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マスターの真意8

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 その場に居た全員がそんな星を見送ると、カレンがぼそっと呟いた。

「――母親って、そんなに怖いものか?」

 そのカレンの言葉を聞いて、イシェル以外の全員が無言のまま顔を伏せる。

 その反応はダンジョンにいた時に、マスターから彼女の生い立ちを聞かされていたからに他ならなかった。

 幼少期に孤児院で生活していたカレンにとって、母親というものは想像の中の人で、現実では最も縁遠い存在なのだろう。

 急に静まり返った室内の雰囲気を察したカレンが、不安そうな表情を見せた。
 それもそうだろう。あからさまにそんな反応をされれば、どんなに鈍感な人間でも不審に思うに決まっている。

(まずいわ……カレンさんも何か感づいている。ここは話題を変えて……)

 エミルはそう考えパンッと手を合わせると、唐突にカレンに質問する。

「そうだわ、カレンさん! 帰ったら何かやりたい事はないの!?」
「えっ? やりたい事ですか……?」
「そう! ほら、皆もなにかない? やりたい事!」

 エミルは咄嗟に話題を切り替えるようにと、その場にいた全員に目で合図を送る。それを感じ取ったのか、その場にいた全員が慌てて考える素振りをした。

 その様子を見て、カレンはそれに合わせるように顎の下に手を置いて考え込んだ。

 数分間の沈黙の後、デイビッドが一番に口を開いた。

「俺は牛立で肉が食いたいかな。あそこの600g極上サーロインステーキが最高なんだ!」

 涎を垂らしているデイビッドをエリエが目を細め、呆れたように大きなため息をつく。

「はぁ~。600gの肉ってどんくらいよ……そんなに一気に食べたらお腹破裂するでしょ? 嘘つくなら時と場所を考えなさいよね!」

 透かさず噛み付いてきたエリエに、デイビッドが反論する。

「う、嘘じゃないぞ! ほんとにそういうメニューがあってだな。それがでかいんだが、脂が乗っててめっちゃくちゃうまいんだ!」
「そんなメニューあるわけないじゃない! だいたい600gっていったい何人分の量よ!」

 エリエが声を荒らげると、デイビッドは人差し指を立てて「もちろん。1人分だ!」と堂々と答えた。

 清々しいほどに言い切ったデイビッドに、エリエの怒りが爆発する。

「あんたバカでしょ! そんな店。すぐに潰れるに決まってるでしょ! もう戻ったらなくなってるわよそんな店! てか、力士が集う場所の間違いでしょ! そうじゃなかったら肉の加工場よ! バカ言うのもいい加減にしないと、バカがバカ言ってるのをバカが本気にするでしょこのバカ!!」

 まるでマシンガンの様な物凄い早口で、デイビッドが口を挟む余地のないほどの速度で言い放ったエリエ。

 だが、それを聞いたデイビッドも全く物怖じしない。

「――なっ! 無駄に6回もバカって言ったな! バカって言う奴がバカなんだぞこのバーカ!」
「なによ。このバカー! あんたなんて肉食いすぎて爆発すればいいのよ! バカ!!」

 エリエとデイビッドはいがみ合うと、バカを連発し合い。いつもの様に終わらない口喧嘩を始めた。

 どうしてもこの2人は喧嘩をしないと、収まらないらしい。見兼ねたエミルが呆れたようなため息を漏らすと、2人の会話に割って入る。

「まあまあ、2人とも落ち着いて……」
「エミル姉は黙ってて! 今日という今日は、このバカにしっかりバカを治すように言わないといけないの!」
「そうだ。エミルは黙っててくれ! これは牛立の人達に代わりしっかりと話を付けないといけないんだ!」

 同時に仲裁に入ろうとしたエミルの方を向いて叫ぶ。

 2人はエミルを避けるように横に移動すると、再び互いの顔を睨みながらいがみ合いを再開する。

「……あっ、そう」
(はぁ~。仲良くなったかと思ったらこの2人は……もういいわ。放っておきましょう)

 エミルはそう思いながら、大声で言い合っている2人に諦めたように大きなため息をつく。
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