オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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お風呂2

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「あ……あの……その格好……は?」
「あっ……あ、あかん!」

 星が指差しながらそう尋ねると我に返った少女は今度は顔を真っ赤に染めて、慌てた様子で素早くコマンドを操作し服を着替えた。

 今までのあられもない姿が嘘のような、桜の花びらがあしらわれた美しい紫色の着物姿に、星は思わず見惚れてしまった。
 その後、すぐに落ち着きを取り戻した彼女は、星の体を下から舐めるように見ると、星の顔を見てにっこりと微笑んだ。

「う~ん。まずはお風呂やね。ほな、行こうか~」

 少女は星の手を掴むと、強引にお風呂場へと向かって歩き出す。

「――えっ? でも……あの……」
「ええんよ? お風呂は沸かしとったから遠慮せんでも」
「いえ……あの……服が……服がぁ~」

 星は必死に替えの服がないことを言おうとしたのだが、それが彼女に伝わっていたかは謎だ。いや、絶対に伝わっていなかったと思う……。

 脱衣所に着いた星は困惑した様子で、上機嫌な様子で微笑んでいる少女の様子を窺っていた。すると、正面を向いた少女が、星の顔を真っ直ぐに見つめ。

「ほな、濡れた服は脱いで脱いで。はよ着替えんと風邪ひいてまうよ? ばんざいして、はい。ばんざ~い♪」
「えっ? あっ、は、はい。ば、ばんざ~い?」

 星はイシェルに言われるがままに、首を傾げながらも両手を上げる。その直後、少女は素早く星の上着を脱がし、今度はスカートを脱がすと、パンツを地面近くまで一気に下ろす。

 正直。その手際が良すぎて、状況を理解しようと思考していた星には全く抵抗すらできなかった。
 羞恥心から顔を真っ赤に染めて恥ずかしがる星を尻目に、その少女が星の顔を見上げた。

「ほら、足上げんと脱がせられへんよ?」
「……えっ? は、はい」
「うん。ええ子やねぇ~。ほな、服は乾かしとくから、上がったら言うてなぁ~」
「――えっ!? あ、あの……」

 彼女の手際の良さに抵抗する暇もなく。一糸まとわぬ姿にされ、少女は強引に星の背中を押すと浴室に押し込んで、笑顔で手を振ると浴室の扉を閉めた。

 もう。なんと言うか、まさに一瞬の出来事だった……。

 星は閉ざされた扉を見つめ途方に暮れると、その後、諦めたように浴室で大きなため息をつく。

「はぁ~。着替え持ってないのに……服を持って行かれちゃった」 
 
 湯気の立ち昇る浴槽を見つめ立ち尽くしていると、再び少女の声が聞こえた時、思わずびくっと体が無意識に反応してしまう。

「着替えはここに置いておくから、上がったらこれ着てなぁ~」

 星は「はい!」と返事をすると、なんだか少し嬉しくなって笑みを浮かべた。
 それは星がエミル達と出会ってから少しだけ、人とのコミュニケーションを取るのが上手くなったと感じていたからだろう。

 自慢じゃないが、星は他の人よりも対人スキルが低い。それはリアルのことが影響しているのも大きいが、本人も人と関わらなければコミュニケーション能力が必要ないと考えていたところも大きいだろう。

 現実的に言ってしまえば、対人スキルがなくても生活はできるのは事実だ。コミュニケーションは最低限の返答ができれば、後は相手が必要な時に話し掛けてきてくれるのを待っていればいい。

 その時も頷くか短い返事で殆どが解決するし。何より、相手もこちらが言葉が少ないと分かってくれば、対話を諦めて一方的に要件を告げるだけになるからだ――後は言われたことをそつなくこなしていれば、仕事でも日常でも何も支障はでないだろう。

 自慢ではないが、星は同い年の子供の中では比較的できる部類に属していた。協力しなければいけないことでも、効率よく行うことで時間は掛かるがこなせるのを知っていた。今までも、大抵のことはそうやってなんでも乗り切ってきた……。

 だが、この世界に来て人とコミュニケーションを取る楽しみを、少しずつだが分かってきた気がする。
 今回見ず知らずの少女とのコミュニケーションのやり取りができたということは、星にとって相当な自信に繋がっていた。
 
 シャワーと浴槽を交互に見ると、星は迷うことなくシャワーを手に取った。

「せっかく沸かしてあるけど……水に浸かるのはいいかな……私が入ると、お湯が汚れちゃうし……」

 何か嫌なことを思い出したのか、星は表情を曇らせると俯き加減に小さく呟いた。

 星は体の隅々まで洗い。最後にシャワーで体に付いた泡を落とすと、すぐに浴室を出る。

「確か……着替えを置いておくってあの人が……着替えって……まさかこれ!?」

 星は彼女の用意した服を見て驚愕した。
 そこには少し大きめのワイシャツ一枚が置かれているだけで、パンツなど下着の類はどこにも見当たらない。

 だが、これを着るのを拒んで、ずっと裸のままで居るわけにもいかない。

『背に腹はかえられない!』

 戸惑いながらも、星は置いてあったワイシャツを羽織ると脱衣室を出た。
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