オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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決戦16

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 慌てて、考えるのを止め、エミルは両手で手綱を握ると、ライトアーマードラゴンへと声を放つ。

「――ッ!? 回避!!」

 その声を聞いたライトアーマードラゴンは指示通りに急速に加速し、がしゃどくろの腕を紙一重でかわす。

(どうして……? 今、ヘイトはサラザさんが持ってたはずなのに……あっ! そうか、うっかりしてたわ!)

 エミルはそう思い出したように、マスターの方に目を向けた。
 そう。ヘイトをサラザが持っていたのだが、それはあくまでもマスターが攻撃を仕掛ける前の話だ――。

 マスターの拳による攻撃でターゲットが、マスターに移っていても何も不思議ではない。
 普通、AIは与えたダメージが多い敵を脅威とみなして優先的に攻撃する。そしてダメージを与えられない状態では、近い敵を脅威として優先的に攻撃するようにできている。

 マスターが倒れヘイトの優先権が切れたことで、今度は最も近くにいる敵をターゲットするように設定が移行されていたのだろう。その為、エミルを攻撃してきたというわけだ――。

(マスターが金色だった時は、HPの減少は見受けられなかった。なら『ダークネス』という技を発動した直後に減ったはず……あの技の能力は、拳に闇属性のダメージボーナスが……あっ! もしかして!?)

 エミルはなにか思い当たる節があったのか、難しい顔で考えることに集中している。
 その間もライトアーマードラゴンは、エミルの『回避』の命令を忠実に守り、度重なるがしゃどくろの攻撃を紙一重でかわしていた。

 考えた末に、エミルは一つの確証に行き着く。

 一向に減らなかったHPが若干だが減少した要因――マスターの使用したあの黒い拳の能力である闇属性のダメージボーナス――もし。エミルの考えが正しければ、マスターが戦闘できない以上、この場でがしゃどくろを倒せる人物はただ一人だけ……。

(私のこの考えがもし当たっているなら、あいつを倒せるのは私しかいない! でも、この状況じゃ……)

 エミルは神妙な面持ちで手綱を握り締めながら、攻撃のチャンスを待った。

 がしゃどくろの巨大な手から逃れるライトアーマードラゴンには、まだまだ余裕がある。そんな時、地上からエリエの怒鳴り声が聞こえてきた。

「――ちょっと、あんた何考えてるのよ!!」

 エリエは顔を真っ赤にさせながら睨みつけている。

 その視線の先には刀を握ったまま、立ち尽くしているデイビッドの姿があった。

「いくらHPを回復したって言っても、あんたの体にはダメージが残ってるのよ? 今まで長い間やってて、そんな事も分からないの!?」

 刀を杖代わりにふらつく体でゆっくりと立ち上がるデイビッドの視線は、がしゃどくろに向いていた。

「――うるさい! 味方がやられているのに黙って見ていろって言うのか!!」
「バカ! デビッドが攻撃しても、HP減るわけないでしょ!? 今までエミル姉とサラザが戦っているの見てないの!? あんたが行ってもどうしようもないでしょこのバカ!!」
「バカとはなんだ! バカとはお前はいつでも……」

 視線をエリエに向け。いつもの様にエリエを注意しようとしたデイビッドは、彼女の顔を見て何も言えなくなってしまう。
 何故なら、そこには瞳に涙を溜めたままデイビッドを睨んでいるエリエの姿があったからに他ならない。

 涙を溜めてエリエの潤んだ青い瞳から視線を逸らしたが、デイビッドは彼女の前に行くと真っ直ぐにその瞳を見つめる。

「エリエ。マスターがやられたんだ――このままじゃ全滅だ。俺も戦わないといけない……分かるだろ?」

 デイビッドはそんなエリエの肩に手を置いて、優しい口調で諭すように言った。

 だが、エリエは首を左右に振ってそれを拒んだ。

「……そんなの分かんない。マスターが勝てないのに、バカでドジなデビッドが敵うわけないじゃん!」
「……バカでもドジでも――やるしかないんだよ! そうじゃないと皆殺られる!」

 そう告げるデイビッドの炎で焼かれボロボロになった体を見て、エリエは激しく頭を振る。
 
「だめ……死んじゃうよ! ダメだってデビッド!!」

 エリエの止める声も聞かずに、徐に立ち上がったデイビッドは敵に向かって突撃していく。

 上空でがしゃどくろの攻撃を巧みにかわしている最中、エミルは敵に向かって動き出すデイビッドを見つける。しかし、その足取りは明らかに定まっていない。横から押されればすぐに倒れてしまいそうなほどふらついていた。

(――まさかあの体で!? ……デイビッド、あなた。いったいなにを考えているの……?)

 無謀とも言えるデイビッドの行動に、エミルも驚きを隠せない。だが、エミルの頭の中にはもう一つの考えが浮かんでいた。

 自分の考えを実行するには少しだけでも、停止する時間が必要だ。

(これはチャンスだわ。サラザさんも何度も攻撃しているのにいまだにダメージを与えられずにいる。ヘイトがたまらないし、私からターゲットも切り替わらない……ここはデイビッドに賭けるしかない)

 エミルは止めどなく襲う攻撃をかわすライトアーマードラゴンの背に揺られながら、がしゃどくろに向かって行くデイビッドを見つめている。

 デイビッドは歯を食いしばりながら走りギリギリまで接近すると、がしゃどくろの足首に刀を振り抜く。
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