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お風呂5
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そんな2人の様子を見たエミルは「良かった。仲直り出来たみたいね」と安堵の声を上げる。
エリエは部屋に入ってくるなり、鼻をひくひくさせてキッチンに向かって歩いてきた。
「いい匂い……この匂いはハヤシライス?」
「ふふっ。残念、ちょいちゃうよ。これはビーフストロガノフって料理なんやよ?」
「へぇ~。イシェルさんさっすが~。早く食べたいなぁ~」
エリエは鍋の中でぐつぐつと煮えたぎっている具材に熱い視線を送っている。
すると、イシェルは火を止めそれに蓋をすると、手を合わせてにっこりと微笑んだ。
ゲーム内での料理の方法は2種類ある。その一つがゲーム内にある料理スキルを利用して作る方法。
これはレベル制ではない生活スキルである料理スキルを使用している為、誰でも指定した分量の食材と調味料を使って同じ味が作り出せる。
だが、これはVRゲーム。実際にゲーム内でアバターを思い通りに動かせる以上、料理が得意な人間にとっては少し物足りなく感じてしまうのも仕方がないことだろう。その為、実際に料理を作れば個人個人で味に違いが出るような工夫もなされていた。
しかし、このやり方だとレシピを作成しなければ二度と同じ味を作り出すことができない。
それに所詮はゲームの中での食事に、それほど思い入れを込めている者も多くはなかったが、このように寝起きを行うような状況になれば違う。
今イシェルがやっている料理方法は、まさに後者だった。
「ほな。皆揃った事やし、お風呂に行こうか! ちょい冷ました方が具に味が染みて美味しくなるんよ~」
「えぇ~。私お腹空いたよ。すぐに食べたい~!」
「あかんよ。それに空腹は最大の調味料って昔から言うし、楽しみは後にとっとかな」
仕込みを終えたイシェルはエプロンを外し、エリエの手を引いてキッチンからリビングへと出てきた。
「ほな、エミル。横の部屋で寝とる子も起こしてきてもらえる?」
「――寝室で? でも寝室に誰が……って! そういえば、マスターとカレンさんがいないじゃない!!」
エミルは先に戻っていたはずの2人が居ないことにやっと気が付き、驚きの声を上げた。
そんな中、イシェルはエミルに微笑み返すと「そん話はまた後でな~」と言ってエリエの手を強引に引いて歩き出そうとした時、エミルがそれを呼び止めた。
「イシェ。お風呂に入るなら、皆で入れるように大浴場に行きましょう」
「おぉ~。そらええ考えやね~。ほな、皆で大浴場に行こか~」
「えぇ!? もしかしてイシェルさん。私と2人で入るつもりだったの!?」
驚いたようにエリエがそう尋ねると、イシェルは「あははは」と笑って誤魔化しているが、エリエは怯えた様子でその場に立ちすくんでいる。
彼女のその様子から、どうやらエリエはイシェルのことが苦手らしいということは察することができる。
イシェルは元々エミルやデイビッド、エリエ達とギルドを組んでいた。この事件が起こる前に解散したエミル達のギルドだが、それ以前に何かイシェルとエリエの間にトラウマになるような出来事があったのだろう。
「それじゃ、星ちゃん。先にイシェ達と行っててもらえる? 私はカレンさんを起こしてから行くから」
「……えっ? いえ、私は後で一緒に――」
普段ならその言葉に従うであろう星が、珍しくエミルの提案を拒んだ。
正直。星はどうもイシェルのことが、嫌いとまでは言わないまでも苦手な部類であると判断していた。
だが、星がそう言い終わるよりも早くイシェルが星の手を掴む。
「――えっ!? あ、あの……イシェルさん」
「心配しなくてもええよ~。大浴場の場所は、うちが知っとるからな~」
そう言っておどおどしている星とエリエの手を引いたイシェルは、そのまま2人の手を強引に引いて大浴場に向かって歩き出す。
イシェルにがっしりと掴まれた手を引かれ、星とエリエは部屋を後にする。
階段を降り、廊下を歩いていた3人は、城の1階にある大浴場の入口の目の前まで来た。入口には青と赤ののれんに、大きな『ゆ』の一字が掲げられている。
温泉街の旅館のような建物ならまだしも、西洋のお城の中には似つかわしくないと星は感じた。
中はさらに旅館の脱衣室といった感じの造りになっていて、木目がいい味を出している大きな脱衣室の壁に備え付けられた鏡の前にはカウンターテーブルと木製の椅子があり。部屋の中央には木製の棚に竹で編まれたカゴが数多く並んでいて、部屋の隅には扇風機と体重計が置かれている。
今まで旅館に来たことのない星のテンションは一気にMAXまで上がり、イシェルの手を放すと物珍しい脱衣室の中を見て回る。
「凄い凄い! これがお風呂なんですよね? 私こういう場所に来るの初めてです!」
瞳をキラキラと輝かせながら、部屋を一通り見て回ってきた星が興奮気味に言った。
エリエとイシェルはそんな星を優しい眼差しで見つめている。
そうこうしていると、少し遅れてエミルとカレンが脱衣室に入ってきた。
「あれ? デイビッドは?」
エリエがそう言って首を傾げると、エミルがため息をつきながら少し呆れた表情で聞き返した。
「はぁ~。エリー。ここはどこかしら? ……デイビッドなら、隣の男湯の方に行ったわよ」
「あっ。そっか……そういえばここは女湯だったね」
エリエはそう呟くと、頭を掻いて苦笑いしている。
その時、カレンがイシェルに声を掛けた。
「イシェルさん。あの、師匠はいったいどこへ……?」
