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一難去ってまた一難6
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それががしゃどくろを倒したことが理由なのか、何かは分からないものの、少なくとも星とエリエ絡みではないことは決定している。
普通に考えて、何かサプライズを考えているならその本人に準備を手伝わせるわけがないからだ。
「ほら。2人とも行くわよー!!」
エミルは2人に微笑むと「頑張れば美味しい料理が食べれるわよ~」と自信たっぷりに言うと、両手に持った剣を構えブルアバイソンの群れに飛び込んでいった。
「……って、エミル姉料理できないじゃん」
「……そうですね」
2人はエミルに聞こえない様に言うと、お互いに思い出すところがあるのか、憂鬱な気持ちになりながらその後に続く。
結局それから数時間にわたり、大きな牛を黙々と狩り続けた。
星も頑張ったが、殆ど頭上のレイニールの指示のもとで逃げ回っていた記憶しかない。
「はぁ……はぁ……もう。動けない……」
「はぁ、はぁ……もう私も無理~」
星とエリエは汗だくになりながらその場に力無く座り込むと、空を見上げて弱音を吐いた。
2人のそんな様子を見ていたエミルは腰に手を当てると、呆れた様子でため息をつく2人と違い、エミルは汗1つかかずに涼しい顔で立っている。
「はぁ~。星ちゃんはともかくエリーはもっとシャキッとしなさい! そんな事じゃデイビッドに嫌われるわよ?」
「うえ~、エミル姉厳しい。それに、こんなにたくさん肉集めてどうするのさ!?」
エリエは自分達の後ろに山積みにされた肉の山を指差した。
エミルはにこっと微笑むと「後で分かるわよ」っと言ってコマンドを操作し、アイテムバッグを取り出すと、その肉をその中へと移していく。
アイテムバッグとは持ちきれなくなったアイテムなどを簡易的に入れるアイテムのことで、食材などの生産系のアイテムを大量に持ち運ぶ際に、所有アイテム内を圧迫しない為の道具の事である。だが、それほど珍しいものではない。普段からお菓子作りが趣味のエリエも回復アイテムを持たずに、このアイテムバッグと調理済みのお菓子でインベントリがパンパンになっている為だ――。
「それにどうしてエミル姉はそんなにごきげんなの? そのモチベーションの高さはちょっと変だよ?」
「ふふふっ。さっきメッセージが残っててね。今日の夜にイシェが来るのよ。だから食材をたくさん集めておかないとでしょ?」
「ほんとに!? わーい! なら今日はイシェルさんの手料理が食べられるの!?」
エリエは両手を上げて喜んでいる。その様子を見ていた星は、ただただ理解できずに首を傾げていた。
そんな星に気が付いたのかエミルが口を開く。
「ああ、星ちゃんはイシェを知らなかったわね。イシェルは私の現実での友達なのよ」
「……そうなんですか?」
「そう。イシェルさんは料理は凄く上手でね。きっと美味しい物を作ってくれるよ?」
星はそれを聞いて少しほっとした顔を見せる。
おそらく。星はエミルが料理を作らないという事実を聞いて安心したのか、胸に手を当て「ふぅ~」と息を吐いた。
「……なんだか星ちゃん嬉しそうね」
その様子を見たエミルが耳元で不満そうな声を上げる。
それを聞いた星はビクッと驚き身を強張らせると、慌てて両手を振って否定する。
3人は街の入り口に戻ると、エミルの元にメッセージが届いた。
「――グッドタイミングね! デイビッドからよ。準備ができたからエリーを呼んできてほしいって」
「場所は!?」
「街の時計台の前で待ってるみたいよ?」
「分かった。すぐに行くって伝えておいて!」
エリエはそう告げると、足早に時計台の方向へと歩き出した。
何だかんだで、エリエもデイビッドのことを気にしているのだろう。それを見たエミルは微笑みを浮かべている。
「……あの時の……時計台……」
だが、星は『時計台』という言葉を聞いて、表情を曇らせている。
それもそのはずだ。星にとってあの時計台での出来事は、つい昨日のことのように思い起こせるほど鮮明に覚えていた。何故ならあの場所は、この悪夢のような現状を突き付けられた場所だったから……。
「もう、エリーったら。行きましょうか、星ちゃん」
「………」
「……星ちゃん?」
エミルが星の手を引いて歩き出そうとすると、星は無言のまま場所に留まっている。
すると、歩みを止めた星が徐にエミルの顔を見上げ、ぎこちなく微笑んだ。
「エミルさん。私、ちょっと疲れちゃったみたいで……先にお城の方に戻っていていいですか?」
「えっ? そうね。疲れちゃったわよね。ならデザートドラゴンを出しましょうか?」
エミルは星の様子から何かを悟ったのか、星に向かって優しく微笑む。
星はその申し出に、少し間を空けて口を開く。
「いえ、レイニールもいるので大丈夫です」
星はエミルの手を放して背を向けると、ゆっくりと歩き出す。
エミルはそんな星の後ろ姿を無言のまま見送ると、エリエの後を追いかけた。
エリエ達が時計台に着くと、モニターの前でデイビッドが空を見上げながら座っていた。
「デイビッド! エリーを連れてきたわよ~」
エミルがそんな彼に手を振ると、デイビッドの瞳が2人の方に向いた。
