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ファンタジー2

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 その紙を広げるとそこには『俺の死界に入るな!』と、ご丁寧にびっくりマーク付きで書いてあった。だが、その紙に書かれた文字は、明らかに不可解な文章になっている。

(死角って言いたかったのかな? 視界って言いたかったのかな? どっちなんだろう……)

 星はその言葉の意味を考え首を傾げながらも、それを持ってゴミ箱に捨てると、再び席に戻り体を小さく丸める。

 給食の後の授業の時は、いつでも決まってランドセルの中に何か入っていた。
 まあ、いつも無理に漢字を使って誤字がある為、特定の人物なのだろうが。それを気にするのも疲れるし、なにか危害を加えてくるわけでもないので放置していた。

 掃除の時間はクラスメイトはいるものの。同じ班の生徒はただ話してるだけで、いつも星1人で一生懸命に掃除をしていた。
 普通なら先生が来て怒るのだが、それ対策なのか掃除用具はいつでもしっかりと手に持っていて、先生が来た時だけ掃除をしているフリをして居なくなるとすぐにまたサボりだすという巧妙な手口を使う為バレないのだ――。

「おいっ!! 夜根暗!!」

 その中の体格の良い男子が突然叫ぶと、持っていた箒の先で地面を叩いた。

 星は怯えたようにびくっと体を震わせると、恐る恐る目を向ける。

「……な、なに?」 
「なにじゃねぇよ。お前が掃除遅いから先生来ちまっただろ! さっさと終わらせろよ。グズ!」
「あ……はい。ごめんなさい……」

 謝ると俯き加減にせっせと箒を持っている手を動かす。

 男子生徒の言う『夜根暗』という呼び方は、苗字の夜空と根暗をかけた呼び方で、いつの間にか一部の男子の中で広がったものらしい。
 
 星は急いで箒を動かし、教室を掃いている星の耳にはくすくすと笑う女子に他の男子は……。

「あいつ、勉強できるくせに効率悪いよな」「頭のどこかおかしいんじゃねえの?」「いや、勉強しかできないんだろバカ過ぎて」

 など、男子達の悪口が聞こえてきた。

 星はそれを聞き流す為に、一心不乱に箒を動かして掃除に打ち込む。

 机を並べ終え、最後のゴミをちり取りで掬い上げると、それをゴミ箱に入れる。
 いっぱいになったゴミ箱を持ち上げ、1階のゴミ捨て場に向かう為、教室を出ようとしたその時。星の足に何かが引っかかりバランスを崩した。

 星の体は前屈みになり。

「――わっ! きゃっ!!」

 星は小さな悲鳴を上げてその場に倒れ込む。はっとして辺りを見渡すと、思った通り目の前にはゴミ箱の中身が散乱していた。

「……あっ」

 その光景に言葉を失いながら振り返ると、そこには箒が転がっている。

 すぐ近くには、さっきの体格のいい男子が立っていて星のことを見下ろしていた。

「あーあ、夜空どうすんだよ。せっかく掃除したのに、廊下にまでゴミぶちまけちまってよー!」

 わざとらしく大きな声で騒ぐ彼に、さすがに我慢の限界だった星はその場で俯き加減に小さく反論した。

「でも……これは武くんが箒で私の足を……引っ掛けたからで……きゃっ!」

 話をしている途中で倒れていた星の背中にちり取りが当たって星が小さく悲鳴を上げると、そこには箒を手に星を鋭く睨みつけている彼の姿があった。

「……ほら、責任持って片付けろよ!」
「……う、うん。ごめんなさい」
 
 その冷たい声に星は危機感を感じ、徐ろに立ち上がると近くの箒を手に取って、無言のまま散らばったゴミをゴミ箱へと戻し、何事もなかったかのようにゴミ捨て場へと向かって歩き出した。

 そして放課後になり、星は図書室で本を読みながら下校のチャイムが鳴るのを待っていた。
 本を読んでいた星は急に表情を曇らせると、読んでいた本を机に置いてぼそっと呟いた。

「――武くん。昔はもっと優しくしてくれたのに……なにか悪い事したかな、私……」

 さっきの体格のいい男子は星とは1、2年生の時に同じクラスで、昔はノートを運ぶのを手伝ってくれたり、運動が苦手な星に体育の時に色々教えてくれたりしたのだが、4年生で再び同じクラスになってから態度が急変し。あからさまに嫌がらせをしてくるようになった。

 しかし、星にはどうしてこんなに嫌われたのか思い当たる節がない。
 他にも廊下の雑巾がけをしている時に突然蹴飛ばされたり、ノートを運んでいる最中に後ろから背中を押されたりしたこともある。

 とにかく彼は、学校での星の天敵と言ったところだろか……。

 星は考えを振り払うように首を左右に振ると、別の本を取りに席を立った。

 っとは言ってももう3年近く、事ある毎に図書室に篭っている星にとって、図書室で自分の興味のある本は殆ど読んでしまっていて、今はその中でも内容の良かった本を読み返しているだけなのだ。

 それからしばらく集中して本を読んでいると、肩をトントンっと叩かれた星は慌てて振り向く。

 そこには図書室の女の先生が星の顔を見て微笑んでいる。

「……な、なんでしょうか?」
「夜空さん? もう下校時刻をとっくに過ぎてるけど、後は帰って読んだらどう? 先生が貸出帳には書いておいてあげるから」
「えっ? いえ、もう一度読んだ本なので……」

 そう言った星は手に持っていた本をパタンと閉じると、元あった場所に本を戻した。

「一度読んでるのにそんなに集中して読めるなんて凄いわねー。他の子も夜空さんを見習って欲しいものね」
「いえ、そんな。見習うなんて、そんな……」

 星はそう言われ頬を赤らめると、慌てて横に置いていたランドセルを背負う。

 照れ隠しなのか、星は早歩きで扉の前までいくと。

「そ、それじゃー。先生、さようならー」
「はい、さようなら。気を付けて帰るのよー?」

 星は返事をするようにペコリと頭を下げると、そのまま走って家まで急いで帰った。
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