイラとの戦闘だけに集中できた。
 それでもキマイラは強く、休みなく斬り付けるエミルの攻撃は、なかなか致命的なダメージを与えることができない。

 何故なら……。

「はあああああああッ!」

 エミルは叫び声を上げながら勢い良く地面を蹴ると、臆することなく自分よりも数倍あるキマイラに飛び掛かる。
 直ぐ様。キマイラは宝石の様に青い瞳で冷静に判断すると、復活して増えた3匹の尻尾の蛇を鞭のようにしならせて迎え撃つ。

 エミルはその蛇を全て斬り落とすと、キマイラの頭を攻撃しようと再び剣を振り上げた。だが、すぐにキマイラの咆哮で起こした衝撃波で吹き飛ばされてしまう。
 どんなに接近しても、咆哮によって弾かれてしまう。これでは一向にらちがあかない。まずは、キマイラの口から放たれる衝撃波を何とかしないことには、エミルに万に一つも勝機はない。

 また、問題は衝撃波だけではない。ついさっきエミルに斬られたキマイラの尻尾も、すぐに再生して4匹に増えてしまった。 

 先程から何度エミルが飛び掛かって斬り落としても、すぐに再生されて尻尾ばかり増えてしまい。肝心のキマイラ本体には全くダメージを与えられていない。しかも、尻尾を切った所でキマイラのHPバーには変動は見られず。そのことをかんがみても、キマイラ本体を攻撃しなければダメージは通らないらしい……。

 でも弱音を吐いてはいられない。各部屋ごとに区画されたダンジョンと違って、ここではフィールドボスはどこまでも付いてこられる。

 もちろん。出現場所からある一定の距離まで引き離せれば、自動的に消滅して元の出現場所に現れる。
 まあ、敵に背を向け逃走するなんて愚策はこの状況下では使えない。もし背を向けて付いてこなければ、仲間達に襲い掛かっていく危険性すらある。

 何としてもこの場で、目の前のキマイラを撃破する以外に、エミルに手は残されていないのだ。

 更に攻撃を試みるも、再び尻尾に阻まれ衝撃波に吹き飛ばされたエミルは空中で体勢を立て直すと、地面に無事着地して直ぐ様、キマイラの方へと視線を移す。

 だが、その表情から疲労の色は隠しきれず。

「はぁ……はぁ……これじゃ、いくら飛び込んでもらちがあかないわね……」 
 
 キマイラの尻尾もすぐに再生し、5匹にまで増えてしまった。
 尻尾に揺らめく5匹の蛇を見つめ、小さく呟いたエミルは眉間にしわを寄せて目を細める。

 その時、エミルの横にデイビッドが現れた。

「――デイビッド!?」
「エミルすまない。正宗の使用者登録に手間取って遅くなった……だが、もう大丈夫だ!」

 デイビッドは刀の先をキマイラに向けると、自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。

「星ちゃんを助けるのはエミルに先を越されたが、こいつは必ず倒す! エミル、俺ができるだけ敵を惹きつける。その隙に背後から攻撃しろ!」

 だが、その作戦は再びキマイラの尻尾に阻まれ、みすみす敵の尻尾の蛇を増やすことに繋がりかねない危険なものだ。
 エミルがそのことを伝えると「分かっている」とだけ短く言葉を返し、デイビッドは険しい表情で「奥の手がある」と不敵な笑みを浮かべる。

 彼の言う奥の手とは何かは分からないが、この現状ではもうデイビッドの言った『奥の手』とやらに懸ける以外にてはなさそうだ。

 仕方なく頷いたエミルに、デイビッドも微笑み返して頷く。
 直後。雄叫びを上げたデイビッドは刀を構え直し、キマイラに睨みを利かせている。

「了解! 頼んだわデイビッド!」
「おう! 任せておけ!」

 エミルの声に応えるように叫ぶと、デイビッドの刀の刀身が突如として赤い光りを放った。

 その光りに吸い寄せられるように、サラザ達と交戦していたナイトゴブリン達が、突如光りの玉へと変わり、正宗の刀身へと吸い寄せられる様に集まってくる。それと同時に刀身は赤黒い炎を宿し、デイビッドの視界の中に。

【アマテラス発動可能】

 っと大きく表示された。

 これがデイビッドの言っていた『奥の手』だ。トレジャーアイテムの武器には、それぞれ個々にスキルが付属されているものがある。

 デイビッドはその表示を見て、それが何かも分からぬまま技名を叫ぶ。

「――これがどういうスキルかは良く分からないが、やるしかない! 焼き尽くせ! アマテラス!!」

 デイビッドが刀をキマイラに向かって振り下ろすと、その炎が地面を辿ってキマイラの元へと一直線に向かっていく。

 キマイラはそれを咆哮で吹き飛ばそうと、再びけたたましい鳴き声を上げた。

 だが炎霊刀 正宗から放たれたその赤黒い炎は勢いを衰えるどころか、咆哮の衝撃波を巻き込むようにして、更に激しく燃え上がる。それはまるで、赤黒い炎そのものが敵の攻撃を吸収しているかのように見えた――。

 キマイラは予想外のことに、AIの処理が追い付いていないのか、その場から動かない。

 次の瞬間、デイビッドが刀身から放った赤黒い炎はキマイラに容赦なく襲い掛かった。

 ――ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 炎は当たった直後に、天に届くかと思うほどの火柱を上げ、キマイラの体を包み込むと最後の咆哮を上げて、キマイラの巨体が音を立てて地面に崩れ落ちた。
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