「まあ、お風呂に入ってからにしよか~」
「……分かりました」
イシェルにそう言いながら服を脱ぎ始めると、カレンも強く言うとができずに仕方なく頷いた。
エリエは部屋に入ってくるなり、鼻をひくひくさせてキッチンに向かって歩いてきた。
「いい匂い……この匂いはハヤシライス?」
「ふふっ。残念、ちょいちゃうよ。これはビーフストロガノフって料理なんやよ?」
「へぇ~。イシェルさんさっすが~。早く食べたいなぁ~」
エリエは鍋の中でぐつぐつと煮えたぎっている具材に熱い視線を送っている。
すると、イシェルは火を止めそれに蓋をすると、手を合わせてにっこりと微笑んだ。
ゲーム内での料理の方法は2種類ある。その一つがゲーム内にある料理スキルを利用して作る方法。
これはレベル制ではない生活スキルである料理スキルを使用している為、誰でも指定した分量の食材と調味料を使って同じ味が作り出せる。
だが、これはVRゲーム。実際にゲーム内でアバターを思い通りに動かせる以上、料理が得意な人間にとっては少し物足りなく感じてしまうのも仕方がないことだろう。その為、実際に料理を作れば個人個人で味に違いが出るような工夫もなされていた。
しかし、このやり方だとレシピを作成しなければ二度と同じ味を作り出すことができない。
それに所詮はゲームの中での食事に、それほど思い入れを込めている者も多くはなかったが、このように寝起きを行うような状況になれば違う。
今イシェルがやっている料理方法は、まさに後者だった。
「ほな。皆揃った事やし、お風呂に行こうか! ちょい冷ました方が具に味が染みて美味しくなるんよ~」
「えぇ~。私お腹空いたよ。すぐに食べたい~!」
「あかんよ。それに空腹は最大の調味料って昔から言うし、楽しみは後にとっとかな」
仕込みを終えたイシェルはエプロンを外し、エリエの手を引いてキッチンからリビングへと出てきた。
「ほな、エミル。横の部屋で寝とる子も起こしてきてもらえる?」
「――寝室で? でも寝室に誰が……って! そういえば、マスターとカレンさんがいないじゃない!!」
エミルは先に戻っていたはずの2人が居ないことにやっと気が付き、驚きの声を上げた。
そんな中、イシェルはエミルに微笑み返すと「そん話はまた後でな~」と言ってエリエの手を強引に引いて歩き出そうとした時、エミルがそれを呼び止めた。
「イシェ。お風呂に入るなら、皆で入れるように大浴場に行きましょう」
「おぉ~。そらええ考えやね~。ほな、皆で大浴場に行こか~」
「えぇ!? もしかしてイシェルさん。私と2人で入るつもりだったの!?」
驚いたようにエリエがそう尋ねると、イシェルは「あははは」と笑って誤魔化しているが、エリエは怯えた様子でその場に立ちすくんでいる。
彼女のその様子から、どうやらエリエはイシェルのことが苦手らしいということは察することができる。
イシェルは元々エミルやデイビッド、エリエ達とギルドを組んでいた。この事件が起こる前に解散したエミル達のギルドだが、それ以前に何かイシェルとエリエの間にトラウマになるような出来事があったのだろう。
「それじゃ、星ちゃん。先にイシェ達と行っててもらえる? 私はカレンさんを起こしてから行くから」
「……えっ? いえ、私は後で一緒に――」
普段ならその言葉に従うであろう星が、珍しくエミルの提案を拒んだ。
正直。星はどうもイシェルのことが、嫌いとまでは言わないまでも苦手な部類であると判断していた。
だが、星がそう言い終わるよりも早くイシェルが星の手を掴む。
「――えっ!? あ、あの……イシェルさん」
「心配しなくてもええよ~。大浴場の場所は、うちが知っとるからな~」
そう言っておどおどしている星とエリエの手を引いたイシェルは、そのまま2人の手を強引に引いて大浴場に向かって歩き出す。
イシェルにがっしりと掴まれた手を引かれ、星とエリエは部屋を後にする。
階段を降り、廊下を歩いていた3人は、城の1階にある大浴場の入口の目の前まで来た。入口には青と赤ののれんに、大きな『ゆ』の一字が掲げられている。
温泉街の旅館のような建物ならまだしも、西洋のお城の中には似つかわしくないと星は感じた。
中はさらに旅館の脱衣室といった感じの造りになっていて、木目がいい味を出している大きな脱衣室の壁に備え付けられた鏡の前にはカウンターテーブルと木製の椅子があり。部屋の中央には木製の棚に竹で編まれたカゴが数多く並んでいて、部屋の隅には扇風機と体重計が置かれている。
今まで旅館に来たことのない星のテンションは一気にMAXまで上がり、イシェルの手を放すと物珍しい脱衣室の中を見て回る。
「凄い凄い! これがお風呂なんですよね? 私こういう場所に来るの初めてです!」
瞳をキラキラと輝かせながら、部屋を一通り見て回ってきた星が興奮気味に言った。
エリエとイシェルはそんな星を優しい眼差しで見つめている。
そうこうしていると、少し遅れてエミルとカレンが脱衣室に入ってきた。
「あれ? デイビッドは?」
エリエがそう言って首を傾げると、エミルがため息をつきながら少し呆れた表情で聞き返した。
「はぁ~。エリー。ここはどこかしら? ……デイビッドなら、隣の男湯の方に行ったわよ」
「あっ。そっか……そういえばここは女湯だったね」
エリエはそう呟くと、頭を掻いて苦笑いしている。
その時、カレンがイシェルに声を掛けた。
「イシェルさん。あの、師匠はいったいどこへ……?」
「まあ、お風呂に入ってからにしよか~」
「……分かりました」
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