上 下
105 / 596

決戦21

しおりを挟む
 そんなデイビッドの表情を見て、逆にエリエが指を差して言った。

「そんな事より。デビッド先輩こそ大丈夫なの? 武器――壊れちゃったでしょ?」

 それを聞いたデイビッドは、折れた刀をアイテムの中から取り出してエリエに見せた。

「大丈夫さ。確かに壊れたが、どうやら全損扱いではないらしいしな。これなら鍛冶屋に行って直せるからな。まあ、熟練度は少し惜しいが、また稼げばいいさ!」
「……そう。でもそれ、結構前から大事にしてたでしょ?」

 デイビッドは表情を曇らせているエリエの頭をぽんっと叩くと「大丈夫だ」と親指を立てて微笑んだ。

 武器は破壊されると、一部破損、全損扱いで大きく結果が異なる。一部破損ならば、鍛冶屋に行けば再び修復も可能だが、全損となるとまるでガラスが割れて飛び散る様な消滅エフェクトが発生して武器そのものを消失してしまう。

 だが、一部破損でも安心はできない。それがデイビッドが言っていた『熟練度』だ――フリーダムには武器強化システムが存在せず。ドロップや作られた時点でその武器の能力が決まってしまう。だが、強化が全くできないわけではない。武器強化システムの代わりにあるのが熟練度システムだ。

 熟練度とは武器を使い込めば使い込むほど増えていく数値のことで――フリーダムの武器には、全て熟練度という機能が付いている。熟練度には、武器の攻撃力に最大50%までステータスを上昇させる能力があるのだ。

 表情を曇らせ、名残惜しそうに手の中の刀を見下ろしているデイビッドの方に、涙を拭いた星が一本の刀を持ってデイビッドの側まで行くと、そっと彼の方に差し出した。

 デイビッドはその刀を受け取るどころか、不思議そうな複雑そうな顔をして星の顔を見つめる。

「――星ちゃん。これはどういう事かな?」
「あ、あの……良かったら使って下さい」
「ははっ、使って下さい。って言われてもなぁ……」

 デイビッドはそれだけ言って、困った顔でその刀を見て頭を掻いている。
 すぐに受け取ってもらえるものだと思っていた星にとって、彼が受け取らないこの状況は予想していなかった。もう、どうしていいのか分からず。刀を持った両腕を前に突き出したまま、銅像の様に固まってしまっている。

 そこにエリエがやってきてその刀を見ると、驚きの声を上げた。

「なにこれ! 見たことない武器じゃん! 星、この武器どうしたの!?」
「え、えっと……さっきの敵から出た……のかな?」

 星はエリエにそう聞かれ、歯切れの悪い回答をすると小首を傾る。

 エリエはそれを聞いて「どっちなの?」と聞き返すと、星は「ごめんなさい」とぺこっと頭を下げた。その直後、エリエの視線は星からデイビッドへと移る。

「――それでデビッド先輩はどうしてこれを受け取らないの?」
「いや。受け取れないだろう……これをリアルのショップで売れば、おそらく数十万の代物だぞ?」
「……だから?」
「だからってお前……」

 デイビッドは不思議そうな表情で見上げているエリエを見て、大きくため息をついた。
 本来ならば、現金で数十万と言われて物怖じするのが普通なのだが、どうやらエリエは育ちがいいのか、数十万単位では驚きもしないらしい……。

 そのやり取りを見ていたエミルが、デイビッドに提案する。

「デイビッド。貰うのが心苦しいなら借りるって事にしたらどうかしら?」
「エミルまで……よし。分かったならこの世界から脱出できたらこの刀は君に返す。それでいいかい?」
「はい!」

 星は嬉しそうに刀を受け取ったデイビッドに向かって、にっこりと微笑み返した。

 星はドロップした刀をデイビッドに渡すと、今度はカレンの方に駆けて行って、まだ気を失ったままのカレンの顔を覗き込んだ。

「カレンさん……」

 彼女とは色々あったが、それは昨日までのこと――今は大切な仲間だ心配するのは当然だろう。

 心配そうな表情を浮かべている星の肩に手を置き、マスターが告げる。

「心配するでない。ここはゲームの中だ、HPが0にならなければ死にはせん。それよりも、お前の固有スキルはいったいなんなのだ。エミルと同じドラゴンを召喚できるものか?」

 マスターはそう尋ねると、星の出したドラゴンを見上げた。
 戦闘を終えても全く消える様子も見せない黄金のドラゴンに不思議そうに首を傾げている。

 ドラゴン使いのエミルの召喚するドラゴン達は巻物から召喚され、用が終わればスッと消えるのだが。星の召喚したドラゴンは消えるどころかしっかりとその場に留まっていた。

 その場で自分を見下ろしているドラゴンを見上げ、そのドラゴンに緊張しながら徐に話し掛ける。

「――れ、レイニール。ありがとう! あなたはこれからどうするの?」

 すると、金色のドラゴンの大きな瞳が星を見据えた。

 恐怖からビクッと体を震わせると、星の額から汗が流れた。内心『食べられるのではないのか?』などと思ったくらいだ。いや、実際に星をひとのみで飲み込めるほどの体格差はある。

 だが、レイニールは不思議そうに首を傾げ。

「――どうするって、何を言っておるのだ主。スキルで召喚されたのだ、我輩はこれからは主と一緒にいるに決っておるだろう」
「……えっ?」

 その予想だにしていなかったその返答に、星は困惑した様子で慌て出す。
 それもそうだろう。レイニールの体長は80mはある。これだけ大きいドラゴンとなるとエミルの城にも自分の家にも入らない。かと言って、雨ざらしというのも可哀想だ――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宇宙のどこかでカラスがカア ~ゆるゆる運送屋の日常~

春池 カイト
SF
一部SF、一部ファンタジー、一部おとぎ話 ともかく太陽系が舞台の、宇宙ドワーフと宇宙ヤタガラスの相棒の、 個人運送業の日常をゆるーく描きます。 基本は一話ごとで区切りがつく短編の集まりをイメージしているので、 途中からでも呼んでください。(ただし時系列は順番に流れています) カクヨムからの転載です。 向こうでは1話を短編コンテスト応募用に分けているので、タイトルは『月の向こうでカラスがカア』と 『ゆきてかえりしカラスがカア』となっています。参考までに。

処理中です...