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お風呂3

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 星はワイシャツの下に何も身に着けていないという恥ずかしさから、頬を真っ赤に染めながら、星に背中を向けてキッチンに立っている少女に向かって声にならない声を上げた。

「あ……あの……」

 少女はそれに気が付き振り返ると、彼女はにっこりと微笑み両手を前で合わせると歓喜の声を上げる。

「まぁ、まぁ、まぁ。すっごく似合ってるよ! もう想像以上やね!」
「……うぅ。ありがとうございます」

 咄嗟に返事をしてしまったが、もちろん抗議をしようとして口を開いたんだが、彼女のペースに完全に乗せられてしまったようで……。

 星は褒められたことでさらに顔を赤く染める。

 だが、すぐに首を横に振ると決心したように口を開いた。

「あの! ど、どうして……その……ワイシャツだけなのでしょうか……し、下着とかは……その……」

 星は更に顔を赤く染めながらそう尋ねて口をつぐむと、少女は満面の笑みで答える。

「――ええ? 女の子は男性もののワイシャツを着る時は、下着を着けないっていうんが法律で決まっとるんよ? 知らんの?」

 っと人差し指を立て言い放つ少女に、星は苦笑で返す。だが、そんなことを今まで一度も聞いたことがない。

 しかし、そこで星は思った『男性ものの』というその言葉が、おそらくキーポイントになっているに違いない……普段から女性が男性の服を着ることはないだろう。

 っと言うことは、星が知らないだけでそう法律で決まっているのかもしれない。目の前の少女はどう見ても星よりも年上で、普段着としての着物を着るくらい清楚な女性だ。一般常識も星とは比べ物にならないほど熟知しているのは年齢だけ見ても間違いはない。そして何より、星は『男性もの』という言葉が引っ掛かって強く否定できなかった。

 リアルでの星は母子家庭で、父親や男の兄弟も居ない――っということは、男性が居ないということになる。そのこともあってか、星は自分が世間の常識からずれているのだと感じて、ただただ頷くしかなかった。

「そ……そうですよね……」

 星はおかしいと思いつつも、その自信満々な彼女の表情に何も言えなくなり、俯きながらぶかぶかのワイシャツの裾を握りしめている。

「……ほんまはエミルに着てもらうはずやったんやけどな……」

 彼女は残念そうに小さく呟く。

「……えっ?」
「ああ、なんでもないわ! こっちの話やから気にしなくてええよ~。それよりココア飲むか? 持ってくるわ~」

 星が聞き返すと、少女は慌てて手を左右に激しく振って微笑むと、キッチンへと消えていく。そんな彼女の様子を見て、星は不思議そうに首を傾げた。

 しばらくして、扉の開く音とともにエミルが駆けて部屋の中に飛び込んできた。

「――イシェ! ごめんなさい。ちょっと狩りに時間がかかって……って星ちゃん!? あなた。なんて格好してるの!!」

 エミルはテーブルに少女と向かい合って座り、カップを持っている星の裸にワイシャツだけというとんでもない格好を見て唖然としている。

 状況が理解できず、星は不思議そうに驚いているエミルの顔を見つめ、きょとんとした表情で小首を傾げた。

 呆れるエミルに出来事の一部始終事情を説明した星は、自分の格好に恥ずかしくなり、頬を赤く染めながら、いたたまれずに俯いて指をいじっている。
 そんな星を見て、全く反省の色の見えない様子でにこにこと微笑んでいる少女を見て、エミルが大きなため息をついた。

「はぁ~。なるほどね……まったく。これは全部イシェのいたずらね……」
「ふふっ。いたずらなんてひどいわ~。うちはこの子は綺麗な黒髪やから裸エプロンよりも裸ワイシャツの方が似合いそうやと思っただけなんよ?」
「――えぇ!? でも、さっきはこれが法律で決まってるって……」

 微笑みながら手を合わせてそう告げた少女に、騙されたことに気付いた星は驚いた様子で彼女の顔を見た。
 だが、彼女は悪びれるどころか、自分がそんな発言をしたことすらすっかり忘れているのか、終始笑みを浮かべている。

 正反対の反応を見せている星達を見て、エミルはまた大きなため息を漏らす。

「はぁ……。要するに、星ちゃんはイシェに遊ばれてただけって事ね……」
「そ、そんなぁ~」

 エミルの話を聞いた星はしょんぼりしていると、少女はそんな星の顔を覗き込んできた。

「うちはイシェルってゆうん。これから仲良うしような~。星ちゃん」
「は、はい……こちらこそ仲良くしてくださいね?」

 にこにこ微笑んでいるイシェルに、少し怯えたように聞き返すと、イシェルは「もちろんやん」と星の頭を撫で回した。

 だが、星はそのイシェルの笑顔に不信感を抱く。

(なにを考えてるのか分からない人だ。私、この人苦手かも……)

 っと自分に向けて微笑みを浮かべているイシェルの顔を見つめ、星は心の中でそう呟いた。
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