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ファンタジー4
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しかし、星自身は今日の夢で確信した『自分はそれほど現実世界に帰りたいと感じていないのだ』と、友達はいない。家族も母親ただ一人。しかも、毎日会話をすることの方が少ない。
そんな皆と正反対の自分が仲間達の中で、最も歪んだ思考であることに……。
キッチンにイシェルを残し、星達は言われた通りにリビングのテーブルに座っていた。
「楽しみだなぁ~。なあ、主よ! ……主。どうかしたのか?」
「――えっ? うん……そうだね。楽しみだね!」
余程楽しみなのか自分の大きさほどの長さがあるスプーンを手に、レイニールがそう言って笑うと、上の空でいた星は慌てて返事を返した。
「なんだか今日の主はおかしいぞ? 今朝のうなされていた事と、何か関係があるのか?」
眉間にしわを寄せ、訝しげに星の顔を見上げる。
「うっ……そんな事、ないよ?」
「ふ~ん。まあ良いのじゃ」
レイニールは前を向き直して、鼻歌を口ずさむほど上機嫌だ。
(レイっていつも鈍いのに、こういう時は鋭いんだよね……)
星は動揺を隠しながら、心の中でそう呟く。
レイニールは不思議そうな顔をしながらも、持っていたスプーンでテーブルをコンコンっと叩いている。
星はそんなレイニールを見つめながら、今朝の夢のことを考えていた。
(あの時の夢は夢と思えないほど鮮明で、はっきりとしたものだった……)
星はそう思っていた。
フリーダムの中で見る夢はどこか不可解で、それはまるで、現実の出来事を予兆させるようなものばかりだからだ。
星はダンジョンの中でも変な夢を見ているし、更には今日のこれだ。そして不思議なのは、ニ回とも夢を見る時はなぜか悪夢のような夢を見るということだ――今思い返してみれば、エミルに一晩中抱きつかれていた夜も、彼女は悪夢を見ていたのかもしれない……。
だが、星にはもう一つ。ショックを受けていることがある。
それは――。
(あっちの世界が現実なのにこっちに居ると分かった時、すごく安心しちゃった……ダメだな、私……)
星は分かってしまったのだ――こっちでは友達がいるが、現実世界ではまた1人ぼっちの生活が待っているということに……。
星が自己嫌悪に陥っていると、キッチンの方からイシェルが歩いてきた。
その手にはたくさんの卵焼きが乗った皿を持っている。
さっきは鍋で何かを作っていた様だったから、待たせるのも悪いと気を利かせて作ってくれたのだろう。
「ごめんな~。まだ皆起きてこんからこれでも食べて我慢しててな~」
「おお~。見たこと無い食べ物じゃが、これは美味そうな匂いじゃ!」
レイニールは目の前に置かれた卵焼きを見て、歓喜の声を上げる。
だが、皿の上に乗った黄金に煌めく様に見えた卵焼きに、星は何か違和感を感じていた。
(……あれ? ドラゴンって確かたまごから……)
星はその卵焼きを見て、そんなことを思い出す。
「さぁ~。召し上がれ♪」
「いっただきま~す!」
イシェルは微笑みながらレイニールの前に卵焼きを置いた、レイニールはスプーンを皿の上の卵焼きに向けた。
「だめぇー!!」
星はレイニールのスプーンが卵焼きに届く前に、慌ててその卵焼きの皿を奪い取る。その直後、無常にもレイニールの突き出したスプーンの先がコツンとテーブルに当たった。
だが、急に目の前の食べ物を奪われれば、ドラゴンでも頭に来るわけで――。
「……主。いったいどういうつもりだ?」
「――えっ? あ、あのね……その……」
レイニールの怒りに満ちたその声に、星は思わず黙り込んでしまう。
小さな金色のドラゴンの全身から放つ迫力に星は一瞬物怖じしながらも、目を瞑り再び目を開くと決意に満ちた声で叫んだ。
「――たまごはダメなの! これは共食いだから!」
星の言葉を聞いて、何故かレイニールの声が更に怒りを帯びた声音に変わる。
「なるほどな……今度は我輩の星龍としての誇りまで、愚弄するつもりのようじゃな……」
レイニールはぼそっと呟くと星を睨んだ。
「星龍は我輩1体しかおらんのじゃ!」
「えっ!? そうなの!?」
星はそれを聞いて驚いたように目を丸くさせると、レイニールはスプーンを置いてパタパタと空中に浮いた。
「――なるほど……惚けたふりをして、主1人でその食べ物をいただこうという考えだな。そうはいかぬのじゃ!!」
「きゃああああああッ!!」
レイニールの鋭い視線が星の姿を捉えると、星に向かって突進してきた。
突如、向かってくるレイニールに星は悲鳴を上げると、卵焼きを持ったまま部屋中を逃げ回る。
イシェルはその様子を「あらあら、朝から元気やね~」と微笑みながら見つめている。
その時騒ぎに気が付いたエミルが部屋の中に飛び込んできた。
「星ちゃん! どうしたの!?」
