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ファンタジー14

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「いえ、私が笑ったのがいけなかったんです。イシェルさん本当にごめんなさい」

 落ち込んだ様子で星は、イシェルに向かって深く頭を下げた。

 そんな星を見てイシェルが困った顔をして言った。

「……ううん、星ちゃんは悪くない。うちが悪いんよ……星ちゃん見てたら急にいじわるしたくなってな。ほんまにごめんなさい!」

 イシェルがそう言って深く頭を下げた。

 星は彼女の『いじわるしたくなった』という言葉を聞いて、ふと、夢の中の出来事を思い出す。

(そうか……やっぱりいじめられるきっかけを作ってるのは私なんだ……)

 星の頭の中でそう考えると、その表情を一気に曇らせる。

「……いえ。全て私がいけないんです。ごめんなさい!」

 その直後、涙が込み上げて来るのを感じ、慌てて走り出してしまった。

 相当ショックだったのか、星は振り返ることもなく一直線に走り去ってしまう。

「ちょっと待って星ちゃん!」

 それを慌てて止めようとしたエミルの声も走り去って行く星の耳には届かなかった。

 小さくなっていく星の背中を、エミルは寂しそうに見つめる。

「……星ちゃん」
「ごめんなエミル。うちが衝動を押さえられんかったばかりに」
「いいえ、イシェはあの子の事あまり良く知らないんですもの。仕方ないわ」

 エミルはしょげかえっているイシェルにそう言うと、少し間を空けて徐ろに口を開いた。

「――まあ、レイニールちゃんもついてることだし。きっと大丈夫よ……でも、そろそろしっかりとあの子の事を、イシェにも話しておかないといけないわね……」
「私も気になるわ~。星ちゃんの事……」

 エミルがそう呟くと、どこからか聞き慣れた声が聞こえてきた。

 すると、すぐ隣に急に屈強な男の顔が現れエミルが少し仰け反る。
 
「――サラザさん!? いつからそこにッ!?」

 横から急に顔を出してきたサラザに驚いた様子に、エミルは目を丸くしている。まあ、突然筋肉質なオカマが現れれば驚くのも無理はないだろう。

 その反応が不満だったのか、サラザは腕を組んだまま不機嫌そうに口を尖らせている。

「なによ~。人をバケモノみたいに……」
「――いや、事実バケモノだろう」

 小声で毒突くデイビッドの顔を、サラザの獣の様な瞳が鋭く睨みつける。
 自分の後ろに立っているサラザの殺気に気付いて、デイビッドは慌てて視線を逸らすというお決まりの行動を終えると、再びエミルが話し始めた。

「デイビッドとエリエは知っていると思うけど、あの子は一度私の元を去ろうとしたことがあったの。その日はちょっとした出来事があって、それも関係していたのだけど……その時に薄々気が付いていたけど……あの子は無意識のうちに、人と深く関わることを避ける傾向があるのよ」

 それを聞いたカレンは自分にも思い当たるところがあるのか、その重い口を開く。

「でも、俺には、エミルさんの元を離れようとした星ちゃんの気持ちが分かるような気がします……」

 その発言を聞いて、その場に居た全員がカレンの方に視線を向ける。

 星の考えていることが分かる気がする。突然そんなことを言われれば、誰でも気になるだろう。だが、星のことを一番特別に思っているエミルがそれは一番大きいのだろう……今までにないほどに熱い視線をカレンに向けていた。

 皆の視線を受けるカレンが、徐に口を開く。

「――エミルさんの言ったちょっとした出来事は俺には分からないけど……星ちゃんは自分が傷付くのも人が傷付くのも嫌なんだと思います。俺の親友もそうでした――自分のせいで周りに迷惑をかけることを極端に嫌い。いや、恐れてるんですよ……あの子も同じで優しい子ですからね」
「そうね……」

 カレンのその言葉を聞いてエミルはそう呟く。

 だが、それを聞いてもエミルの心の中にある不安は消えてなかった。
 自分より人を優先にする危うさを、ここに居る誰よりもエミルは良く分かっていた。

(でも、星ちゃんはいつかどこか遠くに行ってしまいそうな――そんな気がする。岬のように……)

 エミルはそう考えながら、不安げな瞳で空を見上げて、どこか遠い目をしている。
 悲しそうな彼女の様子を見ていたエリエは不安そうな表情になった。 


 その頃、走り去っていった星はというと……。

 エミル達から離れた場所に立っている巨大な木の近くに腰を下ろしてすすり泣いていた。その傍らには、それを心配そうに見つめているレイニールの姿があった。

「――主。もう皆の所に戻らないと……こんなところで敵に襲われたら、ひとたまりもないぞ?」

 そう優しい声で諭すように言ったレイニールに、膝を抱えたままうずくまって泣いていた星がゆっくりと口を開く。

「……ぐすっ……わかってる。けど……こんな顔じゃ、皆の所には戻れないよ……」

 星はそう小さく呟くと、膝を抱えながら再び泣き始める。

 そんな星を困り果てた表情で、レイニールが見つめていた。
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