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ファンタジー3
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家に着くと首から下げた鍵を取り出し、扉の鍵を開けると扉に手を掛けた。
「入ったらまず。お掃除して、お洗濯して終わったら……またゲームしちゃおうかな……」
星はそう呟きドアを開けてゆっくりと家の中へ入ろうとした直後、視界が眩い光に包まれた。
星が次に瞳を開こうとしたのだが、不思議と瞼が重くて開くことができなかった。
だが、耳には確実にレイニールが自分を呼んで叫ぶ声が聞こえる。
「あ……ある……あるじ!」
しかもよくよく感じてみると、なにやら顔の上に何か生温かい物が乗っている感覚があった。
「これって……」
星は半信半疑のまま顔の上の物を掴みそのまま持ち上げると、重かった瞼が軽くなりゆっくりと瞼を開いて、さっきまで顔の上に乗っていた物を確認する。
星の手に掴まれていたもの……それは紛れもなくレイニールだった。
さっき瞼を開けなかったのは、レイニールが顔の上に乗っていたからだったのだ。
手に持たれたレイニールは、なんだか心配そうに星の顔を見つめていた。
「――大丈夫か? 主。だいぶうなされていたようじゃが……」
「……えっ?」
レイニールにそう言われ、ベッドから体を起こすと星はやっと自分がびっしょりと汗を掻いていることに気が付く。
なおも心配そうな表情で星の言葉を待っているレイニールに「うん。大丈夫だよ」と優しく微笑み返す、レイニールはほっとした様子で「そうか。なら良いのじゃ」と呟いた。
星は表情を曇らせながら、ある質問をぶつけてみる。
「……レイ。もし、私が現実世界で弱い人間だとしたら……レイは私のことを嫌いになる?」
突然星の口から飛び出したその言葉に、レイニールには不思議な顔で小首を傾げる。
急に重苦しくなった空気の中。固唾を呑んでさっきの質問の返答を待つ星に、レイニールは少し間を空けて口を開いた。
「――はっはっはっ! 何を今更当たり前の事を言っておる。主が弱いから我輩がおるのではないか!」
「そう……だよね……」
呟くようにそう言うと、期待していた返答じゃないことに、星はしょんぼりとする。そんな星の姿に、レイニールは不思議そうに首を傾げた。
それに気付いた星はそんなレイニールにぎこちなく微笑む。
「お腹空いたね。何か作りにキッチンに行こうか」
「やった~! 我輩もそれがいいと思うのじゃ主よ!」
レイニールは星のその言葉を聞いて元気に羽をはためかせると、嬉しそうに星の頭の上に乗ってきた。
星はレイニールに微笑み掛けると。
「うん。なら行こうか」
「うむ!」
だが、ご機嫌なレイニールとは対照的で、星の心の中では今日見た夢のことが頭の片隅にずっと引っかかってもやもやしていた。
星はレイニールを乗せたままキッチンへ向かって歩き出す。
キッチンに着くと、そこにはまだ朝早いというのにエプロン姿のイシェルが立っていた。だが、なにやら大きな鍋を覗きながらにやにやしている。
星はそれを見てその場を立ち去ろうとすると、頭の上のレイニールがイシェルに向かって。
「おう。まだ早いというのに、何をやっておるのだ?」
何の考えもなしに話し掛けるレイニール。
(あ! レイのばか、そういうのは聞いちゃだめなのに!)
星がレイニールの突然の行動に驚いていると、イシェルは呆気なくその質問に答えた。
「ああ、おはようさん。これは今日の朝食なんよ」
「おお! なるほどな~。通りで美味しそうな匂いがするわけじゃ!」
「あの……イシェルさん。ひとついいですか?」
「んっ? どうしたん?」
イシェルは返事をすると、星の方を向いて微笑んだ。
その優しそうな声に、星は少し話しやすくなった気がした。
「その……どうして料理する時に普通にしてるんですか?」
それを聞いたイシェルは驚いたように目を丸くしている。
だが、星の質問も最もだ。なぜならここは現実世界ではない。
星も以前料理スキルを使用してチーズトーストを作ったが、この世界では驚くほど料理も簡略化されているはずなのに、それをわざわざ数時間も早く前に起きて作る必要性はないはずだ。
わざわざ手のかかる方法を選択する理由は、単に味だけを気にしているわけではない気がしていた。すると、イシェルは目を閉じてゆっくりと話し始めた。
「そうやね。普通なら数分で終わる事を、一時間近く掛けてやるんは理解できひんかもしれん。でもな……こうでもしとらんと、いつもの自分を保っていられんのよ……」
「……イシェルさん」
イシェルは寂しそうな吐息を漏らし、鍋の方に視線を戻した。
星はその瞳にきらりと光る何かを見た気がした。
「ごめんな~。もう少しで一段落つくから待っとってな~」
「……はい」
イシェルは振り返らずにそう言ったが、星にはその声からはどこか明るく振る舞おうと、無理をしているように思えて仕方がなかった。
