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ファンタジー19

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 その時、サラザの声がエミルの耳に飛び込んでくる。

「エミル! ここは私達に任せて。あなたは星ちゃんの救出に専念しなさい!」
「サラザさん。何を言っているの!? いくらあなたでもこの数は……」

 そう口にしたエミルに向かってサラザが声を荒らげた。

「私を舐めるんじゃないわよ! あなたは星ちゃんを守るんじゃなかったの? あんたの覚悟は、あんな大きな猫の化け物に阻まれるようなものだったの!?」

 サラザは敵に視線を移し、バーベルを手に「ここは任せて行きなさい」と口元に優しい笑みを浮かべ、エミルに向けて力強く親指を立てた。

「サラザさんの言う通りですよ。ここは俺達に任せて行ってください! エミルさんはなんとしても星ちゃんを助けてあげてください!」
「そうよ~。きっと星ちゃんもあんたの事を待ってるわよ~。エミル」
「――カレンさん。サラザさん……」

 2人のその言葉を聞いて、エミルは瞳を潤ませている。

 イシェルはそんなエミルの肩を叩くと、耳元でそっとささやいた。

「……行ってエミル。あの子もエミルが助けてくれると信じてるはずやよ」
「ええ、分かった。イシェ、皆。ここは任せるわ!」

 エミルはイシェルにそう言い残して、持っていた剣を握りしめると、一目散にキマイラに向かっていった。 

 そんなエミルの背中を見送りながら「妬けるなぁ……」と小声で呟き、敵に神楽鈴の先を向けた。

「待ってて星ちゃん。必ず私が助けるから!」

 エミルは剣を顔の横に構えて全速力で走ると、無我夢中でキマイラに飛び掛かった。

 キマイラはそんなエミルを待ち構え、大きな瞳を彼女に向けている。 

「はああああああああッ!!」

 ――ガオオオオオオオオオオオッ!!

 エミルが飛び掛かったと同時に、キマイラも地面を蹴って飛び掛かってきた。

 自分に向かって襲い掛かってくるキマイラを見据えながらも、エミルは終始冷静だった。

(キマイラのレベルは100だけど、HPはそれほど多くはないはず。速度も私の方が圧倒的に速い!)

 エミルは状況で空中で剣を素早く逆手に持ち変えると、キマイラの角を目掛けて腕を突き出した。

 剣は角に直撃したが、エミルの剣は硬く鋭い角に容易く弾かれる。しかし、それでいいのだ――何故なら、それがエミルの本当の狙いだったのだから……。

 エミルは角に弾かれた勢いを空中で体を捻ることで吸収し、その反動を利用してキマイラの後方に移動する。その後、素早く剣を持ち直し。星を捕まえたまま、ゆらゆらと微かに揺れる尻尾の蛇目掛けて剣を振り抜いた。

「ええええええいッ!!」

 すると、その瞬間に蛇の体に切り目が入り、暴れた尻尾が地面に崩れ落ちていく。

 エミルは素早く剣を鞘に戻し、空中に投げ出された星を両手でしっかりと抱きかかえる。
 地面に着地したエミルは、自分の腕の中でぐったりとしている星に声を掛けた。

「――遅くなってごめんなさい。星ちゃん大丈夫?」
「はぁ……はぁ……はぁ……だい、じょうぶ……です」

 エミルの腕の中で荒い息を繰り返しながら、星は掻き消えそうな声で小さく呟いた。

「はぁ……はぁ……迷惑かけて……ごめんなさい……」

 それを聞いたエミルはにっこりと微笑みながら首を振ると。

「――良く頑張ったわね。後は……ゆっくり休んでなさい」
「……はい」

 星はゆっくり頷くと、すぐに気を失ってしまう。

 するとそこに、レイニールが慌てて飛んできて側にくるなり、レイニールは星の顔を覗き込んだ。

「――主!! 我輩が居なくなったから……申し訳ないのじゃ~!!」

 レイニールはそう叫んぶと、顔を涙でぐしゃぐしゃにして星の胸に顔を埋めながらわんわん泣きじゃくっている。

 エミルは星を木の陰に下ろすと、キマイラを鋭く睨んだ。

「レイニールちゃん。これを使って星ちゃんを回復して、あなたはなるべく星ちゃんの側に居てあげて……」
「……分かったのじゃ!」

 エミルは持っていたヒールストーンをレイニールに渡すと、レイニールは決意に満ちた表情で頷いてエミルの顔をじっと見つめ「武運を祈るぞ」とささやく。
 その顔を見たエミルはにっこり微笑むと、レイニールの頭を撫でて再びキマイラの元に向かっていった。
 
 近くでは倒れたナイトゴブリンの腹にバーベルを叩き込んだサラザが、辺りを見渡して言った。

「エミルにかっこつけたのはいいけど、さすがにこの数はきついわね~」

 サラザは持っていたバーベルでナイトゴブリン薙ぎ払うと、横で戦っているカレンに弱音を吐く。

 その弱音を聞き逃さなかったカレンが交戦中の敵を正拳突きで吹き飛ばし、小馬鹿にした様な笑みを浮かべて言った。

「……なら、今度は助けてくれ! っと、叫び声でも上げてみますか?」

 挑発するようなカレンの言葉を聞いて、サラザは口元に笑みを浮かべ小さな声で呟く。

「あら~。生意気な子ね……そこまで言って、もし私よりも倒した数が少なかったら、た~ぷりおしおきしてあげるわ~」
「――それは怖いので、俺の方が確実に多く仕留めますよ!」

 拳を握り締めたカレンはそう言い残して、うごめく無数の敵の中に向かって躊躇することなく突っ込んでいった。
 しかし、ナイトゴブリンは見えているもの以外は、多くが森の中の物陰に隠れており。まだどれだけの敵が残っているのか、正確な体数は確認できない。
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