その声を聞いて星を追い駆けまわしていたレイニールが、突然空中でピタッと止まってエミルに向かって敬礼する。
星は息を荒げながら、追いかけるのを止めたレイニールにほっとしたように胸を撫で下ろした。
そんな皆と正反対の自分が仲間達の中で、最も歪んだ思考であることに……。
キッチンにイシェルを残し、星達は言われた通りにリビングのテーブルに座っていた。
「楽しみだなぁ~。なあ、主よ! ……主。どうかしたのか?」
「――えっ? うん……そうだね。楽しみだね!」
余程楽しみなのか自分の大きさほどの長さがあるスプーンを手に、レイニールがそう言って笑うと、上の空でいた星は慌てて返事を返した。
「なんだか今日の主はおかしいぞ? 今朝のうなされていた事と、何か関係があるのか?」
眉間にしわを寄せ、訝しげに星の顔を見上げる。
「うっ……そんな事、ないよ?」
「ふ~ん。まあ良いのじゃ」
レイニールは前を向き直して、鼻歌を口ずさむほど上機嫌だ。
(レイっていつも鈍いのに、こういう時は鋭いんだよね……)
星は動揺を隠しながら、心の中でそう呟く。
レイニールは不思議そうな顔をしながらも、持っていたスプーンでテーブルをコンコンっと叩いている。
星はそんなレイニールを見つめながら、今朝の夢のことを考えていた。
(あの時の夢は夢と思えないほど鮮明で、はっきりとしたものだった……)
星はそう思っていた。
フリーダムの中で見る夢はどこか不可解で、それはまるで、現実の出来事を予兆させるようなものばかりだからだ。
星はダンジョンの中でも変な夢を見ているし、更には今日のこれだ。そして不思議なのは、ニ回とも夢を見る時はなぜか悪夢のような夢を見るということだ――今思い返してみれば、エミルに一晩中抱きつかれていた夜も、彼女は悪夢を見ていたのかもしれない……。
だが、星にはもう一つ。ショックを受けていることがある。
それは――。
(あっちの世界が現実なのにこっちに居ると分かった時、すごく安心しちゃった……ダメだな、私……)
星は分かってしまったのだ――こっちでは友達がいるが、現実世界ではまた1人ぼっちの生活が待っているということに……。
星が自己嫌悪に陥っていると、キッチンの方からイシェルが歩いてきた。
その手にはたくさんの卵焼きが乗った皿を持っている。
さっきは鍋で何かを作っていた様だったから、待たせるのも悪いと気を利かせて作ってくれたのだろう。
「ごめんな~。まだ皆起きてこんからこれでも食べて我慢しててな~」
「おお~。見たこと無い食べ物じゃが、これは美味そうな匂いじゃ!」
レイニールは目の前に置かれた卵焼きを見て、歓喜の声を上げる。
だが、皿の上に乗った黄金に煌めく様に見えた卵焼きに、星は何か違和感を感じていた。
(……あれ? ドラゴンって確かたまごから……)
星はその卵焼きを見て、そんなことを思い出す。
「さぁ~。召し上がれ♪」
「いっただきま~す!」
イシェルは微笑みながらレイニールの前に卵焼きを置いた、レイニールはスプーンを皿の上の卵焼きに向けた。
「だめぇー!!」
星はレイニールのスプーンが卵焼きに届く前に、慌ててその卵焼きの皿を奪い取る。その直後、無常にもレイニールの突き出したスプーンの先がコツンとテーブルに当たった。
だが、急に目の前の食べ物を奪われれば、ドラゴンでも頭に来るわけで――。
「……主。いったいどういうつもりだ?」
「――えっ? あ、あのね……その……」
レイニールの怒りに満ちたその声に、星は思わず黙り込んでしまう。
小さな金色のドラゴンの全身から放つ迫力に星は一瞬物怖じしながらも、目を瞑り再び目を開くと決意に満ちた声で叫んだ。
「――たまごはダメなの! これは共食いだから!」
星の言葉を聞いて、何故かレイニールの声が更に怒りを帯びた声音に変わる。
「なるほどな……今度は我輩の星龍としての誇りまで、愚弄するつもりのようじゃな……」
レイニールはぼそっと呟くと星を睨んだ。
「星龍は我輩1体しかおらんのじゃ!」
「えっ!? そうなの!?」
星はそれを聞いて驚いたように目を丸くさせると、レイニールはスプーンを置いてパタパタと空中に浮いた。
「――なるほど……惚けたふりをして、主1人でその食べ物をいただこうという考えだな。そうはいかぬのじゃ!!」
「きゃああああああッ!!」
レイニールの鋭い視線が星の姿を捉えると、星に向かって突進してきた。
突如、向かってくるレイニールに星は悲鳴を上げると、卵焼きを持ったまま部屋中を逃げ回る。
イシェルはその様子を「あらあら、朝から元気やね~」と微笑みながら見つめている。
その時騒ぎに気が付いたエミルが部屋の中に飛び込んできた。
「星ちゃん! どうしたの!?」
その声を聞いて星を追い駆けまわしていたレイニールが、突然空中でピタッと止まってエミルに向かって敬礼する。
星は息を荒げながら、追いかけるのを止めたレイニールにほっとしたように胸を撫で下ろした。
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