星はそんな彼女の反応を見て理解した。自分だけではなく、皆現実世界での生活がある。こんな状況下だが、現実世界には家族も友達もいる。寂しくないわけがないのだ――。
「入ったらまず。お掃除して、お洗濯して終わったら……またゲームしちゃおうかな……」
星はそう呟きドアを開けてゆっくりと家の中へ入ろうとした直後、視界が眩い光に包まれた。
星が次に瞳を開こうとしたのだが、不思議と瞼が重くて開くことができなかった。
だが、耳には確実にレイニールが自分を呼んで叫ぶ声が聞こえる。
「あ……ある……あるじ!」
しかもよくよく感じてみると、なにやら顔の上に何か生温かい物が乗っている感覚があった。
「これって……」
星は半信半疑のまま顔の上の物を掴みそのまま持ち上げると、重かった瞼が軽くなりゆっくりと瞼を開いて、さっきまで顔の上に乗っていた物を確認する。
星の手に掴まれていたもの……それは紛れもなくレイニールだった。
さっき瞼を開けなかったのは、レイニールが顔の上に乗っていたからだったのだ。
手に持たれたレイニールは、なんだか心配そうに星の顔を見つめていた。
「――大丈夫か? 主。だいぶうなされていたようじゃが……」
「……えっ?」
レイニールにそう言われ、ベッドから体を起こすと星はやっと自分がびっしょりと汗を掻いていることに気が付く。
なおも心配そうな表情で星の言葉を待っているレイニールに「うん。大丈夫だよ」と優しく微笑み返す、レイニールはほっとした様子で「そうか。なら良いのじゃ」と呟いた。
星は表情を曇らせながら、ある質問をぶつけてみる。
「……レイ。もし、私が現実世界で弱い人間だとしたら……レイは私のことを嫌いになる?」
突然星の口から飛び出したその言葉に、レイニールには不思議な顔で小首を傾げる。
急に重苦しくなった空気の中。固唾を呑んでさっきの質問の返答を待つ星に、レイニールは少し間を空けて口を開いた。
「――はっはっはっ! 何を今更当たり前の事を言っておる。主が弱いから我輩がおるのではないか!」
「そう……だよね……」
呟くようにそう言うと、期待していた返答じゃないことに、星はしょんぼりとする。そんな星の姿に、レイニールは不思議そうに首を傾げた。
それに気付いた星はそんなレイニールにぎこちなく微笑む。
「お腹空いたね。何か作りにキッチンに行こうか」
「やった~! 我輩もそれがいいと思うのじゃ主よ!」
レイニールは星のその言葉を聞いて元気に羽をはためかせると、嬉しそうに星の頭の上に乗ってきた。
星はレイニールに微笑み掛けると。
「うん。なら行こうか」
「うむ!」
だが、ご機嫌なレイニールとは対照的で、星の心の中では今日見た夢のことが頭の片隅にずっと引っかかってもやもやしていた。
星はレイニールを乗せたままキッチンへ向かって歩き出す。
キッチンに着くと、そこにはまだ朝早いというのにエプロン姿のイシェルが立っていた。だが、なにやら大きな鍋を覗きながらにやにやしている。
星はそれを見てその場を立ち去ろうとすると、頭の上のレイニールがイシェルに向かって。
「おう。まだ早いというのに、何をやっておるのだ?」
何の考えもなしに話し掛けるレイニール。
(あ! レイのばか、そういうのは聞いちゃだめなのに!)
星がレイニールの突然の行動に驚いていると、イシェルは呆気なくその質問に答えた。
「ああ、おはようさん。これは今日の朝食なんよ」
「おお! なるほどな~。通りで美味しそうな匂いがするわけじゃ!」
「あの……イシェルさん。ひとついいですか?」
「んっ? どうしたん?」
イシェルは返事をすると、星の方を向いて微笑んだ。
その優しそうな声に、星は少し話しやすくなった気がした。
「その……どうして料理する時に普通にしてるんですか?」
それを聞いたイシェルは驚いたように目を丸くしている。
だが、星の質問も最もだ。なぜならここは現実世界ではない。
星も以前料理スキルを使用してチーズトーストを作ったが、この世界では驚くほど料理も簡略化されているはずなのに、それをわざわざ数時間も早く前に起きて作る必要性はないはずだ。
わざわざ手のかかる方法を選択する理由は、単に味だけを気にしているわけではない気がしていた。すると、イシェルは目を閉じてゆっくりと話し始めた。
「そうやね。普通なら数分で終わる事を、一時間近く掛けてやるんは理解できひんかもしれん。でもな……こうでもしとらんと、いつもの自分を保っていられんのよ……」
「……イシェルさん」
イシェルは寂しそうな吐息を漏らし、鍋の方に視線を戻した。
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「ごめんな~。もう少しで一段落つくから待っとってな~」
「……はい」
イシェルは振り返らずにそう言ったが、星にはその声からはどこか明るく振る舞おうと、無理をしているように思えて仕方がなかった。
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