先程とは打って変わって、エリエは険しい表情になる。モニター前の扇形に広がった席に腰を下ろしていたデイビッドが、ゆっくりとその場に立ち上がる。
普通に考えて、何かサプライズを考えているならその本人に準備を手伝わせるわけがないからだ。
「ほら。2人とも行くわよー!!」
エミルは2人に微笑むと「頑張れば美味しい料理が食べれるわよ~」と自信たっぷりに言うと、両手に持った剣を構えブルアバイソンの群れに飛び込んでいった。
「……って、エミル姉料理できないじゃん」
「……そうですね」
2人はエミルに聞こえない様に言うと、お互いに思い出すところがあるのか、憂鬱な気持ちになりながらその後に続く。
結局それから数時間にわたり、大きな牛を黙々と狩り続けた。
星も頑張ったが、殆ど頭上のレイニールの指示のもとで逃げ回っていた記憶しかない。
「はぁ……はぁ……もう。動けない……」
「はぁ、はぁ……もう私も無理~」
星とエリエは汗だくになりながらその場に力無く座り込むと、空を見上げて弱音を吐いた。
2人のそんな様子を見ていたエミルは腰に手を当てると、呆れた様子でため息をつく2人と違い、エミルは汗1つかかずに涼しい顔で立っている。
「はぁ~。星ちゃんはともかくエリーはもっとシャキッとしなさい! そんな事じゃデイビッドに嫌われるわよ?」
「うえ~、エミル姉厳しい。それに、こんなにたくさん肉集めてどうするのさ!?」
エリエは自分達の後ろに山積みにされた肉の山を指差した。
エミルはにこっと微笑むと「後で分かるわよ」っと言ってコマンドを操作し、アイテムバッグを取り出すと、その肉をその中へと移していく。
アイテムバッグとは持ちきれなくなったアイテムなどを簡易的に入れるアイテムのことで、食材などの生産系のアイテムを大量に持ち運ぶ際に、所有アイテム内を圧迫しない為の道具の事である。だが、それほど珍しいものではない。普段からお菓子作りが趣味のエリエも回復アイテムを持たずに、このアイテムバッグと調理済みのお菓子でインベントリがパンパンになっている為だ――。
「それにどうしてエミル姉はそんなにごきげんなの? そのモチベーションの高さはちょっと変だよ?」
「ふふふっ。さっきメッセージが残っててね。今日の夜にイシェが来るのよ。だから食材をたくさん集めておかないとでしょ?」
「ほんとに!? わーい! なら今日はイシェルさんの手料理が食べられるの!?」
エリエは両手を上げて喜んでいる。その様子を見ていた星は、ただただ理解できずに首を傾げていた。
そんな星に気が付いたのかエミルが口を開く。
「ああ、星ちゃんはイシェを知らなかったわね。イシェルは私の現実での友達なのよ」
「……そうなんですか?」
「そう。イシェルさんは料理は凄く上手でね。きっと美味しい物を作ってくれるよ?」
星はそれを聞いて少しほっとした顔を見せる。
おそらく。星はエミルが料理を作らないという事実を聞いて安心したのか、胸に手を当て「ふぅ~」と息を吐いた。
「……なんだか星ちゃん嬉しそうね」
その様子を見たエミルが耳元で不満そうな声を上げる。
それを聞いた星はビクッと驚き身を強張らせると、慌てて両手を振って否定する。
3人は街の入り口に戻ると、エミルの元にメッセージが届いた。
「――グッドタイミングね! デイビッドからよ。準備ができたからエリーを呼んできてほしいって」
「場所は!?」
「街の時計台の前で待ってるみたいよ?」
「分かった。すぐに行くって伝えておいて!」
エリエはそう告げると、足早に時計台の方向へと歩き出した。
何だかんだで、エリエもデイビッドのことを気にしているのだろう。それを見たエミルは微笑みを浮かべている。
「……あの時の……時計台……」
だが、星は『時計台』という言葉を聞いて、表情を曇らせている。
それもそのはずだ。星にとってあの時計台での出来事は、つい昨日のことのように思い起こせるほど鮮明に覚えていた。何故ならあの場所は、この悪夢のような現状を突き付けられた場所だったから……。
「もう、エリーったら。行きましょうか、星ちゃん」
「………」
「……星ちゃん?」
エミルが星の手を引いて歩き出そうとすると、星は無言のまま場所に留まっている。
すると、歩みを止めた星が徐にエミルの顔を見上げ、ぎこちなく微笑んだ。
「エミルさん。私、ちょっと疲れちゃったみたいで……先にお城の方に戻っていていいですか?」
「えっ? そうね。疲れちゃったわよね。ならデザートドラゴンを出しましょうか?」
エミルは星の様子から何かを悟ったのか、星に向かって優しく微笑む。
星はその申し出に、少し間を空けて口を開く。
「いえ、レイニールもいるので大丈夫です」
星はエミルの手を放して背を向けると、ゆっくりと歩き出す。
エミルはそんな星の後ろ姿を無言のまま見送ると、エリエの後を追いかけた。
エリエ達が時計台に着くと、モニターの前でデイビッドが空を見上げながら座っていた。
「デイビッド! エリーを連れてきたわよ~」
エミルがそんな彼に手を振ると、デイビッドの瞳が2人の方に向いた。
先程とは打って変わって、エリエは険しい表情になる。モニター前の扇形に広がった席に腰を下ろしていたデイビッドが、ゆっくりとその場に立ち上がる。
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