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お風呂

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 しばらくの間、湖の岸辺で泣いていた星も少し落ち着きを取り戻したのか服の袖で涙を拭った。
 しかし、服がびしょびしょに濡れているこの状態ではあまり意味がない。

 結構な時間泣いていたが、泳げないにも拘わらず湖に落ちた恐怖から来るもので、本人は死ぬと本気で思ったからに他ならない。
 涙でぐしょぐしょになった顔が今度は服が吸い込んだ水でびしょびしょに濡れる。

「うぅ……ひぐっ……もう、中までびしょびしょ……」

 星は濡れた体に張り付く服を伸ばしながら、小さな声でぼそっと呟く。
 その時、ふと視界に地面に転がっている苔と草に覆われた剣が入ってきた。

 星はその剣を掴むと突然剣全体が輝き出し、苔と草のない綺麗なロングソードが目の前に現れた。
 黄金の剣に見るからに高価な装飾が施され、柄の先には赤い宝石が埋まっている。

「ほう、良い剣だな。主!」
「むぅ~」

 横からひょっこりと視界に入ってきたレイニールを、星が睨みつける。
 その様子から、星は何も言わずに突然小さな石の上に落とされ、湖に落ちたことを根に持っているのだろう。

 だが、泳げない星にとって、あのレイニールの行動はいささか軽率だったのも事実。
 星としては、こればかりは意地でも許したくない。まあ、最悪の場合は死んでいた可能性もあるわけだから無理もない。

「いきなり放して悪かったのじゃ……」

 レイニールは申し訳なさそうにしゅんとすると、ゆっくりと地面に着地した。

 重い足取りでペタペタと地面を歩くと、明後日の方向を向いて呟く。

「……今から言うのは独り言だから聞きたくなかったら、聞き流してくれていい。剣を装備してコマンドの装備から、武器ステータスを確認できる。その後、良い物だったら装備すればいい。主の体に合うように調整されるから、今の剣のない鞘で大丈夫なはずじゃ……」
「……そうなんだ」

 星はレイニールの独り言を聞いて、手に握られた剣を見つめた。
 レイニールの言った通りにコマンドから剣のステータスを確認してみると、全てのステータスが【?】と表示されている。

 装備した剣は星の身長に合わせて縮み。先程までは【?】表示だった名前とステータスは、何もかもが数字の羅列で表示されていて、どういう武器なのかさえ分からなかった。だが、不思議なことに名前の横には【使用者 星】とだけ表示されている。

 星はそれを不思議に思い。レイニールに聞こうと向き返ると、レイニールはそのままトコトコと離れた場所に歩いていくと、その体が突如金色に光り輝いた。

 すると、レイニールの体は見る見るうちに巨大化し、がしゃどくろと戦った時の姿に戻る。

「主、我輩の背中に乗れ。そうなったのは我輩のせいだ――城まで送ろう……」
「うん。ありがとう……レイ」

 そう言うと星を頭に乗せたレイニールは、大きな翼を羽ばたかせながら空へと飛び上がった。

 星は手に握られた謎の武器に視線を落とし。

(きっと、そのうちにちゃんと表示されるようになるよね……)

 自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、レイニールの背中にしっかりと座った。
 空に舞い上がったレイニールはできるだけゆっくり地上付近を飛んでいく。

 それは服が濡れた星が少しでも体を冷やさないようにというレイニールなりの配慮だったのかもしれない。
 案外、城の近くまで来ていたようで少し飛ぶと、城がレイニールの視界に入ってきた。

「主、城が見えたぞ!」
「……うん。ちょっと寒い……レイ、もう少しゆっくり……」
「すまんがこれ以上は無理じゃ、落っこちてしまう……」
「……そう、分かった……がまんする」

 星はそう呟くと、震える体を丸めると両手で冷えた体を擦った。

 レイニールは城の前に着陸すると、頭を地面に着け星を地面に下ろし、いつもの小さい姿に戻る。
 目の前で震えている星を見て、心配そうに口を開いた。

「――大丈夫か? 主、すまなかった。我輩のせいで……」
「……ううん。レイは悪くない。石の上で暴れた私が悪いの……ごめんね?」

 そう星が謝ると、レイニールは手の平を返したように急に強気になる。
 
「そうだな。主が替えの服を持ってなかったのが悪い!」

 レイニールはそう言うと、星はしょんぼりとして「ごめんなさい」と謝る。

 その後、星の服を手で掴むと、レイニールは星を宙に持ち上げた。

「えっ!? レイ、なにをするの?」
「なにって、このまま城の中に主を運んで行くに決まってるのじゃ。他にこうやって持ち上げる意味などないだろう?」

 レイニールは有無を言わさずに星を運んで城の中へと入った。

 星達が部屋の前に着くと、レイニールは星を地面に下ろし部屋の扉を開いた。すると、中から聞いたことのない声が返ってくる。

「は~い。エミルおかえりなさい。ご飯にしはる? お風呂にしはる? それとも……う・ち?」
「「…………」」

 小走りで目の前に突然現れた見知らぬ少女の言葉に、星とレイニールは無言のままどう反応すればいいのか分からず、その場に立ち尽くしている。

 少女は薄い紫色の長い髪をしていて、エミルと同じ綺麗な青い瞳。そして髪には桜の髪飾りを付けていた。
 雰囲気としては、柔らかい感じの優しそうな印象を受けたが、そんなことはこの際どうでも良かった。

 一番の問題は彼女の身に着けていた服だ。星達は顔を真っ赤にしながら彼女を見つめていた。

 いや、もはや服と呼べる代物ではない。何故なら、彼女は裸に白いエプロン姿という星が今まで生きてきて、一度も見たことのないような刺激的な格好で、ドアノブを掴んで顔面蒼白のままで固まっている。
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